第16話:X級冒険者の実力
法国では転移者が数名消えた事により、騒ぎになっていた。
「他の勇者を部屋に戻せ!」
「魔導師は探知系魔法を全力で使え!ポーションも惜しむな!」
「早く見つけろ!」
「冒険者ギルドにも連絡して探し出せ!」
教会の人間は持てる術を総動員していた。
(アーゼルの部屋)
バン
アーゼルは怒りのあまり、机を叩き壊す。
(「二班の神無木は他者を傷つける事を楽しんでいた…それなのに他者を逃すとは考えにくい…
私の狙いに気づいたのか?
いやそれこそあり得ない!!!」)
バン
「アーゼル様!大変です!」
教会の修道士が扉から勢いよく入ってきた。
「なんだ?!」
イラつきのあまりに演技を忘れ、素のアーゼルで対応してしまう…
「え?、あの、その…」
教団と関わりのない修道士は普段と違うアーゼルの態度に驚く。
アーゼルも修道士が驚いてることに気づき取り繕う。
「す、すまない…勇者様達の事が心配で取り乱してしまった…」
「そうですか…」ゴク
「それで何があったんだい?」
「そうでした!大変です!何もかもがこの神殿に侵入してきたのです!如何やら我々の中に裏切り者がいたようで…」
「なに…?」
プルプル
アーゼルは怒りのあまりに震えてもう一度聞く。
「アーゼル様…?」
ボッ
アーゼルを心配して近寄った修道士は一瞬のうちにして消し炭となった。
「フー、さて行くか。」
アーゼルは憂さ晴らしに修道士を消して、いつも通りの演技をしつつ状況を確認する為に自室から退出していった。
(教会の前)
「止めろ!」
「ですが…あの方は…」
ズドドン
「「「ぐわああああああ!」」」
教会の騎士達は次々に倒されていく。
「退き給え…」
槍と盾を持つ男は騎士達を退くように忠告する。
その男の眼前に一人の修道士が立ち塞がる。
「止まりなさい!いくら貴方でもこの様な行いは許されません!アーサー様!」
今、教会を襲撃しているのはX級冒険者アーサー・シールだった。
(「やはり協力者の言っていたとおり、混乱で真面な戦力がいないな…」)
「君達を傷つけるつもりはない。だが…私の前に立つならば、私は君達を押し退ける!」
(“威圧”)
氏名 アーサー・シール
種族 人族
レベル901
第一職業 騎士王
第二職業 風魔導師
称号 最年少X級冒険者
教会の修道士と騎士達は恐怖して後退りしてしまう。
そこにアーゼルが漸く現れる。
「皆んな、下がりなさい。あとは私に任せてください」
アーゼルは修道士達を下がらせる。
アーゼルが来たことによりアーサーの顔は険しくなる。
「やっときたか…不浄の王…」ボソ
「それでは聞きましょうか?今日はどのような理由でこのような狼藉を行っているのか…」
アーゼルは笑みを浮かべてアーサーに問いかける。
「それはお前自身がよく理解しているはずだ… 亡霊よ」
ピク
亡霊という言葉にアーゼルの眉が反応する。
「なんのことかわかりませんが…これ以上この神殿での狼藉をすることは看過する事はできません…やめなければ怪我では済みませんよ?」
アーゼルは恐ろしい笑みを浮かべてアーサーを牽制する。
「…」
アーサーは返答すること無く槍を構え戦闘態勢を入る。
「ふっふ」
ボッ、ボッ、ボッ
アーゼルは見下すように笑い炎の槍を三つ造り出す。
「聖なる炎で浄化してあげましょう」
バババン。
スパパン。
アーサーは炎の槍を薙ぎ払う。
アーゼルを口元に手を置く。
「はー、ふっ」
アーゼルが今度はブレスを放つ。
「!?、“衝撃弾き”!」
アーサーは辛うじてアーゼルのブレスを弾くことが出来た。
(「今のは炎魔法じゃない…龍人や龍族のブレスだった…」)
「お前一体何をしているんだ?」
アーサーは怒りの表情でアーゼルを問いただす。
アーゼルはその問いに不気味な笑みを浮かべるだけで何も答えない。
ボボボボボボ
アーゼルが今度は無数の火球を造り出す。
ドドドドドド。
アーサーは火球を払い、避け、受け止め様々な方法で火球を捌いていく。
ゴォォォォォ
アーゼルは今度はフレイムブレスを放つ。
ドン
炎は直撃してしまう。
「おぉー!」「やったのか!?」
「アーゼル様がX級冒険者を倒したぞ!」
修道士達はアーゼルの勝利に歓喜する。
しかし…
ズドン
炎の中から槍が投げられ、アーゼルの胸を打ち貫く。
「X級冒険者をナメるな…」
まだ消えぬ炎からアーサーが出て来た。
「なんて事を…」「アーゼル様が…」
修道士は今度は自分達が尊敬して止まないアーゼルが死んだことを悲しみ出す。
「あとはこれを…」
アーサーは何か札の様な物を取り出す。
そしてそのままアーゼルの方へ歩み始める。
「ふっふっふ…」
死んだと思われたアーゼルは笑い始める。
「何!」
アーサーは驚き、ジャンプして後方へ退がる。
「流石はX級冒険者…そしてこの槍…聖槍ですね、ですが無意味です。」
アーゼルは槍を引き抜き片手で槍をへし折る。
「流石アーゼル様!」「やはり光神様は我々の味方だ!」
アーゼルが生きていた事に歓喜している修道士達が殆どだったが、数人はアーゼルの人外の力に恐怖していた。
「神により加護を受けた私は元より聖なる存在…それを聖槍如きで倒す事など出来るわけがないでしょう?」
「…」ペキ
アーサーはアーゼルを無視して、自身の指輪を破壊する。
その壊れた指輪から槍が飛び出し、アーサーはその槍を手にして再び戦闘態勢に入る。
しかしその表情だけは先程と違い焦りが見られた。
「さぁ、終わりにしようか」
アーゼルは先程と比べ物にならない巨大な炎の槍を15本造り出す。
5分後…
アーサーはボロボロになっていた。
「はぁ…はぁ…ゴク」
全身が軽度の火傷に覆われ、
顔の左の一部が重度の火傷を負い、
盾は溶けて、それを持った手も火傷でくっついてしまい、
右の横っ腹が炎で抉れて、血を流す事すら許されない状態になっていた。
しかも被害はアーサーの身体だけではない…
数人の修道士が焼死体になっていた…
「よく頑張りましたね…」
アーゼルは心にも思っていない事を言う。
「ですがこれで最後です」
ボウ
アーゼルは再び巨大な炎の槍を造り出す。
「天に還りなさい」
シュン
炎の槍が放たれる。
「頼む…」ボソ
アーサーは何か願い目を閉じる。
「任された」
バン
何者かにより、炎の槍が霧散する。
「何者だ?」
アーゼルは自身の自慢のそして本気の魔法を破られた事により怪訝な顔をし始める。
バタン
アーサーは安心により緊張の糸が切れてしまう。
「ありがとう…ホノカ君…」
助けに来たにはホノカだった。