終話:真のペンドラゴン王国へ
(学園の保健室)
クーデターが収束して2日経ったがホノカは未だに眠り続けていた。
それもその筈ホノカは恩人の悲し過ぎる過去、
負担の大きい神法術の使用、
捨てきれなかった父が生きているという希望が絶たれ、
アイテムでブーストした敵との激戦、
謎の教団とその教団に別国に連れて行かれた弟、
転移者の存在と初代国王への技術提供者、
この全ての負担、ストレスが一日でホノカの心身を襲った。
周りには従魔がホノカを護衛して、ポーラも疲労でホノカの隣で寝ている。
更にそこにはシャーナも一緒にいる。
オーレンは少し離れた所で椅子に座ってホノカを見守っていた。
「ホノカ…ありがとう…僕行っていくるよ」
オーレンは何かを決意し保健室を去る。
◇
(王宮の会議室)
そこにはオーレンと第三王子以外の男系王族が今回の被害状況を確認していた。
「酷い物だな…」
ゲオルグは今回の被害に頭を悩ませていた。
「地方貴族や騎士団所属の貴族にも多大な被害が出ております。」
ホクニネは主に自身の配下の事を気にしていた。
「そうだな…まず騎士団所属の者は支援をしよう…」
ゲオルグは特に何も考えずに政策を決める。
いつもの事なので宰相や内務大臣は何も言わないし、彼らも脳筋だ。
今、此処に参加して真面なのはガルルグ、ボレアスと第二王子ブレンの3人のみとなる。
バン
「失礼します!!」
「オーレン?」
会議室の扉を勢いよく開けて入ってきたのはオーレンとヴィクトル、ヴィナタ、ヴィオラだ。
「何だ?此処はお前達のような者が来る所ではない…」
ゲオルグは「此処は強者だけの場所だ」
と遠回しに言う。
「父上」
オーレンはゲオルグを無視し「国王」ではなく「父上」呼びをする。このような事は始めてでブレンすら驚いている。
「この度、クーデターが起きた原因は父上にあります!父上…王座を退いてください!」
「今度はオーレン殿下か?!」
宰相達はまたクーデターだと囃し立てる。
「父上…父上はブロンが不正をして名だたる武人達を陥れたのを知っていたのにも何もしなかった!」
「お前にはわからない…」
「どう動けばいいのかわからないのでしょ?」
オーレンはゲオルグの話しを遮る。
これでゲオルグは怪訝な顔をする。
「ある人達に聞きました…
『陛下は武力で何とかならない事を酷く嫌う』
『あのお方は情報戦を得意としないため暗部の使い方が荒く、暗殺をしないのに暗殺者のみで結成してしまった』
『軍資金にお金を殆どかけて…他の政策を怠り…困ったら戦争でギリギリ保っているが、いつまでそれが続くか…』
と…」
「殿下!王子とはいえ不敬ですぞ!!」
ホクニネはオーレンに激昂しながら注意する。
「そもそも殿下…どこの誰に聞いたか知りませんが、そのような戯言を鵜呑みすると足下をすくわれますぞ?」
今度は宰相がオーレンを脅す。
ガチャ
再び数人が会議室に入ってくる。
「どうもどうも、その誰かさん達ですよ」
「貴方達は!?」
宰相は入ってきた人物達を見て驚く。
そこに現れたのは初老の男性で元宰相ミスト・ブルーア、シャドーナイツ元団長ゴルロージ・リバーシュ、ストデウム学園・学園長サウシャ・フジムラサキだ。
「お久しぶりです。陛下…」
ゴルロージはいつもと違い簡単に挨拶を済ませる。
ミストとサウシャはそれすらをしない。
「ゲル坊…もうお前には任せておけん…国王を辞めろ」
ミストの言葉に怒りが含まれていた。
「学園にいた時に無理矢理にでも机に縛りつければ良かった…そうすればここまで酷い事に成らずに…」
サウシャはゲオルグを呆れ、自身の教え子が大きな子供ようになってしまった事を今更後悔する。
「父上…今の会議の話を地方貴族に聞かれたら反乱が起きますよ?騎士団にも被害はありましたが、最も被害があったのは地方貴族ですよ?
数で言えば騎士団は死者20名、負傷者126名です。しかし地方貴族(私兵体も含む)は死者114名、負傷者820名ですよ?何故調べないのですか?王子である僕ですら調べる事が出来るのに何故ですか?」
オーレンはゲオルグに辛辣に自身の疑問と不満をぶつける。
そのゲオルグが憤慨して眉間に皺を寄せていた。
「ならば…聞こう…誰がこの王座につかせるつもりだ?まさか貧弱なお前ではないだろうな?」
ゲオルグがオーレンを見る目は自身の子供を見る目ではなかった。
「…違います。次の王座に就く者は…
第二王子ブレン兄上です」
オーレンは堂々した、勇ましき姿でブレンの名を呼ぶ。
「何…?」
ゲオルグは更に怪訝そうな顔になる。
「お前の差し金か?」
ゲオルグはオーレンの時より酷い目でブレンを見下す。
「…」
しかしブレンは何も応えない。
「ふん、面白い…ならばコイツが国王に相応しいか私が確かめてやろう」
ゲオルグはブレンと死闘をするつもりだ。
「父上!」「ゲル坊…」「息子を殺すつもりか!?」
ゲオルグの事を理解している4人のうちゴルロージ以外の3人がゲオルグの発言に驚愕する。
しかし…
「かしこまりました。陛下」
ブレンはそれを受け入れた。
「兄上!お辞めください!」
「オーレン…これは必要なことなんだ…」
「で、ですが…」
オーレン達はブレンを心配な顔で見つめる。
「行きましょう陛下」
(第一闘技場)
ブレンとオーレンは控室で話していた。
「兄上、これを使ってください!」
オーレンは初代国王の剣を渡そうとする。
「兄上が剣士ではないですが、これは初代国王、ご先祖様で…」
ブレンは話していえうオーレンを止めて首を横に振ってその剣を受け取らない。
「それで勝ったとして陛下は納得しないさ、陛下がそれを手にする事が…今考えらる最悪の事態だ…だからお前がそれを死守しなさい…」
「兄上…」
「行ってくるよ…オーレン」
ブレンは闘技場へと向かった。
ゲオルグはしっかりと装備を揃えてきたが、ブレンはパツパツの一般兵装備とそこらへんにありそうな棒を手にしている。
「ブレン、悪く思うな…より良い国の為だ」
ゲオルグは心が全く篭っていない言葉を述べる。
「わかっております陛下」
ブレンはしっかりとした礼をする。
「開始の合図を…」
ゲオルグはブレンを無視して開始の合図を促す。
「はっ、はじめ!!!!」
「“剣・絶技 覇王剣”」
ゲオルグは一気に距離を詰めて、ブレンに切りかかる。
「“気功術”」ボソ
ガキン
ゲオルグの渾身の一撃を棒で受け止める。
「解除…“鞭棍”」
べチン
「ぐわ」
棒は鞭の様に撓い、ゲオルグの顔面を縦に打つ。
「貴様どうやって?!」
「どうかしましたか?陛下」
「ちっ、“砲剣”」
「“薙ぎ払い”」
スパン
今度は棒は剣の衝撃を斬り裂く。
「馬鹿な」
「何がですが?」
「貴様何か不正をしているだろう?!」
ゲオルグはブレンの強さを疑う。
会場の人々も驚愕している。
「兄上どうやって…?」
「あの体型でどうやって?」
「何がどうなってるんだ?」
しかし一人だけ違う反応している物がいた。
「やっとか…馬鹿弟が…」
グレンだ。
実はグレンはブレンが強い事を知っていた。
グレンは確かに父親でありゲオルグに一番近い価値観をしていて、馬鹿だが自分より強く賢いブレンが時期国王にするべきだと考えていた。
「何を言ってるんですか…陛下
先程、侍女達が確認していたのをご自身も見ていたではありませんか?」
ゲオルグは自身の息がかかっていると思っている侍女や“鑑定”持ちに確認させていた。
勿論、ブレンは何一つ不正はしていない。
ブレンはただ強い…
氏名ブレン・ペンドラゴン
所属 ペンドラゴン王国の王族
レベル420
種族 人族
第一職業 枢機卿
第二職業 大商人
第三職業 聖棍術師
この国で最強なくらい。
「貴様が強い筈がない!そのようなだらしなく、肥え太った身体で私より強い筈がない!」
ゲオルグは再び切り掛かってくるが、棍棒で剣を落とされ、腹を突かれ、顎を打たれ、ボコボコにされ倒れる。
「ぐ…」
ゲオルグは諦めずに立ち上がろうとする。
「陛下もうお辞めください」
ブレンはそんな父を何とか諭そうとするが…
「黙れ!反逆者め!」
ブレンがゲオルグを止めれるわけがない。ブレンが止めることが出来るのならば、サウシャが、ミストが、ガルルグが既に止めていた。
「そうですか…“棍打”」
ブレンはゲオルグの一言で諦めて顎に棍棒を打ちつける。
「っか」
その一撃でゲオルグは完全に気絶する。
(学園の保健室)
ホノカはオーレンが去って1日後に目を覚ました。
「うっ…此処は?」
「お兄ちゃん!」「ご主人!」
三日間、目を覚まさなかったホノカにポーラが泣きながら抱きつく。
「ポーラ?」
「お兄ちゃ〜ん、し、死んじゃったかと思ったよ〜」
「ごめんな…お兄ちゃんは絶対にポーラを置いて死んだりしないよ…絶対に」
まだ状況を呑み込めないホノカはポーラの言葉に反応して、ポーラを抱きしめる。
「グス、お兄ちゃんのお友達にも伝えてくるね!」
ポーラは我に帰り、ホノカのお見舞いをしてくていた学園の生徒達に知らせにいった。
「タヌ太郎」
「ご主人」
ホノカはよくわからないが取り敢えずタヌ太郎を抱っこして撫で始める。
因みに他のウル四郎以外の従魔はホノカとポーラが寝ている学園を守っていた。
ウル四郎はベット下で爆睡している。
「俺はどんくらい寝てたんだ?」
ホノカはタヌ太郎と状況の確認をし始める。
「三日と7時間です」
「そんなにか…」(「ポーラが心配するわけだ…」)
「「「「ホノカ」」君」!!!!」
ポーラに連れらたヴィナタ達が来た。
「よ、おはよう」
「おはようじゃないよ!全然起きないから心配したのよ?!」
ホノカの呑気さにシューナは泣きながら怒る。
「元気そうで良かった…」
ヴィナタはシューナとは逆に安心する。
「全く心配して損したぜ」
ヴィクトルは涙目になりながら呆れる。
「本当によかった…」
ポーラと手を繋いでるヴィオラもヴィナタと同じく安心する。
「そういえば…オーレンは?」
「殿下は…」
(王宮謁見の間)
「プッ…ハッハッッハッハ」
ホノカは王宮で大爆笑していた。
「笑うな!」
「いやだって…お前のその格好…ぷっ」
「しょうがないじゃないか!僕だって急だったんだ!」
オーレンの姿はブカブカの王冠に背丈にあってないマント…
そう、オーレンはペンドラゴン王国の国王になっていた。
オーレンは最初兄のブレンに国王になってもらうつもりだったが、
ブレンは『父上を止められなかった私や兄上は国王に即位するわけにはいかない』と
グレンは『ん?ブレンがそう言ってるならそうなんだろ?』と二人とも即位を拒否した。
ペンドラゴン王国は女性も王になれオーレンに姉もいるが、既に嫁いでいたり、嫁ぎ先が決まったいた。
因みにもう一人の兄アレン・ペンドラゴンは何かの書類の裏に『興味ない』と書いて、即位を拒否。
「まぁまぁ、陛下が思っているよりお似合いですよ?」
ブレンは宰相になっていた。しかもひと回り痩せている。
「兄弟仲が良くて微笑ましいですね」
ゴルロージは財務大臣になった
軍務大臣ホクニネ以外は王宮の役人達は一新された。
ホクニネも脳筋だが優秀な男なので唯一そのままの役職だ。
「陛下そろそろ本題を」
ブレンはオーレンに本題の話を促す。
「そうだね…」
オーレンは俯いて少し思い詰めてから話出す。
「ホノカ…貴族に戻る気はあるかい?」
オーレンは前置きを省いて要点のみを話す。
「無い…」
ホノカは清々しい顔で直ぐに答えを返す。
「わかった…」
オーレンは少し悲しそうにホノカへ微笑む。
「悪いな…弟の行方がわかったかもしれないんだ…」
「わかってる…でも聞いておきたかったんだ…直ぐ発つのかい?」
「いや…本当は今すぐにでも行きたいが…挨拶回りはしないとな?」
「そうだね、これで僕の要は終わったよ。行く準備を進めていいよ」
「…あぁ」
そしてホノカは謁見の間を去っていく。
「良かったのですか?陛下」
「ゔん」
オーレンはホノカが去った直後に大粒の涙を溢す。何とか耐えようとしているがその涙は止まらない。
「これが最後のお別れじゃないのです…」
ブレンはオーレンに優しく語りかける。
「ゔん」
「見送る時は笑って見送ってあげましょう」
「ゔん」
「ですから今は存分に泣いてください」
「…ふっ、うわぁぁぁぁぁん」
その言葉でオーレンは我慢の糸が切れて泣き喚きながら別れを悲しむ。
(光神法国)
「何?ペンドラゴン王国の支部が潰された?」
男は怪訝な顔で部下を睨む。
「はい」
部下はそれに動じずに報告を続ける。
「あそこの支部長は誰だった?」
「ブロンというその国の公爵です。」
「あ〜、この私に研究を頼んできた無能か…、まぁしょうがないんじゃないか?、神より神器を与えられたとはいえ呪われた神器なのだから、無能が大義を成せるわけがない!ハッハッハ」
彼は同じ神を信仰する配下が死んだのにも関わらず高らかに笑う。
「そんな事より、あの件はどうなっている?」
彼は面白くない話から楽しみにしている話に話題を変える。
「少々難航しておりますが、来月には出来る思われます」
「そうか…そのまま続けろ」
「はっ!」
「あぁ〜、久しぶりの異世界の素材だ…楽しみだ…」
補足
・グレンがホノカをオーレンの護衛から引き抜こうとしたのは馬鹿だから
・ウル四郎は二日間何も飲み食いせずにホノカが起きるのを待って限界が来て、学園に配備された食糧の10分の1を食べて寝てしまった。
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