161「賢者キスナエレア」
帰国以来、ルリア姫とタリエル姫の朝の一日を点滴から始まる。
DNAを点滴で血管に入れ、血流に乗せて全身に回す。
これが七年間続けなければならないから大変だ。
仙術を学んできたキスナエレアは、ロンオロス王の怪我を癒すために日参の毎日。
どうやら脊髄にヒーリング魔法では治りきれないダメージと、剣の破片が残っている様子。
気の調整と学んだ治癒術を試みているけど、一朝一夕で治るものでは無さそうだ。
キスナエレアが持ち帰ったノートは、国宝として王室資料室に秘蔵された。
この功績を評価され、ルリア付き戦闘侍女から、伝道師に昇格した。
いずれは『賢者』の称号も授けられる予定になっている。
キスナエレアとしては、ルリアと離れたくなかったようで、
ちょくちょくルリアの元を訪れるのだった。
キスナエレアが昇格して戦闘侍女ではなくなったから、
後釜として、タキアが任命されている。
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「兄ちゃん」
「ニホバル兄様」
点滴の終わったルリア姫とタリエル姫は、必ずニホバル王子の所へやって来る。
「よう!」
「ノルナはいつもルリア達より、先に兄ちゃんのとこにいるー」
「ノルナ様、ずるいです」
ルリア姫がニホバル王子の将来の妃に回ったため、
ロンオロス王の後を継ぐ者はニホバル王子に決まってしまった。
そのため、後継者になるべく、家庭教師ヴェザドから、
帝王学・政治学を学ばされる事になって、部屋に缶詰にされる事が多くなった。
ニホバル王子としては、音楽のために視察に出る方が好きだったのに、
ロンオロス王は、王位をニホバル王子に譲ったら、隠居をするつもりでいる。
いつまでも体の動かない王様じゃ、どうしようもないと思っていたようだ。
平均寿命700年の魔族だが、ロンオロス王は既に500歳、あと200年の人生だ。
家庭教師ヴェザドからも、ロンオロス王の心情をクドクド言われるニホバル王子。
「え? 魔族の寿命って700年もあるの?」
ヴェザドの言葉に驚き、青褪めるノルナ姫。
嫁入りの事ばかり考えていて、寿命の差なんて考えてもいなかった。
マズイ、このままじゃ、ノルナはニホバル・ルリア・タリエルより、
先に年老いて死んでしまうじゃないか。
アマゾネスのヴァルキュリアとて人族の内、よく生きても100歳が精々だ。
かといって嫁入りを諦めるのはイヤだ、ルリア・タリエルに負けたくない。
負けず嫌いのノルナは、真剣に考えなくてはならなくなった。
「そっか、ノルナには寿命の問題があったんだ」
「うう~、ルリアァァァ~」
「落ち込まないで、ノルナ姫様、丁度良い事をタリエルは知っています」
「ホントか? タリエル」
「キスナエレアが不老不死に至るものを学んで来ています」
「不老不死だって?」
世界中の誰もが望む『不老不死』権力者なら尚更望むものだ。
伝説とも言える物だが、誰も達成した者はいない、故に噂や伝説の部類に収まっている。
ノルナが不老不死を手に入れたら、ニホバル達といつまでもいられるに違いない。
早速キスナエレアの元に直行するノルナ姫。
不老不死に至るものを学んでいる人、
魔術師とはちょっと違う気がするな。
治療士とも違うし、言うならば賢者かな。
キスナエレア氏は賢者だろう。
賢者キスナエレア氏。
ん? 同名の人かな。
ノルナはタリエルから聞いたキスナエレアの部屋に到着した。
「賢者キスナエレア様! って、あれ?」
顔見知りのキスナエレアがいた。
ルリアの侍女だった人だ。
「あら、ようこそ御出で下さいました、ノルナ姫様」
「賢者キスナエレア様って、キスナエレアさん?」
「まだ賢者の称号は承っておりません」
「でも、不老不死に至るものを学んでるって」
キスナエレアはノルナにルリア達の冒険の際に、
異世界の仙人、ノーチャの元で修行をして来た事を話すのだった。
不老不死になるという事は、生きたまま人から精霊に成り変わる事。
世界の真実を知る事、そして厳しい実践を積み重ねる事。
「人が精霊になる?」
ノルナは実感が掴めなかった。
肉体を筋力トレーニングで作り変える事は知っている。
しかし精神の力で、肉体の組成そのものを変えると言うのは初めて聞いた。
「人間にそんな事が出来るの?」
「はい、出来ます、そしてそれを成し遂げた人に私は師事したのです」
仙人になった者は、輪廻転生の理からも脱してしまうと説明した。
「輪廻転生の理?」
そんな物が在る事すら、ノルナは知らなかった。
難しい事は解らないけど、不老不死を達成しないと、
ノルナはニホバルより先に寿命が尽きる事は確実だ。
キスナエレアから、仙道を学ぶ事に決めたのだった。




