157「コロポちゃんの死」
チズシアは本来、タリエル付きの戦闘侍女なのだけど、
ここ、平和な世界ではSPするほどの危険が無い。
だから家政婦という体裁を演じていたりする。
食材の買い物や、料理、洗濯、部屋の掃除をして過ごす毎日。
先日タリエルが会社から持ち帰ったホムンクルスのコロポちゃんは、
チズシアにとって、丁度良い暇つぶしの相手になっている。
素直で従順なコロポちゃんをチズシアは気に入っていた。
「姫様、このアパートはペット禁止だけど、この子ならいつでも隠せるから安心ですね」
「そうでしょ、人形のフリしてれば気付かれないし」
「コロポちゃんは、手が届かない狭い所の掃除を、手伝ってくれるから助かります」
日中は部屋の中にチズシアしか居ないから、
下に降ろしたコロポちゃんは、よくチズシアの後をチョコチョコ着いて来る。
トイレにまで一緒に入ろうとするのは困り物だけど。
部屋の空気交換のために窓を開けておくと、
サッシの側で日向ぼっこをしている姿をよく見る。
着物が陽の光で痛まないか心配になって来る。
今度、人形用の服を買って来ようとチズシアは考えていた。
「そうね、ネットを見れば外国製の人形に、沢山の服があるから買っても良いかも」
コロポちゃんの服を買うアイデアに、タリエルもルリアも乗り気になった。
出来れば身の丈に合うような剣も装備させたら、虫退治も出来るかも。
今は割り箸を削って作った木刀しか用意出来ていない。
チズシアが時々練習するのに合わせて、コロポちゃんはその木刀を振っている。
「チズシア、これ良いでしょー」
タリエルが買ってきたのは、人形用の服と食器の数々。
椅子とテーブル、ベッドと布団も揃えて来た。
ドールハウスは大きさ的に小さいから無理だと買って来なかった。
その晩から、コロポちゃんは人形用のテーブルの上に置かれた食器に
盛り分けたおかずを食べるようになった。
ミニチュアのナイフとフォークは使い物にならないから、自作するしか無い。
「美味しそうに食べてるわね」
「姫様、大きさが丁度良いですね」
普段着になるような服や下着も多種多様だ。
ビスクドールのような服、いくつかのドレスや水着等など事欠かない。
これで着物は傷まないように着物掛けを作って掛けておけば様になるかな。
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この世界に危険は無いはずだった。
少なくとも、ルリア・タリエル・チズシアに命の危険を与え得る者はいない。
しかし、人形サイズのコロポちゃんは別だった。
事故が起こるまでは、誰もその可能性に気が付かなかった。
いつものように空気交換のために空けられた窓。
その窓のサッシに寄り掛かって日向ぼっこをするコロポちゃん。
突如、彼女に襲い掛かる者があった。
襲い掛かってきたカラスの足に、コロポちゃんは鷲掴みにされ連れ去られた。
余りにも一瞬の出来事だった。
「ぎゃー」
小さな悲鳴に、振り返ったチズシアが見た物は、
ベランダから飛び去るカラスの姿。
窓辺にコロポちゃんの姿が無い。
駆け寄るチズシアだが、カラスは既に逃げ去った後。
カラスを追うにしても、飛び移れる屋根は遠い。
すかさず魔法で追撃しても、空中を虚しく穿つだけだった。
翼の無いチズシアには追う事も出来ない。
緊急事態の報告はルリア達の所に届く。
その一報にルリアもタリエルも驚いた。
「え! コロポちゃんがカラスに攫われた!」
血の気が引く思いだった。
至急に会社を出てアパートに向かうが、
電車通勤の二人は時間がかかる。
「コロポちゃん……」
やがて合流したルリア・タリエル・チズシアは、協力してカラスの巣を探すが、
何処にカラスの巣があるのか解らない状態だ。
しばらくアパートの周りを探したけど、何の痕跡も見つけられなかった。
コロポちゃんの服だけが見つかったのは、三日の後の事だった。
カラスの巣で食い荒らされ、地上に落ちた肉片は、ネコに食われてしまった様子。
血と泥に汚れた服が、ゴミと共に道路の隅に見つかった。
カラスにとって、彼女は野鼠と変わらない餌に見えたのだろう。
コロポちゃんはもう生きていない。
「コロポちゃん……」
ルリアもタリエルもチズシアも涙を流しながら、遺品の服を洗って小箱に収める三人。
もう一度ホムンクルスを創ろうという気持ちにタリエルはなれなかった。
部屋にある日本人形を見ると、コロポちゃんを思い出して辛くなる。
タリエルは荷物の中に、遺品と日本人形を仕舞い込んでしまった。




