154「vs悪霊&荼枳尼天」
「部屋の外に出て対応するにも、周りが家だらけってのは良く無いね」
シレラはアパート周辺100mを異界に移した。
これでアパートに群がっていた悪霊は丸ごと閉鎖空間に隔離される。
後は他の住人が出て来ないように、更に結界を被せる。
「はわわわ、結界とか、異界移転なんて本物を始めて見ました」
周囲の風景が変わった事に驚く藤田さん。
どうせ後で記憶を弄るんだろうけど、親切に説明するピルアーナ。
「じゃあ、行こうか」
ピルアーナ達は部屋の外に出て、キツネの悪霊達を迎え撃つ。
キツネ達は、涎を垂らしながら舌なめずりをする。
大きく裂けた口を開き、慇懃に笑みを浮かべ始めた。
「獲物が出て来たぜ」
ピルアーナは襲い掛かって来るキツネの牙を、
ヒラリヒラリと身を交し、全ての攻撃を回避した。
手や体に触るキツネをウサギに変えていく。
「な、何だ? この女は、俺達が見えているのか」
ウサギに変えられたキツネには、ほとんど攻撃力は無い。
人を食い千切るほど口は開かない、短い足じゃ飛び掛るに足り無すぎる。
吼えて威嚇しようにも、ウサギは声が出ないし、迫力が無い。
「なんと厄介な奴、皆で一度に掛かれ!」
一斉攻撃もピルアーナには無駄に終る。
密度を高めた体は、キツネ達を弾き飛ばし、牙は食い込めない。
鉄壁の防御を崩せない上、キツネの仲間は、どんどんウサギに変えられて行く。
「な、何なんですか、あの人は、あんな魔法あるんですかー」
ピルアーナの活躍に驚愕し、呆れる藤田さん。
悪霊ギツネをウサギに変える除霊師とか、退魔師なんて聞いた事が無い。
格好良く剣で斬り払うとか、術で撃退するとかが普通でしょうに。
ピルアーナさんは、何とファンシーな術を使うのか。
やがて前衛の弱い悪霊ギツネは一掃され、
次に控えるレベルの高いのも出てくる様になった。
残念ながら、レベルが上がっても、ピルアーナには影響は無い。
中堅どころの悪霊ギツネも、次々にウサギに変えられ次第に一掃され始める。
「私、あんな風に悪霊と戦える人って始めて見ました、魔除けが要らない訳だ」
開いた口が塞がらない藤田さん、
更に上級の悪霊ギツネには、ピルアーナとの戦力差を見抜く者もいる。
「駄目だ、このままじゃ全滅だ、ダキニ様を呼べ、ダキニ様ーー」
「神の力なら、あの女も敵うまい」
やがて戦いの場に血生臭い風が吹き、どす黒い雰囲気に塗りつぶされて行く。
「誰ぞ、我が眷族に危害を与える者は」
悪霊ギツネの呼びかけに応え、荼枳尼天がやって来た。
お稲荷様と祀られている神の顔じゃない。
正真正銘、血に飢えた悪鬼羅刹の顔になっている。
「やはり来たね」
神が来たからには、ここからはシレラたちの出番になる。
強い光に包まれ、キラキラ光る光の中から1柱の女神が顕現する。
三面十臂の戦女神、チャンディー・ヴィカラーラだ。
「ええー、あの人達が……、あれは一体……」
もはや言葉が無い藤田さん。
「ダーキニー、手下を引かせ、私の話を聞け」
「何? 私に偉そうな口を聞くお前は何者か」
「私を知らないのか」
チャンディーはダーキニーに話し合いを持ちかけた。
ダーキニーが言うには、祠に、異世界の女神の手の者が礼も無しに訪れた事に
眷族である悪霊ギツネが、怒って後を付けて来たと言う。
神罰を与えるから、ルリアたちを差し出せとも要求する。
「ダーキニーよ、それは出来ん、諦めよ」
「お前が私に命令する権限は無い」
毒爪を伸ばし、チャンディーに襲い掛かるダーキニー。
人が相手なら、体を守る事すら出来なかったに違いない。
鉄をも引き裂き、掠っただけでも命取りになる。
ダーキニーのそれほどの毒爪も、チャンディーには何の攻撃にもならなかった。
毒爪の攻撃は悉くチャンディーの腕に弾かれ、傷一つ付けられない。
空間を駆け巡り、隙を狙うもチャンディーの目から逃れる事も出来なかった。
腕の隙間に毒爪を滑り込ませ、脇腹を狙ったが、
その腕を掴まれ、残りの腕でへし折られた。
痛みで思わず蹲るダーキニー、すぐに十の腕で腕も体も拘束される。
ダーキニーとチャンディーでは、最初から力の拮抗にもならなかった。
「逆らうなら、もう一本の腕も折る、聞き分けが無いなら、パールヴァティーを呼ぶぞ」
「何? パールヴァティー様を? ちょ、ちょっと待て、待てって」
ダーキニーの言う事に、聞く耳を持たないチャンディー。
「パールヴァティー、来たれ!」
チャンディーの呼び掛けに応え、
上空に金色に輝く女神が顕現し、降りてくる。
「あらあら、チャンディーじゃない、久しぶり」
「パール、お前んとこの侍女が聞き分けが無くてな、勝手に成敗する訳にも行かないし」
「まあ、勝手に成敗されても私は困りますわ」
「だから、こいつに言い聞かせて欲しいんだ」
「私は待てと言ったはずだぞ」
女神は、やれやれといった顔で了承するしか無かった。
荼枳尼天はパールヴァティーから、コッテリ叱られた。
「気持ちは解らないじゃないけれど、私のお友達の守護する人達に、手を掛けてはいけません」
女神パールヴァティーの折檻は厳しい物だった。
神といえども、上位と下位の差は、余りにも大きかった。
ウサギに変えられた手下の前で、面目を失うほどビシビシやられ、
恐ろしい鬼神と思われた荼枳尼天は、頭を抱えて涙目になっている。
「ええ~と、私は何を目撃したんでしょう」
神話級の神々の戦いを見た筈の藤田さんは愕然としている。
この後、タリマから智の迷宮を掛けられ、
今の戦いの記憶は、辿り着けない場所に仕舞い込まれる事になる。




