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8.「ありがとう」


―ねぇ、○○の好きな人って誰?



一年生の時、そうあの人に訊いたことがあった。


このとき、あの人は何て答えたっけ…。



きっと、何も答えずに、いつものように黙り込んでたね―。









前に、進めない。


思い出が、多すぎる。


涙が、足りない。


一万回涙流せば、

あの人のこと

忘れられる気がしてた。


でも、きっと一万回目の涙のあとを、一万一回目の涙はすぐに伝う―。




あの人を好きになって、

あたしは人を

たくさん傷つけた。


あたしの無神経な行動は、いつも人を痛めつけた。



その戒めに、手首の傷で人を遠ざけようとしてたのかもしれない。



誰も近づかないように、

誰も傷つけないように。



人に依存していながら、

人を拒絶しようとしてた。



そんなのできっこないって分かってたのに…。



人を好きになることを

恐れてた。


でもそれじゃあ、

何も変わらない。


変わりたい。



でも、あの人のことを

忘れることが出来ない。




結局、あたしはあの人に何を伝えたかったんだろう。


好きという気持ち?


彼女になりたいという気持ち?




違う。



友達でいたかった。


どんなかたちでも

そばにいてほしかった。



笑ってほしかった。




告白のことは、

後悔してない。



けど、あたしが一番伝えたかったのは、



「好き」

という言葉じゃない。




あたしはあの人に、

たくさん、感謝してる。


だから―。









伝えたかった言葉は、最初から分かってたはずなのに、今更、気付いた。




あたしは友達に頼んで、一通のメールをあの人に送ってもらった。













「最後の告白を

させてください。


もうひとつだけ、

伝えたいことがあります。



色んなことを教えてくれて


たくさんのワガママに

付き合ってくれて


笑ってくれて


励ましてくれて


話しかけてくれて


無視しても、

怒らないでいてくれて


告白の返事を返してくれて



たくさん、ありがとう。


今更だけど、

本当に、ありがとう。」





携帯の画面を涙で濡らしながら、一生懸命に文字を打った。






やっと、心が晴れた。





一番伝えたかった言葉は




「ありがとう」


だった。





「この三年間は失敗だった。」



ふと父の言葉が

頭を過ぎった。



―失敗なんかじゃない。


今なら、

自信を持って言える。



確かに、成功ではないかもしれない。


あたしは、リストカットに溺れてしまったし、他人もたくさん傷つけた。


でも、

失敗なんかじゃない。



何も知らなかったあたしが、人を愛することができた。


人を愛することがどういうことなのかを、知った。



臆病だったあたしが、自分の気持ちを伝える勇気を持てた。



自分勝手だったあたしが、人の痛みに気付けるようになった。



そんなこと、

父にとっては意味のないことかもしれない。


やっぱり失敗だったな、って言うかもしれない。



でも、少なくともあたしにとっては、大切な三年間だった。


大切な、

大切な宝物だった。


それは、

これからもずっと。


あの人がくれた宝だから。


親友がくれた宝だから。


たくさんの人からもらった宝だから。



失くしちゃいけない。



忘れちゃいけない。



リスカの過去も、たくさんの人を傷つけてしまった過去も全部。



思い出になっても、


もう戻れなくても、


確かにそこにあった日々だから。



あたしは、

死ぬまで一生、はなさない。










―携帯の着信音が鳴った。





震える手で携帯を開いた。



















―ありがとう(°▽°)










もう、涙は流れなかった。
















―こちらこそ、

ありがとね、







幸せな日々を―。


「最後の告白」は、完全にフィクションということではありません。一部実話も織りまぜてあります。青春時代の色々な感情を出来るだけリアルに描こうと努めました。ご感想など頂けると嬉しいです。最後までこのような駄文に付き合って下さり本当にありがとうございました。

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