私と恋慕と
金メダルよりも、銀メダルの方が好きだった。
強がりや言い訳ではない。
私の一つの美学としてある、ただの戯言だ。
金を逃した者の息遣い──あと一歩届かなかった現実、決勝で敗れた選手たちの横顔に、私はいつも美しさを感じてしまう。
勝利より、悔しさのほうが輝いて見えることがある。
私はどんなスポーツでも、負けている方に肩入れしてしまう。
逆転してくれ、という思いもあるし、泥まみれでも光をまとっていく姿が好きなのだ。
あと何歩も及ばなかった、そこに美しさを感じてしまう。
だから、銀メダルには美しさがある。
ほんの少し足りなかった、その距離に。
私は同じ女性に何年も恋していた。
燃えるような恋だった。
───願いが叶うことはなく、彼女からは銀メダルが授与された。
金メダルまであと一歩及ばなかった。
人生において、決勝戦までもつれ込んだことはこれまで一度きりだ。
その時は5位だった。
諦めがついた。
今回は違う。
明確に敗北を突きつけられた。
銀メダルもそうだが、映画や小説でも、叶わない恋というのが私にとって美しさを感じる瞬間だった。
それを、体感した。
結婚を見据えた同棲をする、という話は、いつか私にまた傾倒してくれるかもしれない、という淡い期待を大きく打ち砕いた。
淡くて、淡すぎた、その期待は明け方の街に溶けていった。
夢を見ていた。0時過ぎに突然、遠方からあなたの住む街に行っていいか、と連絡が来た。夢だった。
今更ではあったが、笑って会えるような予感がしていた。
その別れは3時をまわった。
懐かしいタバコの匂いと一緒に、彼女は思い出の中にまた戻っていった。
振り返る度に焦がれてしまった。
彼女を乗せたタクシーは、あっという間にみるみる遠く、小さくなっていった。
追いかけたいほど焦がれていたのに、足は一歩も動かなかった。
そして彼女は振り返らなかった。
あのライトの遠ざかる速度が、私の順位を教えてくれた。
銀か、あるいは3位か。
どちらにせよ、決定的な順位だった。
そこで体感したのは、やはり一位になれなかった悔しさだった。
さらに残念なことに、ここで敗退してしまった自分にこれまでの美学は通用しなかった。
本物の悔しさが私の胸を打った。
大きな大きな一点を穿った失恋の傷は、そこにまた同じ穴を開け、さらに大きな風穴を開けた。
今回は効いた、当然、幸せを願ったが、その報告は体の節々が軋む音がした。
冗談めかして「式には呼んでくれよ」と言うと、「絶対来て」と彼女は笑った。
彼女の幸せを願えないほど未熟ではない。
ただ、願うたびに胸の中の銀メダルが少し重くなる。
彼女の晴れ姿が、幸せが、見れるのはとても幸せなことだ。
そう言い聞かせながら帰路についた。
12月の寒空の下、無風。
心が凪いでいた。
静かに小さく熱く燃えていた恋慕は、音も立てずに、静かに、ただ消えていった。
残り火が燻っているが、これもいずれ、少し風が吹けば消えるだろう───消えてくれ。
私にかけられた銀メダルは、胸を張っていい銀メダルだと思う───思いたい。
無邪気に笑う表情が好きだった。
ジョークも秀逸で、少しお茶目で、純度100%の女性である。
これまでも、きっとこれからも彼女は綺麗で、可愛くて、優しく、面白く、頑張り屋さんであり続けるのだと思う。
銀メダルをかけられた私は、金メダルを獲得した彼女のボーイフレンドに祝福の拍手を送りたい。
だって、それが美学だから。
美学のうちに───だからこそ結実した、この銀メダルを棚に飾らなければならない。
一つの大きな大きな勲章として、胸を張らなければならない。
それが、美学なのだから。




