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傷物騎士の俺が婚約破棄されたら、学園の才女に溺愛されるようになった。  作者: 左リュウ


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第19話

 予選を突破した。

 それを実感したのは、フィールドの外に出た後だ。


「俺は……勝ったのか……」


 まだあまり実感がわかない。何度も何度も落ち続けた予選が、こんなにもあっさりと。それも……俺よりも魔力が遥かに多いはずの、モーリスを倒して。


(魔力量が増えている……何が起きた……?)


 ここ最近は――リゼを助けようとして飛竜ワイバーンを斬って以来――あまり全力で剣を振る機会がなかったから、気づかなかった。


 だが、なぜ?

 どうして?


 魔力量が増えること自体はあるだろう。

 だがここまで急に、魔力量が増えることなど、普通はあり得ない。

 何か特別なことでもない限り――――……。


『これを飲めば、せんせに魔力が戻るって言えば……どうする?』


 …………ふと。


 記憶の片隅を過ったのは、甘いキスの記憶。

 リゼが舌で渡してきた、苦い丸薬の味。


(まさか…………あの丸薬くすりは、本当に……?)


 てっきり、キスをするための口実だと思っていた。

 俺が彼女に溺れてもいいようにするための、大義名分だと。


 だが、魔力を増やす丸薬くすりなんて聞いたこともない。

 そんな都合の良いものを果たして作り出すことなど出来るのだろうか。

 彼女は『万術』の名を持つ魔女。規格外であることは間違いないが……それにしても……。


「…………いや。今は、どうでもいいか」


 きっと、見守ってくれていたであろう、彼女の姿を探す。

 フィールドを抜け出して、選手用の通路へと出て……。

 リゼの姿を目で探す。走り、足で探す。


 今はただ、彼女と喜びを分かち合いたかった。

 感謝を捧げたかった。

 俺が立ち直ることが出来たのは彼女のおかげだ。

 この勝利も、リゼとの日々がもたらしてくれたものだと思っている。


 何よりも――――恋人である彼女に、報告しに行きたいというのは、自然なことだ。


「…………いた」


 廊下の柱の陰に彼女はいた。きらきらと光る、長く美しい金色の髪を、見逃すはずもない。


「リゼ――――」


 声をかけようとして……発声が途切れた。

 彼女は一人ではなかった。傍には、誰かがいる……。

 銀色の髪を持つ、氷のように冷たくも美しい顔立ちの少年だ。

 身に着けているのは……騎士団の制服か。


「……………………っ」


 声をかけることが躊躇われた。

 俺の目から見ても二人が……あまりにも絵になる、お似合いの二人のように見えてしまったのだ。


 物語の中に出てくるような、姫と騎士のようだ。

 少なくとも彼の顔に傷はない。俺のような……傷は。


 リゼは……どう思っているのだろうか。あの騎士の少年は、俺でさえも思わず見とれてしまうほどに美しい顔立ちをしている。


 彼を見た後に、俺のこの、傷を見たら……。

 そしてもし仮に、彼がリゼに好意を寄せていたのだとしたら……。


(――――――――っ……!!)


 嫌な想像ばかりしてしまう。

 先ほどまで浸っていた勝利の余韻も、弾む気持ちも、全てが吹き飛んだ。

 心臓に這うような冷たい、形の無い何かを振り払うように、床を蹴った。


「……せんせ?」


 俺の気配に気づいたのだろう。リゼがこちらを振り返り、驚いたような顔をしている。


(……なぜ驚くんだ。恋人に勝利を報告しに行くのは当然だろう? 俺が君を探しに来たことが、そんなにも……都合が悪いのか?)


 その、後ろめたさのあるような表情に、胸がずきんと痛む。

 情けない。みっともない。そう思いながらも、嫌な想像が止められない。


「あなたは…………」


「すまないが、後にしてくれないか」


「どうしたの――――あっ」


 騎士の少年が何かを言いかけたが、半ば強引に無視して、リゼの手を掴んだ。

 もしかしたら力が少し強いのかもしれない。けれどそこに気を遣う余裕もなく、そのまま強引に彼女を引っ張り、連れ出した。


「せんせ? どうしたの?」


「………………………………」


 いつもは俺を翻弄してくるばかりのリゼが、今回ばかりは困惑していた。

 そのことに申し訳ないと思う余裕もなかった。ただ、少しでも早く、あの騎士から引き離したかった。


「せんせ、ちょっと、痛い…………」


「…………っ! す、すまない」


 リゼの声でようやく、我に返った。

 慌てて手を放すと……彼女の真っ白な新雪のような腕に、くっきりと掴んだ跡が刻まれてしまっていた。


「ごめん。本当に……強く握りすぎた」


「ううん。いいよ。せんせから痛くされるの、嫌いじゃないから」


 …………それはそれでどうなんだ。


「ね。それで、どうしたの? 様子が変だったけど」


「あ、いや…………それは……」


 自分でも上手く説明できる気がしない。

 そもそも、冷静になって考えれば、あの騎士にだって失礼なことをした。

 もしかしたら上級貴族の大切な話をしていたかもしれないのに……。

 だからこそ、説明責任というものが俺には生じている、と考えるべきだ。


「あ、そうだ。せんせ、予選突破、おめでとう」


「……見てたのか?」


「うん。当たり前でしょ?」


「だが、君はさっき、あの男と一緒にいたじゃないか」


「それは、試合が終わった後、急に捕まっちゃって……」


 と、リゼは何かに思い至ったように、目を見開いた。


「もしかして………………嫉妬してた?」


「嫉、妬…………?」


 …………そうかもしれない。

 というか、それ以外になさそうだ。


「…………そう、だな。俺は、嫉妬してたんだと思う。君を奪われたくなくて、だから……」


「ふ~~~~~~~~ん?」


 素直に白状すると、リゼがにま~っと笑う。それはもう嬉しそうに。


「ね、せんせ。これから約束してた、デートしよ?」


「今からか? だが、まだ予選が……」


「せんせは予選を突破したから、今日は試合ないでしょ? 明日は魔術科の予選だし、本選は明後日。だから、今日と明日はもう完全にフリーだよね?」


「しかし、『学内戦』の見学も授業の一つだ。サボるわけには……」


「あーあ。せんせに掴まれたとこ、痛むな~」


「………………………………」


 それを言われれば、弱い……。


「…………分かった。君に従おう」


「やった♪ じゃ、誰かに見つかる前に、早く外に出ちゃお♪」


 今にも小躍りしそうなリゼに連れられて……今度は、俺が彼女に連れられる形で……俺たちは学園の外へと向かった。


 ああ……学園を、サボってしまった。





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