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傷物騎士の俺が婚約破棄されたら、学園の才女に溺愛されるようになった。  作者: 左リュウ


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第18話 モーリス・ウォルト①

 メリアンジュ魔術学園、学園内対抗戦――――通称『学内戦』。


 その会場として使用されるのは、正式な試合にも使用される巨大なコロシアム型のフィールドだ。


 魔術への耐性を持つ特殊な加工が施されたフィールドは、生徒が全力で魔術を行使しても専用の結界によって外部への影響を遮断し、更には内部にいる生徒たちへのダメージも軽減させてくれる。


 つまり『学園最弱』の魔力を持つ一人の生徒に対して、全力で魔術を集中砲火させたとしても、問題はないということだ。


(僕を敵に回した、自分の愚かさを恨むんだな。レリク)


 この『学内戦』は騎士科と魔術科で部門が分かれており、騎士科は予選と本選で学園側が見定める項目が異なっている。


 予選の課題は、集団戦における強さ。

 無作為に選ばれた生徒八名が一斉に戦い、最後の一人が予選突破となる。


 予選Cグループには、モーリスとレリクの名が連なっていた。

 更に他の六名は全て、モーリスの息のかかった騎士科の生徒たちだった。


 予選の組み合わせは当日に決まるものだが、モーリスは学内戦の管理担当に事前に接触し、日頃の激務に対する『労い』を手渡していた。


 それによって、予選Cグループの組み合わせに自分の意志を反映させたのだ。

 息のかかった生徒たちには、あらかじめ指示は下してある。


 ――――レリクを集中攻撃しろ、と。


(やつの魔力は学園最弱。剣を使うまでもなく、魔術の集中攻撃で一発退場だ)


 フィールドから特別観覧席へと視線を送る。

 そこには既に騎士団長と、騎士団最強と名高い一番隊の面々が学内戦の様子を見学していた。


(AグループとBグループは、地味でパッとしない、低レベルの戦いだった。騎士団の方々も退屈している頃だろう。そこで、僕が華々しく圧勝を収めれば……)


 間違いなく、目立てる。騎士団の目にもとまるだろう。

 もしかするとその場でスカウトされることだってあり得る。


 対してレリクは騎士団が注目している目の前で、無様に惨敗する。

 騎士団の方々も呆れ果てて、レリクという少年は最も騎士に適性の無い凡人として映るだろう。


 騎士になるという夢が潰えた時の、レリクの表情かおを思い浮かべるだけで……口の端が歪みそうになる。


 そのレリクは、まだ会場に姿を現さない。


 まさか怖気づいて逃げ出したのか、と考えたものの……。


(……それはないな。あの真面目しか取り柄の無い凡人だ。仮に怪我をしようと、這ってでも来るだろう)


 怪我。それで連想するのは、昨夜の出来事だ。

 突如として振ってきたシャンデリアから、レリクはモーリスを庇った。

 思い出すだけで、はらわたが煮え滾りそうになる。


(僕を庇っただと? ふざけるな……! お前如きに庇われるぐらいなら、あのままシャンデリアの下敷きになっていた方がマシだったんだ……!)


 レリクが庇った時に抱いたのは、喉を搔きむしりたくなるような屈辱だ。

 いつも。いつもいつもいつも。レリク・レリックという少年は、モーリス・ウォルトにとって拭い難い屈辱を与えてくる存在だった。


「なんとか、間に合ったか……」


 開始時刻直前になって――――レリクが会場に現れた。


「フン。随分と余裕じゃないか。流石は天下のヒーロー、レリク・レリック様。予選なんて眼中にないってことかな」


「いや、そういうわけではないのだが……」


 走ってきたせいだろうか。乱れた様子の制服を慌ただしく直しながら、レリクは申し訳なさそうにしていた。その仕草もまた、気に入らない。


(うん? あれは…………何かの、跡か?)


 よく見るとレリクの首元に、何かの跡のようなものがついていた。

 そしてレリクは、何かに気付いたように、ある一点を見ている。

 視線を追ってみると――――そこにいたのは、リゼリット・フランメルクだ。


 彼女は悪戯が成功した子供のような顔をしながら、レリクの方に軽く手を振って……その白雪のような指を唇に当て、その指は自らの首に落ちる。そしてその場所は、レリクの首にある跡の場所と同じだ。


(なっ……! あの跡は、まさか…………!)


 リゼリット・フランメルクという、愛らしい妖精からはとうてい想像出来ぬ、ある行為。彼女の唇がレリクの肌に触れた。その可能性に思い至ったモーリスは、強く拳を握りしめた。


(嘘だ! あり得ない! 彼女のような可憐な女性が、レリク如きにそんな行為を…………!)


 頭を殴られたような衝撃だった。

 愛おしい無垢な妖精を汚されたような、許し難い感覚だ。


「これより予選Cグループの試合を始めます。参加する生徒たちは集まってください」


 教師の掛け声に、レリクとモーリスを含めた八名が中央に集う。

 その間もモーリスの目はレリクだけを映していた。


「あなた方の身に着けている摸擬戦用の戦闘服には、使用者のダメージを肩代わりする術式が組み込まれています。この術式の『耐久値』が『0』になった時点で、その人は退場です。また、防御術式は衝撃や痛みを完全に遮断することは出来ません。あくまでも物理的な外傷を最小限に留めることを優先したものですので、そのつもりで」


 この学園に在籍していれば耳にタコができるほどに聞いた教師の説明も、今のモーリスには入っていなかった。


 ただただ、レリクという少年に対する憎悪だけを滾らせていた。


 リゼリットは以前からモーリスが狙っていた女性だ。

 この『学内戦』が終われば、ヘンリエッタという金づるを捨てて、彼女に『学内戦優勝』の実績を引っ提げてアプローチするつもりだった。


 それを。よりにもよって、レリクに――――……。


(彼女の前で、無様に潰してやるよ……!)


 生徒それぞれが距離をとり、摸擬剣を握りしめる。

 モーリスの憎しみに染まった目は、レリクだけを捉えていた。

 早く。まだかと、試合開始の号令を出さない教師に苛立ちが募る。


「それでは、試合――――開始ッ!」


「「「『火球ファイヤーボール』!!!」」」


 ドン! ドン! ドンッ!!


 一斉に放たれた火球の群れが、レリク一人へと殺到する。

 レリクは一瞬で爆炎に包まれ、光を孕んだ真っ赤な柱が立ち上った。


「ははははははっ! ざまァ見ろ、レリク! 所詮お前はその程度なんだよ! 身の程を知れ!」


 思わず漏れ出た高笑い。無様に真っ黒こげになったレリクを眺めてやろうと、炎が晴れるのを待つ。


 されど。自然に炎が収まるよりも早く――――何かが、炎の中から飛び出してきた。


「…………は?」


 何かが炎を突っ切って飛び出してきた。

 かろうじて、それが分かったのはモーリスだけだ。

 それが分からなかった騎士科生徒の一人は、訳も分からず宙を舞っていた。


「…………っ。何が……!」


 起きたことは単純だ。

 剣の一撃を受けて、吹き飛んだ。戦闘服の耐久値は、その一撃で『0』になったらしい。耐久値の消失を示すかのように、戦闘服は白から灰色に染まっていた。


 そして、その目にもとまらぬ一撃を繰り出していたのは……。


「レリク……! だとぉ…………!」


 先ほど、文字通りの集中砲火を浴びていたはずの、レリクだ。


「レリク! 貴様、何をした!」


「……身体強化の魔術を使い、剣に魔力をまとわせ、火球を斬った。それだけだが」


「ふざけるな! 貴様の魔力量で、今の攻撃が防げるものか!」


 身体強化による体の強化。

 剣を魔力でまとわせ、魔術を斬る。

 理屈だけなら分かる。むしろそれが剣を使う騎士の基本的な戦闘スタイルだ。


 しかしそれも、十分な魔力があってこそ成り立つもの。

 生半可な、それも学園最弱の魔力量しか持たないレリクの身体強化や魔力では、あれだけの集中砲火を防げることはない。


「俺も何が何だか…………」


 なぜか、レリク本人も困惑していた。


「どうやら……俺の魔力が、増えているらしい」


「そんな……そんなことが、ありえるものか!」


 モーリスの絶叫をよそに、レリクは駆けた。

 一人、二人、三人と……瞬く間に、たった一振りで退場者を出していく。

 フィールド内を駆け巡る疾風の如く。彼は、剣を振るう。


「モーリス。悪いが……」


 五人目、六人目……もうフィールドに残っているのは、レリクとモーリスの二人だけだった。


「……圧倒させてもらうぞ」


「……っ! ふざけるなぁ!」


 身体強化の魔術を使い、モーリスもまたレリクへと切りかかる。


「お前如きが偉そうにするな! この僕を見下ろすな見下すな! 傷物如きが! この僕を――――……!」


 先の言葉が紡がれることはなかった。

 剣がモーリスの体を捉え、その衝撃に逆らうことが一切許されぬまま転がり、フィールドの壁に叩きつけられた。


「ごはっ……ぁ…………!」


 ごろごろと地面を転がったその様は、無様と表現する他なく。


「……すまない。最後の方、聞こえなかった。あとでまた聞きに行く」


 レリク・レリックはこの日、観衆や騎士団の精鋭が注目するその前で、華々しい勝利を収めた。



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