番外編・悪事身にとまる【カイリー】
ep.30『見劣り姫はお茶会の準備をする』直後の男爵令嬢カイリーのお話です。
令嬢の妄想がひどすぎて、一部事実と異なる部分があります。
男爵邸の自室にて、久しぶりに心穏やかな時を過ごす。
ここ数日、平穏とは言えない時間ばかりだった。例えば……と考えかけて慌てて首を振る。唯一落ち着ける場所で悪夢を思い出したくない。今日は何も考えずにゆっくりすると決めたのだから。
ソファーに身を預け、出入りの商人が「心を落ち着かせる効果がある」と言っていたお茶を飲む。甘い匂いが鼻腔をくすぐって、悩みがすっと消えていく。
これで、ランドルフ殿下に会えれば最高なのだけれど、今は訓練場の見学ができない。
仕方がないと諦めかけて、でもすぐに浮気をする彼が悪いのだと思い直す。
私はただお仕置きをしただけ。よくある恋人同士のじゃれ合いというものね。
「お茶のおかわりをお願い」
使用人におかわりを頼むと、使用人が手を動かしながら声をかけてきた。
「お嬢様。茶葉が少なくなったのでいつもの商人に声をかけたのですが、しばらく来られないそうです。いかがなさいますか?」
「え? どうして来られないの? 商人は信用第一でしょうに。茶葉はどのくらい残っているの?」
使用人の話を聞いて、眉間に皺が寄る。常備されている量を見越して早めに連絡しているだろうから、問題はないと思うけれど……。
「それが、昨日と今日でだいぶ減ってしまいまして、残りはもうほとんどございません」
言われてはじめて、お茶をたくさん飲んでいたことに気づく。
「そう……しばらくはお預けね」
なんでもっと早く商人を呼ばなかったのかと思いながら、淹れてもらったお茶を飲む。
すると、別の使用人が「大変です!」と慌てた様子で手紙を持ってきた。
「そんなに慌ててどうしたの? それは誰から?」
「おおおおお、お嬢様! 王家の紋章です!!」
「王家……? ああ! きっとランディ様からね! 今回はどんな熱烈な言葉をくださるのかしら!」
「いえ、それは……あっ!」
一向に渡してこない使用人に業を煮やし、奪うようにして手紙を受け取る。
ペーパーナイフでさっと封を切り、中から便せんを取り出して開いた。
「……あら? なんだか便せんが可愛らしい?」
殿方らしくない便せんに疑問を抱き、封筒に目を落とす。そして。
「ヒッ!?」
送り主の名を見たとたんに悲鳴が出た。同時に放り投げた手紙が宙を舞う。
「いけません、お嬢様! 王女殿下からのお手紙を粗末に扱うなど不敬ですよ!」
使用人が慌てて手紙を拾い、こちらに差し出してくる。う……受け取りたくない。でも、用件を把握して返事を書かなくてはならない。
怖くて仕方がなかったけれど、震えながらも再度手紙を受け取った。
恐怖を押し殺し、改めて手紙を読む。
手紙には、かなり綺麗な字で、お手本となるような文が書かれてあった。
「お嬢様、王女殿下はなんと?」
せっつかないでと思いつつ、読み進める。どうやらお茶会の誘いだったようだ。
「第三王女殿下が、私とお茶を楽しみたいとおっしゃっているわ。でも、なぜ?」
疑問しか残らない。最近、第三王女殿下によくお会いしている。遭遇率が高くて、つけ狙われているのかと疑いもした。
ただ、殿下がいるお店に私が行った時もあるので、偶然だと思う。
とはいえ、怖いものは怖い。あまりに恐ろしいから引きこもったくらいだし。
そういうわけで、私と殿下は顔見知り程度の関係だ。話をするといっても世間話。しかも当たり障りがまったくない、一般的な話題だけ。
それなのに、私とお茶を楽しみたいとはどういうことなのか? まったくわけがわからない。
でも、一男爵の娘に断るという選択肢はない。
本音を言えば、都合が悪いからとキャンセルしたいが、のちのちに響くと困る。
心は泣き叫びながら、返事には喜びの言葉を綴って送ったのだった。
自分の行ないが回りまわって返ってきた男爵令嬢でした。
これにて1章『グロリアーナ12歳編』すべて終了です。
お読みいただき、そしてブクマや評価等々していただきありがとうございました。
次回は、キリがよいところまで、もしくは完結まで書き終えてからアップしたいと思います。
それまでお待ちいただけると嬉しいです!
(テコ入れも多少すると思いますので、お含みおきいただけますと幸いです)




