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王女殿下はお忍び中です!~陰で才能を発揮していたら、大好きな騎士に気づかれました~  作者: たつきめいこ
グロリアーナ12歳

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見劣り姫と家族

 翌朝、いつものように家族で食後のお茶を楽しむ。家族全員揃っているけれど、隠す必要はないのでその場で話をきりだした。


「お父様、お話がございます」

「あらたまってどうしたんだい、リア?」


 お父様が青色の綺麗な目をこちらに向けて問うてくる。

 同時に首を傾げたため、お父様の一つに束ねた、私と同じ金色の髪が重力に従ってさらりと動いた。

 その光景を目にしながら、口を開く。


「調べたいことがあるのです。ただ私的なことですので、暗部の者には頼めません。それならいっそ自分で調べればいいと思いまして、暗部の者に技術を教わりたいのです。どうかお父様の許可をいただけませんか?」


 本気なのだと、お父様の目を見てはっきりと告げる。同じ青がしっかりと互いを捉え、逸れることはない。


「ごく一部だけが知る、隠された技術を駆使するリア。なんて神秘的なのかしら。ねえ、お父様。よろしいのでは?」


 しばし続いていたにらめっこは、横から声をかけられたことで終わりを迎えた。

 どちらからともなく声の主に視線を向ける。声の主は上の姉、ヘンリエッタ――エッタ姉様だ。


 お母様と瓜二つのエッタ姉様は、これぞ大人の女性という姿で、ひそかに私の憧れだ。

 今日も華やかで美しいとうっとりしていると、エッタ姉様が前のめり気味にお父様に迫っていた。お父様は苦笑いだ。


「父上、人払いをした王女宮なら問題ないのではないですか? それでも悩むようでしたら、ほかにも条件を付ければよいかと」


 私の望みをあと押ししてくれたのは、長兄のウィルバート――ウィル兄様。王太子の肩書もあるためか、エッタ姉様よりも現実的な意見だ。

 そんな兄様は、お父様にものすごく似ており、お父様を若くしたらこのような姿だと容易に想像できる。

 ただし容貌の話題は禁句だ。ウィル兄様は、妹のエッタ姉様よりも若く見えることをかなり気にしている。


「ふむ。ちなみにリアは何を調べたいんだい?」

「え?」


 ウィル兄様のことを考えていたらお父様に話を振られた。想定していた質問だけれども、できれば訊かないでほしかった質問だ。……だって、ねえ?


 暗部の技術を教わるのだから、素直に答えた方がいいとわかっている。

 でも、レイリー卿を上から下まで徹底的に調べたい、なんて言えるわけがない。平たく言わなくても変態行……奇行だもの。たとえそれが、百パーセント純粋な恋心からくる想いであったとしても、他者から見れば間違いなく邪念に違いない。だから言えない。


 とってもいい笑顔を作り、『訊かないで』という思いをぎゅっと詰めてお父様を見つめる。その間、数秒。すぐにエッタ姉様からの援護が入った。


「いやだわ、お父様。乙女の秘密を暴くのは美しくないですわよ」

「いや、しかしだね……」

「あなた、子供たちの可能性を潰してはだめですよ。きちんと話し合ったでしょう? それとも、リアが悪用するとでも思っているのですか?」


 にこやかな顔でお父様に注意をしたのは、王妃であるお母様だ。年齢を感じさせないくらい若くて美しい。

 性格も明るくて、側にいると元気になるけれど、やられたら倍返しの思考があるから要注意だ。


「そ、そんなことはない。だがね、暗部は秘匿された機関だから扱いが繊細なんだよ。わかるだろう? ……まあ、いくつか条件を出せば大丈夫だと思うけれど」

「はい。ありがとうございます! お父様、大好き!」


 両手をさっと合わせて、右頬の脇に持っていく。いわゆるおねだりポーズだ。完全に出遅れたポーズだけれど、お父様が嬉しそうにデレっとした顔をしているから問題ない。

 お母様はお父様を軽く肘でつつきながらも、よかったわね、と私に笑いかけてくれる。

 ウィル兄様とエッタ姉様も同じだ。下の兄と姉も見守るような優しい笑みを満面に湛えている。


 うちの家族はいつもそう。とても仲が良いし、相手の意見を真っ向から否定したりしない。

 何か問題がある時は、相手を立てながらデメリットを説いてくる。

 それでも、極力やりたいことをさせてくれるのだ。だから今の私がいる。ありがたいしみんな大好きだわ。




 だんらんの時間も終わり、護衛を連れて自室に戻る。

 小鳥をかたどった可愛らしい呼び鈴を鳴らすと、澄んだ鈴の音のあとにヘラとメイナードがやってきた。


「姫様おかえりなさいませ。いかがでしたか?」


 許可はもらえたのかと心配そうに見てくる二人に、にっこり笑って見せる。

 それだけで結果はわかるけれど、ほかにもいろいろ伝えたい。


「お母様や兄様たちの援護があったから、思ったよりもすんなりと許可をいただけたわ。でもね、条件があるの」


 お父様から出された条件は六つ。

『人目に触れない場所で習うこと』『及第点になるまでは実践しないこと』『暗部の存在を人に話してはならないこと』『暗部の者の指示に従うこと』『他人に迷惑をかけないこと』『怪我に注意すること』。

 筆頭専属護衛など例外はあるものの、暗部はごく一部の者だけが知る機関だから、条件は秘匿することに関してのものが多かった。


 ヘラたちにも条件を知ってもらい、すぐに学べるよう準備を進めてもらう。

 メイナードは自分以外の護衛を下げ、ヘラの指示で王女宮の周りを暗部の者たちで固める。


 準備が整ったあとにフィスを呼べば、いつの間にか私の側で跪いていた。


「待っていたわ。約束どおり教えてくれるわね?」

「はい。お約束をいたしましたゆえ、殿下に我ら暗部の諜報技術、『調べるための技』をお教えいたします」

「……なんて?」


 聞き間違いだろうか。とてつもなくよろしくない名称だった気がする。

 私の動揺をよそに、再びフィスがその名を口にした。


「暗部の諜報技術、『調べるための技』をお教えいたします、と申し上げましたが?」

「……『調べるための技』?」

「さようにございます」


 頬が激しく引きつる。もっといい名はつけられなかったのだろうか?

 思いきり問い詰めたいけれど、それよりももっと先にすべき課題がある。名称を変える、という重要な課題だ。

 私が教えを乞う間、必ずその名を口にする。何度も、何十回も。そうしたらどうなるか。決まっている。私の心が絶対に病む。レイリー卿のことを知りたいという強い思いがあっても、それとこれとは別のものだ。早急に変えなくてはならない。


 習う前の私でさえ憂えがあるのに、暗部の者たちはその名でよくやってきたものだわ。感心しながらヘラとフィスを見る。あ、目が死んでいる……。


「あなたたち、これからもその名でやっていけるの?」

「……」


 ヘラとフィスの返事はない。答えを言っているようなものだ。


「私はね、少し長いと思うの。もっと短くして『調技(ちょうぎ)』、とするのはどうかしら? ……だめ?」


 私が提案した瞬間、二人の目が輝いた。やはり変えたかったのだろう。これで私も抵抗なく覚えられそうだわ。

 一人満足していると、あちこちから拍手の音が聞こえてきた。


 メイナードが驚いたような顔で辺りを見回す。つられて私も見回すが、人の姿はどこにもなかった。きっと彼ら(・・)ね。


 困ったものだと何もない周囲を見る。直後、フィスがすっと立ち上がった。


「では、ただちに変更してまいります!」


 フィスが嬉しそうに部屋の入り口に向かおうとする。

 慌ててフィスの服の裾を掴み、引き留めた。


「ま、待って! それはあとからにして!! 私に技術を教えてくれるのでしょう!?」


 絶対に離すまいとフィスの服を握りしめると、フィスが「そうでした」と動きを止めた。

 危ない。教えてもらう前に立ち去られるところだったわ。この調子だと前途多難そうで不安だわ……。

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