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恋に落ちた見劣り姫は秘された才能を開花させる  作者: たつき めいこ


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2/14

見劣り姫は憧れの騎士のことが知りたい

 いまだ歓声と黄色い声が続いている。

 さらに、メイナードとヘラが盾になったことで、私の魂の叫びは他人に聞かれることはなかった。扇子で口元を隠していたのも一因として大きい。


 もしこれが外だったら、木に止まっている鳥がいっせいに飛び立っていただろう。そのくらい、私の叫びは力強かった。

 恋の力とはすごいものだ。眠っていた力が呼び起こされた気分だわ。


「もう、なんなのかしらあの笑み! 心臓が止まるかと思ったわ。かっこよすぎる!! 素敵!」


 姿を思い浮かべるだけで、胸がドキドキする。


 髪は青みがかった銀色だ。まっすぐ胸元まで伸びており、後ろで一つに束ねて前に流している。

 遠く離れているから断定はできないが、目の色は青みが強い緑だろうか。青々とした輝きが美しい。

 わずかな狂いもないほどに整った顔は、神秘という言葉がぴったりだ。少し近寄りがたさもあるが、笑った顔はとてつもなく心臓に悪かった。

 体格はメイナードのようながっしりしたものではない。だが、筋肉はほどよくついていて、背がちょっと高いと思う。歳は二十過ぎくらい。

 どれだけ控えめに言っても神。全身が光っているようで、本当にかっこいい。


 覚えた語彙が吹き飛ぶくらい興奮しているのはわかっている。

 だが、思いの丈を叫んで記憶をたどっていたことで、気持ちがだいぶ落ち着いた。王女としてのなけなしの矜持も役に立ったと思われる。


 その後もマナー授業で出された課題を危うげなくこなし、自室に戻った。

 そのままソファーに背中から倒れ込む。頭に浮かぶのは先ほどの笑みだ。


「はあ、素敵。あの顔で『殿下はなんて素晴らしいのだろうか。突出したものはありませんが、劣っているものもありません』とか言われたいわ」


 一人称はおろか、口調も、まして声すらも知らない。けれど私の妄想力は逞しく、過不足なくいい具合に補完してくれる。あの青銀の兵士は、現実も想像上もとてもかっこいい。


「さようですか……」


 壁際に立っているヘラ目が光を失っていた。

 彼女の目はちょくちょく光が失せるため、気にせずに話を続ける。


「『姉君には劣りますが、それでも十分愛らしいです』なんていうのもいいわよね!」

「妄想甚だしいですが、ご自身の評価だけはやけにお厳しいのですね」


 呆れ気味のヘラに、笑顔で答える。


「もちろんよ! 王族たるもの、自分を俯瞰し、律しなければいけないわ。暴君は絶対にだめよ。あの方に恥じない自分でありたいわ。……あら? そういえば、あの方のお名前はなんていうのかしら?」


 今さらだけれど、青銀の兵士のことを何一つ知らないと気づいた。のぼせてしまってすっかり抜け落ちていたわ。


「イライアス・レイリーですよ。彼は騎士隊に所属しています」


 ヘラの脇で、我関せずといった様子で佇んでいたメイナードが教えてくれた。彫刻みたいになっていたからすっかり存在を忘れていたわ……。


「レイリー、というと公爵家の?」

「はい。次男だそうで、王太子殿下と同じく二十二歳だそうです。家族構成は父公爵に母である夫人、跡継ぎの兄と衛士の弟ですね。前公爵夫妻は領地にいるようです」


 私の質問に答えたのはヘラだ。彼女の情報力に舌を巻く。


「まあ、すごいわ、ヘラ。なんでも知っているのね。ありがとう」

「とんでもないことでございます。このくらいなら姫様にも簡単に探れますよ。ほかにも、学業は優良、まじめで努力家。脇目も振らずに剣の腕を磨いていた、などの証言もありますね」

「レイリー卿は素晴らしい才覚をお持ちなのね。騎士なのもうなずけるわ」


 軍に入隊後は誰しもが見習いで、衛士を経て、騎士になる。騎士になるには難しい試験を突破しなければならない。筆記に加えて実技で馬を完璧に乗りこなさなくてはならず、受かる者は年にごくわずか。でも、受かれば騎士爵を得られる。だから衛士たちは騎士を目指して日々頑張っているそうだ(騎士隊長談)。

 ただ、一つ疑問が残る。


「レイリー卿は今も懸命に鍛錬に励んでいらっしゃるのよね。なぜかしら?」


 もう騎士になれたのだ。衛士たちみたいに鍛錬に明け暮れる必要はない気がする。違うのだろうか?


「確かな情報とは言いがたいのですが、どなたかの護衛に就きたいとか……」


 信ぴょう性が低いみたいで、ヘラは少し自信なさげだ。


「なるほど。護衛騎士になるなら、衛士たちに交ざって鍛錬を続けるのもわかります。私もそうでしたから」

「メイナードも? 護衛騎士になるのも大変なのね。そこまでしていったい誰の護衛に就きたいのかしら。護衛ということはうちの家族よね。気になるわ」

「私どもの方で詳しく調査いたしましょうか?」


 気を利かせてくれたのかヘラが言う。飛びつきたくなるくらい魅力的な言葉だ。

 けれど、それはだめだと思いとどまる。ヘラが調べてくれるなら確実な情報が得られるだろう。でもヘラが調べるということは、『彼ら』を私的に動かすということ。

 嬉しい提案だが、小さく頭を振る。


「いいえ。私的なことであなたたちを動かしてはいけないわ」

「でしたら侍女として私だけで調べるというのはいかがでしょう? なんでしたらマクシェーン卿もお付けしますが」

「私ですか?」


 メイナードがぎょっとした顔でヘラを見る。冗談だろ? と言わんばかりの顔だ。

 私からすれば面白い話だと思うが、護衛が本分のメイナードを巻き込むのは違う。ほかの侍女やメイドを巻き込むのもそうだ。自分のことなのだから、自分で調べるのが筋というもの。


 それに、私よりも先に他人が彼のことを知るのは、なんだかいやだと思ってしまった。好きだから私だけが知っていたい。


「ふふ。気持ちだけ受け取るわ。メイナードに酷だもの」


 そうは言ってみたものの、本当はレイリー卿のことをもっと知りたい。弱みを握って恋人になってもらう、とかではなくて、ただただ純粋に、心から彼のことが知りたいのだ。知ったらもっと彼との接点も持てそうな気がするしね。

 ただ、自分で調べられるか、と言われたらうなずくのは難しい。私にはヘラたちのような技術がないから……。

 そこまで考えて、ふと思いつく。


「あ、そうだわ! ヘラ、あなたたちの持つ技術を、私に教えてちょうだい!」

「え、と……ですがそれは……」


 珍しく言い淀むヘラを無視して、部屋のあちこちを見ながら声をかける。


「フィス! フィスはいない?」

「……御前(みまえ)に」


 気がつけば目の前に白髪交じりの中年男性がいた。痩身で、猜疑心が強そうな印象だ。


「話は聞いていたわね? あなたたちの諜報技術を私に教えてちょうだい!」


 右手のひらを天に向け、フィスの方に勢いよく差し出す。

 私の命令に忠実に動いてくれる彼だ。今回も教えてくれる……かと思いきや、現実は甘くなかった。


「申し訳ございません。お教えするには、陛下のご許可をいただく必要がございます」


 すげなく断られてしまった。でもめげない。理由はわかっているもの。


 彼らは『暗部』と呼ばれる影の集団。主の命を受けて秘密裏に情報を集めたり、敵をかく乱、時には王族の護衛をしたりする。

 実権は王であるお父様が握っており、第三王女である私に決定権はない。


 そのうえ、お父様に『なるべく私的に使わないように』とも言われている。

 だから今回の諜報技術を教わる願いは、ちょっと判断が難しい。これはお父様にお伺いを立てた方が無難だろう。


「わかったわ。お父様に訊いてみるわね。もし許可が出たら教えてくれる?」

「ええ、喜んでお教えいたします」


 言質はとった。嫌だと言っても、絶対に教えてもらおう。

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