見劣り姫は御前試合を観覧する3
私の踏み込んだ質問に、イライアスが気を害した様子はない。
むしろ、もっと会話を望むような雰囲気さえ漂ってくる。
首を軽く傾げつつも、もう尋ねる機会はないだろうからと割りきって話を続けることにした。
「まあ。ウィル兄様に乞われましたか?」
「ありがたくもお話をいただきました」
……やはりそうなのね。
メイドたちの話は正しかった。
私の護衛でなかったのは寂しいけれど、おおよそ予想どおりだ。
浮かべたままの笑みを崩さず、定型どおりの言葉を紡ぐ。
「そうでしたのね。これからも兄のために頑張ってくださいましね」
「あ、いえ……はい。殿下をお護りできる立場になれるよう、身を粉にして鍛錬してまいりたいと思います」
……? 何かしら。今、一瞬イライアスが言いかけていたけれど。
イライアスにわずかな戸惑いの色が見えた気がしたが、すぐに消え失せた。
そのままイライアスが力強い目で私を見てくる。
同時に発した彼の言葉は、明らかに社交辞令だというのに、私に何かを伝えたがっているように思えて仕方がなかった。
不思議に思いながらも、にこりとした笑みのままイライアスを見つめ返す。その時間、数秒ほど。
やがてイライアスがゆっくりと目を閉じて、またすぐに開けた。
それから彼は、とても嬉しそうに微笑んだ。優しく、暖かく、慈しむような、笑み。
とたんに胸の鼓動が高まり、心臓が破裂してしまうのではないかと思うくらい激しく主張してきた。自然と呼吸も浅くなり、目が泳ぎそうになる。
このままでは、私の異変に気づかれてしまう。すかさず理性を全力で働かせて、平静を装った。
「殿下。お時間をいただき、ありがとうございました。とても楽しい時間でした」
笑みを抑えたイライアスが礼をとる。控えめの笑みとはいえ、破壊力がすさまじい。扇子があってよかった。
「わたくしの方こそ、素晴らしい時を過ごせました。これからの活躍を楽しみにしておりますわね」
挙動不審ならずに言いきれた。任務完遂の達成感から笑みがこぼれる。
もう必要ないだろうと扇子を閉じれば、イライアスの目が見開かれた。
……あら? これって貴重なお顔ではないかしら?
イライアスのぽかんとした顔は珍しい。ぜひ絵にして寝室に飾りましょう、とひそかに誓う中、我に返ったらしいイライアスが唐突に周りを気にしだした。勢いよく辺りを見回し、そうかと思えば、さっと位置を変える。
よくわからないが、きっと彼なりの気配りだろう。勝手にそう完結する。
「ありがとうございます。殿下、お手に触れてもよろしいでしょうか」
「はい?」
許可ではなかったのだけれど、許可と捉えたらしい。不意にイライアスの手が伸びてきて、私の右手をさらった。再び、とくん、と胸が高鳴る。
いったい何をするのか。自分の右手からイライアスへと順に視線をやる。
次の瞬間、イライアスが片膝を付き、私の手の甲に唇を寄せた。そのまま触れるか否かの位置で寸止めされる。
「っ!」
驚いた、なんて言葉では言い表せられない。
騎士や貴族間ではよくある行為だと知っているけれど、実際にされたことはなかった。
それが実行されたばかりか、初めての相手がイライアスだとは。今にも昇天しそうな気分だ。
「今日この時、殿下の愛らしいお姿を拝見でき、眼福でございました」
そこまで言うと、イライアスは私の手を開放して立ち上がった。
内心で非常に驚きながら、自由になった手を見つめる。
手袋越しで彼の体温は感じられなかったけれど、温もりが消える気がして名残惜しく思った。
それから数日。寝ても覚めてもイライアスのことを考えてしまい、ふとした瞬間に自室で変な声を上げていた。
ヘラが話し相手になってくれたためか、イライアスの話が一向に止まらない。
最初は微笑ましげな表情で話しを聞いていたヘラは、同じ話が十回を超えた頃から、うんざりとした顔つきになっていた。心なしか、相槌や対応がぞんざいだ。
「それでね、見ていたと思うけれど、イライアスが……」
「はいはい。姫様の手をそっと掬い上げたんでしたね」
「ちょっと、ヘラ。もう少し真面目に聞いてくれないかしら?」
じろりとヘラを睨みつけると、ヘラから呆れを帯びた目を向けられた。
「そうお思いでしたら、何度も繰り返さずに日を置いてお話しください。さすがに毎日何十回も同じ話をされれば、大人の対応にもぼろが出てしまいます」
「だって、本当にかっこよかったのだもの」
夢のような時間だった。お話しできただけでも幸運だったのに、手を取られ、あのような……。
ああ、今思い出しただけでも恥ずかしい。ぼんっ! と沸騰したように顔が熱くなって、慌てて両手で頬を抑える。
そのまま俯き、顔を左右に振って、恥ずかしさを追い払う。けれど、みじんも恥ずかしさは飛んでいかなかった。
そこに、ヘラの声が届く。
「そんなにお好きなら、裏でこそこそなさらずに、レイリー卿に当たって砕ければよろしいのではないですか?」
「砕けたらだめでしょう!? それに、へたに身分がある子供に告白されても、イライアスが困るだけよ。迷惑をかけてはいけないわ」
「すでに私は、姫様から好きでもない人の話を延々とされて困っておりますが?」
「お黙りなさい」
イライアスの話になるとやはりヘラは辛口だ。私はただ、好きが止まらないだけなのに。
次はイライアスのターン




