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夢見る星のウタ  作者: TriLustre
第1章「見知らぬ世界の救世主」

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第23話「『繋がり』の謎」

 建物の床下に作られた作業場と思しき空間を通り抜け、自給自足の生活を思わせる畑の横を通り過ぎると、湖を渡るための小舟が停泊しており、近くには釣りに使うであろう道具一式が綺麗に並べられていた。

 木製の階段を上った先にある2階の玄関まで辿り着くと、ヴェスタは鍵を開けてマイン達を中に招き入れ、3人に椅子に座るように促す。

 玄関を抜けた先には、炊事場と食卓が併設されており、生ける屍などの様々な脅威に備えるためか、手入れの行き届いた防具や剣が手の取りやすい場所に置かれていた。

 マイン達が促されるまま食卓の席に座ると、ヴェスタは鍋に水を注いで湯を沸かし始める。


「今日は、色々なことがあって疲れているでしょうし……今、リラックス効果が期待されているハーブティーを淹れますね。」

「そんな、お構いなく……!」


 エディーが慌てて立ち上がり、ヴェスタを制止しようとするも、ヴェスタはエディーに再び座るように促して茶葉を準備する。


「どの道、これから夕飯の支度も始めますので、これくらい負担にはなりませんし、気にしないで下さい。それより……夕飯の支度が終わるまでの間に、これまで起きた出来事や情報の整理をするのはどうでしょう?腰を落ち着かせて話し合えば、少しは混乱している頭の中を整理できるかもしれませんし、夕飯を待つ間の暇つぶしくらいにはなるでしょう。なにより、情報の整理をすることで、今後の道筋も見えてくるかもしれません。」


 ヴェスタが慣れた手付きで食材を炊事場に準備し始めると、マインは申し訳なさそうに眉を下げつつヴェスタからの提案を呑む。


「良いのか?寝る場所があるだけでもありがてぇのに、食事まで御馳走になっちまって……。けど、まぁ……確かに、一度ラウル達の所から帰って来たのも、ラウルが情報の整理をしたらどうだって提案してくれたからだしな。一度、俺達が元の世界で何をしてたかも含めて、一連の出来事を整理してみようぜ。」

「ああ、関連性を追っていけば、そこからまた別の道筋や情報が見えてくるかもしれないからな。」

「うん……互いの認識を共有しておくためにも、情報を擦り合わせておくことは大事だよね……。」


 クレールとエディーが同調して相槌を打つと、マインは思考を巡らせ、1つ1つ丁寧に記憶を辿りながら一連の騒動を振り返る。


「まず……俺達は約束の日のために、元の世界で身支度をしていた……それは合ってるよな?」

「ああ、私は……いつも通りに仕事を終わらせた後、弟のエミルと一緒に夕食を取っていたんだ。夕食の後、登山の支度を整え、就寝しようとベッドに潜り込んだところで例の幻覚を視た。」

「俺も……兄さんと一緒にホテルに辿り着いて、色々と済ませてベッドに入ろうとしたところで、幻覚を視たんだ。ただ……その前にエレベーターで部屋に戻ろうとした時に、異能の影響による眩暈を感じていたから……今思えば、その時から兆候はあったんだと思う……。」

「俺も、日向と話して色々とやることを済ませた後に、ベッドに潜った瞬間にあの幻覚を視て、少しずつ意識が遠のいていったな……。」


 意識を失う直前に取っていた行動を思い返し、クレールは合点がいった様子で内容を纏める。


「つまり……私達はほぼ同時に幻覚を視て、この世界に飛ばされたというわけだな。エディーさんが異能による不調を訴え、それから私達全員が幻覚を視て飛ばされたということは……」

「やっぱり、エディーの異能で俺達はこの世界と『繋がって』、飛ばされてきたってことになるのか。」

「うん……そういうことになると思う……。まさか、俺の異能がこんな事態を引き起こすなんて思いもしなかったよ……。本当にごめん……マイン、クレール……。」


 エディーが震えた声で謝罪の言葉を述べると、クレールはすかさずエディーに励ましの言葉を掛ける。


「気にしないでくれ。エディーさんが持つ異能は、自分で制御できない部分があるのだろう?むしろ……エディーさんだけが飛ばされる事態にならなかっただけでも、幸運な方かもしれない。」

「そうだぜ。もしお前だけが飛ばされてたら、もっと大変なことになっただろうし、狙われながら帰るための方法を1人で探さなくちゃならないなんて、挫けそうなくらい辛いだろうしな。」

「私達は、一緒に元の世界に戻ると約束しただろう?エディーさんも……さっき私を許してくれたように、これ以上異能のことで謝らないでくれ。」

「いやっ、それは……!俺がこの事態を引き起こした原因なんだし、いくら謝っても謝り切れな……」


 クレールがお返しとばかりにエディーを慰めると、エディーは目を丸くして再び謝罪の言葉を口にしかける。

 しかし、エディーは思い留まるように口を噤んで首を左右に振り、考え込むように一呼吸置いてこくりと頷く。


「……ううん、お互いに許し合えたら、その方が良いって言ったのは俺だし……2人がそう言ってくれるなら、俺も……あまり振り返り過ぎず、落ち込まないようにするよ。」

「ああ、是非そうして欲しい。……ところで、話を戻してしまうが……私達が視た幻覚は、全員が同じ光景では無かったのだろう?」


 エディーの表情に笑みが戻ると、クレールは空気を入れ替えるかのように話題を戻して話を続ける。


「私が見た光景は、人々の命や文明が割れた大地に吸い込まれるようにして落ちていき、空はおろか地上さえも黒い闇で覆われていく瞬間だった。その幻覚の中に……長い黒髪の女性の後ろ姿を視た気がするな。」

「クレールもなのか?俺が視た光景は、建物や生き物の命が全部焼き尽くされて、海が血で赤く染まっていく様子だったぜ……。最後に、ロキさんかもしれない人の後ろ姿を視た気もするな。」


 クレールの後に続き、マインが驚いた表情で幻覚の詳細を語ると、エディーは目を細め俯きながら口を開く。


「その瞬間から、2人はロキさんとクロトさんっていう、ヴェスタさんの大切な人と『繋がっていた』可能性が高いんだね……。」

「お前はどうなんだ?エディー。お前は……こっちに来て目が覚める前、どんな光景を目にしてたんだ?」

「俺は……マインやクレールが視た光景とほぼ同じものを視て、それから……」


 エディーは一瞬考え込むような仕草をすると、ハッとした表情を浮かべてマインからの問いに答える。


「そうだ……前に、2人にも話したと思うんだけど……見慣れない服を着た、俺と同じ顔を持つ人の姿を視たよ。あの時、その人が俺に何かを伝えようとしてたんだけど……上手く聞き取れなくて、気が付いた時には意識が遠のいてて……次に起きた時には、遺跡の庭で倒れてたんだ。」

「そういえば、そんなことを遺跡で目が覚めた時に言ってたよな。俺とクレールは、幻覚の中でエディーが不吉な目に遭う様子も視てたんだっけか。」

「確かに、あの時……何やら、エディーさんがどこか遠くへ行ってしまいそうな光景を視ていたな。幻覚の中で、私はエディーさんの手を必死になって掴んで、それから意識が飛んでいったのをハッキリと覚えてるぞ。」

「お前もなのか!?俺も、エディーが炎の中に引きずり込まれていく時に、咄嗟に手を掴んで引き戻そうとしたんだ。そしたら、意識が段々遠くなっていって、気が付いた時には……。」

「……そうか。あの時の幻覚で、エディーさんの手を握ったことが、共に異世界に飛ばされる引き金となったのか。」

「だとしたら、あの時に必死になってお前の手を握って良かったと思うぜ。結果的に、日向達とは離れることになっちまったとしても、お前が1人で行方不明になるよりかはマシだと思うしな。」


 そう言ってマインが改めてエディーの顔を見つめると、エディーは胸に手を当てて呟くように声を漏らした。


「マイン、クレール……ごめ……ううん、一緒に居てくれて、ありがとう……。俺……1人でこの世界に飛ばされてたとしたら、きっと……帰るための方法を見つけるために動き出す自信は無かったよ……。」

「今頃、エミル達は私達が居なくなったことに動揺し、悲しんでいるかもしれないが……職場での知り合いや友人が支えてくれていることを願って、1日でも早く帰れるように尽力するしかないな。」

「そのためには、今起きてることを頭の中で整理しないとだな。おっし……んで、俺達は遺跡で目が覚めた後に、人を捜して森の中に出たところで、生ける屍に襲われたんだったな。」


 マインが森の中で起きた出来事について振り返ると、エディーは襲われた当時の光景を思い返して口を開く。


「うん……まさか、映画や漫画で見たゾンビが実在してるなんて、思いもしなかったよね……。」

「まるで、私達がゲームの中に入り込んだかのような体験をしているわけだが……実際に異世界に飛ばされてしまったことが判明した以上、私達の世界での常識は通用しないと考えていいだろう。」

「魔法とか、飲めば回復するポーションなんかも実在してるんだもんな。だとしたら、意外にゲームの中で培ってきた知識が役に立つこともあるかもしれないぜ?」

「夢と現実の境目がわからなくなりそうだけど……意外に、ゲームの中の常識で当て嵌めていけば、納得してしまえる部分も多いのかもしれないね。」

「貴方達の世界では、『魔力』も『魔法』も、『ゾンビ』とかいう『生ける屍』も常識ではないことは理解しました。しかし……不思議なものですね。貴方達の世界では実在しないものだというのに、それらが『ゲーム』という遊戯の中で体験できるというのは……それらの遊戯を作り出した方々は、異世界を覗き見る目でも持っているんでしょうか?……ちなみに、ハーブティーが入りましたので、温かい内にどうぞ。」


 ヴェスタが食卓にハーブティーを淹れたカップを並べると、クレールはカップに指を通して顔に近付け、ハーブティーの香りを楽しむ。


「ヴェスタさん、ありがとうございます。……やはり、フロワドゥヴィルで飲まれているハーブティーは、香りがとても良いですね。」

「名産品の1つでもありますからね。フロワドゥヴィルでは、潮風にも寒さにも強い品種が数多く栽培されていますので、もし機会があれば、ヒゥヘイムに伝えて茶園を見学しに行ってはどうでしょう。」

「それは良い提案だな!もし、行く機会があったらヒゥヘイムさんに頼んでみようぜ!」

「ああ、すぐに帰ることが叶わなくなってしまった以上……この際に、色々と見聞きして、少しでも多くの思い出を作っても良いかもしれないな。」

「そうだね……生ける屍に襲われた時に、レドさんが助けに来てくれなかったら……こうして、思い出を作ろうとすることも、帰るための方法を探すことも出来なかっただろうから……レドさんやヒゥヘイムさん、ヴェスタさんには感謝してもし切れないほどの恩ができたよね。」


 エディーはハーブティーを啜りながら、レド達から受けた優しさに感謝をし、マインは別の可能性を思い浮かべて青ざめた顔を見せる。


「レドさんが優しい人で、フロワドゥヴィルに案内してくれたのもデカかったよな。もし、通り掛かったのが野盗とかの類で、追い剥ぎにでも遭ってたらと思うと……」

「私達は金目の物は一切持っていなかったし、最悪の場合は殺されて終わりだろうな。」

「運が良かったよね、俺達……。ただ……フロワドゥヴィルで、黒い亀裂から現れた生ける屍に襲われるとは思わなかったけど……」


 エディーが俯いて黒い亀裂に関する話題を切り出すと、マインとクレールは真剣な表情を浮かべてハーブティーの水面を見つめる。


「あの時は本当に……夢であって欲しいと強く願ってたぜ……。ヴェスタさんの家に向かう直前まで、あんなにも楽しそうな笑い声に溢れてて、温かい気持ちでいっぱいだった場所が、一瞬の内に地獄のような光景に変わっちまってたんだからな……。」

「ああ……フロワドゥヴィルが襲撃された時に、ヒゥヘイムさん達を助けに行ったのが、私達にとっての分岐点だったのかもしれないな。」

「もし、怖気づいてヒゥヘイムさん達を助けに行かなかったら、俺達は今でも異世界に飛ばされたことに気が付かずに、彷徨い続けてたかもしれねぇよな。」

「あれだけ良くしてくれた2人を見捨てた後悔に苛まれるだけでなく、エディーさんが黒い腕に襲われるようなことがあれば、救出することも叶わずに攫われてしまっていたかもしれない。」

「もしもの可能性を考えると、キリがないことはわかってはいるけど……それでも、今の時点では、この道を選んで良かったとも思えるよね。」

「結果として、俺達はこの世界で生き抜くための力を手に入れて、実際にその力で生ける屍や黒い腕に対抗することが出来たんだもんな。」

「ただ……問題なのは、どうしてエディーさんの力が私達の異能と合わさることで、黒い亀裂を打ち破る力と成り得るかだが……」


 クレールが顎に手を当てて考えるような仕草をすると、マインも腕を組んで天井を仰ぎ思考を巡らせる。


「それだよなぁ……エディーが持つ力が要になってることは間違いねぇと思うんだけどよ、なんで3人の力を合わせねぇと、黒い亀裂を打ち破れないのかはわからないままだよな。」

「打ち破れないどころか、黒い亀裂にぶつけた武器を創ることすら出来なかったんだよね……。」

「恐らく、エディーの『繋がりを得る力』に、貴方達の異能が合わさることによって、何かしらの効力を発揮していると見るべきでしょうが……現時点では判断材料が不足していますし、確実なことは何も言えませんね。ただ、1つだけ言い切れるとすれば……貴方達も身を以て体験した通り、この世界は生ける屍が齎す脅威に怯え、今でもどこかの村や町は危機に瀕しているかもしれません。あの姑息な商人や盗賊達が生ける屍に対抗する手段を欲したように……これからも、エディーの力を狙う輩が現れるかもしれません。くれぐれも、留意しておいて下さい。」


 ヴェスタは手際よく夕食の支度を進めながら、3人の会話に参加して注意を促し、エディーはヴェスタの言葉を聞いて少し身を震わせる。


「安心しろって、俺達がお前のことを守ってやるからさ。」

「うん……なんだか、守られてばかりで情けないけど……いつも俺のことを気に掛けてくれて、ありがとう。でも……俺には生ける屍を浄化する力なんて無かったし、屍化を無効に出来る可能性があるのは、クレールの力なんだよね……?」


 エディーがクレールの顔を見つめて疑問を呈すると、クレールはハッとした表情を浮かべ、生ける屍によって傷付けられた箇所の腕を押さえて眉間に皺を寄せる。


「ヴェスタさんの見解を信じないわけではありませんが……本当に、私に屍化を無効にする力があるのでしょうか?何か……思い違いをしていた可能性は……」


 クレールがヴェスタの背中に問い掛けると、ヴェスタは一度作業を止めて振り返りながら質問に答える。


「いえ、思い違いなどではありません。生ける屍に襲われ、傷を付けられた者は……致命傷を負って息絶えるか、屍化の進行が始まるかの2択しかありません。治療薬によって治すことは可能ですが、生ける屍によって傷を負わされたにも関わらず、屍化の兆候が見られなかった例はクレールのみでしょう。」

「じゃあ……生ける屍に対抗できる力も、黒い亀裂を打ち破れる力も、本当はクレールに発現した異能の方だったりするのかな……?」

「現時点では、あくまで推察にしか過ぎないかもしれませんが……クレールに屍化を無効にする力があるとしても、生ける屍や黒い亀裂に対抗し得る力の要となるのは、エディーで間違いはないでしょう。その事実は、黒い亀裂から現れた黒い腕が自ら証明してくれています。」

「黒い腕が現れた時に、真っ先にエディーが狙われたんだもんな。」

「ええ、マインやクレールが持つ異能に気が付いていなかった可能性もありますが……そもそも2人に異能が発現した原因がエディーにあるのですから、要として見ないというのは無理があるでしょう。」

「それなら……どうして、俺には生ける屍を浄化する力が無いのかな……?いや……そもそも、『浄化する』っていう表現自体が間違っているのかも……。」


 エディーが独り言のように小さな声で呟いていると、マインは大きく仰け反って背もたれに身体を預け、未だに信じられない様子で口を開く。


「しっかし……その黒い亀裂や生ける屍が、大昔に起きた『大災厄』の名残りだってのには驚いたよな……。」

「ああ……私達が大災厄の時の光景を幻覚で視ていたことも気になるが、太古の昔に起きた悲劇が残していった現象に対して、エディーさんの力が有効である謎も気掛かりだな。」

「たまたま、俺の力が黒い亀裂に対して有効だっただけと言ってしまえば、それまでかもしれないけど……」

「私達が大災厄の幻覚を視ている以上、たまたまで片付けるにはいささか早計じゃないか?」

「しかも、俺達はヴェスタさんの大切な人であるロキさんとクロトさんって人に、異能がそっくりなんだろ?偶然として片付けるにしては、色々と出来過ぎてる部分が多い気がするよな。」

「……そうだ、そのことで俺、ヴェスタさんに聞きたいことがあるんだけど……」


 唐突にエディーに名指しされたことで、夕食の支度を再開していたヴェスタは驚いた様子で振り返り、目を丸くしながらエディーに向けて返事をする。


「俺に聞きたいことですか?」

「うん……ヴェスタさんは、マインやクレールと『繋がった』可能性の高い、ロキさんやクロトさんと知り合いなんだよね……?もし、迷惑じゃなければの話なんだけど……ヴェスタさんにとって、大切な人である2人は今どこに居て、どんな人なのか聞きたいなと思って……話を切り出すタイミングを伺ってたんだ。ヴェスタさんが良ければ、2人の話を聞かせてくれないかな……?」


 エディーが2人の人物について話題を切り出すと、ヴェスタはどこか寂しげに俯き、少しの間を置いてからエディーの質問に答える。


「ロキ様とクロト様について、ですか……。……お2人は、聡明で勇敢な方達でした。どのような危機にも臆することなく立ち向かい、人々のために奔走して回ったんです。ロキ様は悪戯好きな方で、よくお父上様に悪戯を仕掛けて困らせておりましたが……誰よりも責任感が強く、妹想いで、頼りになる方でした。クロト様は幼い頃から賢い方で、家族や人々の平穏や幸せを常に願う……慈悲深い方でした。お2人は、溢れんばかりの優しさで厚い人望を築き、人々の導となって生ける屍達と戦い続けていたんです。もう……随分昔のことになりますが……お2人に、戦う術を教えていた時期もありましたよ。」

「へぇ……ヴェスタさんにとって、2人は教え子でもあったんだな。」

「人々の導として、生ける屍と戦い続けてたなんて……まるで、騎士のような志を持った人達だったんだね……。ロキさんとクロトさんは、今どこに暮らしてるのかな……?」


 エディーがさり気なく2人の所在について尋ねると、ヴェスタは窓の外に視線を移し、遺跡がある方角を見つめて口を開く。




「お2人は……既に亡くなられています。ある日を境に……俺とは別々の道を辿り、脅威を退けるために奔走して、そのまま消息を絶ったと風の噂で聞き及んでいます。」


「…………えっ?」




 ヴェスタの口から思いも寄らない事実を告げられたことで、マイン達は酷く動揺し、エディーは慌てた様子で思わず謝罪の言葉を述べる。


「そ……そんな……。……ごめんなさい、俺……そうとは知らずに、気軽に尋ねるような真似をして……」

「気にする必要はありません。もう随分昔のことになりますし……忘れることなどできませんが、ある程度は割り切って生活をしていますので。むしろ……エディーはお2人について、何かご存知なのではないのですか?」

「えっ、俺……?俺が2人について、何か知ってるんじゃないかって……?」


 エディーが再び慌てた様子で自身の顔を指差すと、ヴェスタは相槌を打ち言葉を続ける。


「ええ、実は……街に黒い亀裂が現れ、マインとクレールが先行して街に向かって行った際に……取り残された貴方が、ロキ様とクロト様の名前を口にしたことがあるんです。」

「えっ!?その時ってまだ……俺達が異能に目覚めてない時だよな!?」

「ええ、その時に聞き捨てならない言葉を口にしていたので、よく覚えています。『ロキ様とクロト様に、終わらない苦しみを与えてしまったのは自分』なのだと……。今思えば、あの時のエディーは異能による影響を受けていたでしょうし、異能が原因で漏らした言葉だと理解していますが……ピンポイントでお2人の名前を口にしたことに違和感を感じるんです。念のために確認させてもらいたいのですが、エディーは本当に、ロキ様とクロト様と面識は無いのですね?」


 ヴェスタが念を押すかのように、エディーに質問を投げ掛けると、エディーは眉間に皺を寄せて記憶を辿りながら返事を伝える。


「うん……皆の話を聞く限り、2人の容姿は幻覚で視たことはあるけど……直接会って話をしたことは無いかな……。」

「そうですか……。それなら尚更、マインとクレールがお2人の異能に酷似した力に目覚めたことが気掛かりですね。厳密に言えば、『ほぼ同じ力』と言うべきなのでしょうが……」

「えっ?それってどういうことだ?ヴェスタさん。」


 マインが首を傾げて疑問の声を口にすると、ヴェスタは時折り鍋の中を掻き混ぜながらマインの問いに答える。


「実は……マインとクレールに発現した異能は、完全にロキ様やクロト様と同じでは無いんです。先程、お2人の力と酷似していると伝えましたが……厳密に言えば、クレールが持っていると思しき『屍化を無効にする力』は、クロト様にはありませんでした。このことから、マインにもロキ様には無かった異能が発現していると思われるのですが……もしかすると、ロキ様やクロト様には無かった力が、黒い亀裂を打ち破る力に関係しているのかもしれません。」


 ヴェスタが衝撃の事実を告白すると、マイン達は驚いた表情を見せ、マインは納得したように首を縦に振る。


「なるほど……確かに、似てるってだけで、全く同じだとは言ってなかったもんな。」

「そうだな……ヴェスタさんが把握していない力を探し当てれば、黒い亀裂を打ち破れる原理も解明できるかもしれない。」

「そのためには、2人に発現した異能をもっと詳しく調べる必要があるけど……わざと生ける屍に傷を負わされるわけにもいかないし、敢えて戦いに身を投じるのもどうかと思うし……うぅーん……良い案は思いつかないなぁ……。」


 エディーが瞼を閉じて頭を抱え、悩ましそうに唸っていると、不意にエディーの腹部から音が鳴り、エディーは気恥ずかしそうに腹部を押さえて苦笑いを浮かべる。


「あはは……色々考え事をしてたら、お腹が空いてきちゃったな……。」

「ったく、お前はどんな時でも食欲が旺盛だな。」

「丁度、夕飯の支度が終わりましたので、情報の整理はここまでにして、食事の時間にしましょう。」

「えっ!?もう出来てたのか!?いつの間に……」


 マインが目を丸くして炊事場に視線を送ると、湯気が立ち昇る鍋が置かれており、気が付けば室内に食欲を刺激する匂いが漂っていた。

 ヴェスタは手際よく皿に料理を盛り付けていくと、食卓に料理を配膳していき、最後にハーブティーのおかわりを用意して席に座る。


「流石に、4人分の食事を作ったことは殆どありませんので、少し手間取ってしまいましたが……味見はしてあるので、大丈夫でしょう。少しは頭の中を整理することができましたか?」

「まぁ……まだ正直、謎だらけの部分は多いけどよ……一先ず、やるべきことは変わらねぇって、再認識した気がするぜ。」

「私達は、とにかく旅を続けなければならないかもしれません。その道筋を見つけるために、私達は明日……再びラウルさん達のもとを訪ねるべきかもしれません。」

「自分達のことを信じてくれるのなら、もう一度会いに来て欲しいって言ってたよね……。」

「そうですね……彼女達から敵意を感じない以上、彼女達の行為を無碍にするわけにはいかないでしょう。明日、準備が整い次第、再び遺跡に向かうことにしますよ。」

「おう!折角途切れかけた帰宅への道を見つけられるかもしれねぇんだ。ここで立ち止まるわけにはいかねぇぜ。ただ……」


 マインは途中で言葉を区切り、俯いて食卓に視線を移す。

 並べられた料理の中には、トマトを使用したと思しきスープや、チーズをふんだんに乗せたグラタンと思しき料理が置かれており、マインとクレールも湯気を上らせる料理を見つめて思わず腹の音を鳴かせる。


「美味そうな飯を見てたら、すっげぇ腹が減ってきたぜ……。」

「ああ……ヴェスタさん、私達のために夕食を用意して頂き、ありがとうございます。」

「いえ、これくらい負担にもなりませんので、気にしないで下さい。ハーブティーのおかわりを淹れましたが、他にも飲み物は用意できますので、遠慮なく仰って下さい。料理の方も、温かい内にどうぞ。」


 ヴェスタが料理を指して食事を摂るように促すと、マイン達は嬉しそうに笑みを浮かべて食事の挨拶を口にする。


「それじゃ、遠慮なく……頂きます!」

「頂きます!」

「頂きます。」


 マインの声に合わせ、クレールとエディーが重なるように食事の挨拶を伝えると、3人は食事に手を付け始め、ヴェスタも自作した料理を口に運ぶ。

 4人は各々の速度で食事を楽しみ、時折り他愛の無い会話や疑問に関する議論を交えてリビングでの一時を過ごす。

 あっという間に時は流れ、辺りの景色が月明りに頼らなくては見えない程に暗くなると、マイン達は食事を終えて就寝の準備を始める。

 ヴェスタがベッドやソファを使い、それぞれの就寝場所を指定すると、マイン達は互いに就寝の言葉を交わして毛布の中に潜り込む。

 フロワドゥヴィルを追放されかけた騒動を経て、遺跡へと訪れたマイン達は——遺跡にて2匹の守護獣に出会い、自分達が異世界の人間である衝撃の事実を告げられてしまう。

 怒涛の日を過ごしたマイン達は、積み重なった疲労もあり、すぐに意識を手放して静かな寝息を立て始めた——。



次回投稿日:5月15日(金曜日20時頃)

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