Velvet Chocolate
君の澄んだ声が僕の意識に滑り込んで来る。優しい風が草原を撫でてゆくように眠りから揺り起こす。
まるで質量のない砂糖菓子のように甘く儚いひと時を繰り返す。
視界が開ける。君がほほ笑む。また僕の頬を撫でる。君の澄んだ声が吐息に乗ってくるくる回る。窓の外は真夏。螺旋を描く。陽射しが降り注ぐ。汗ばんだ素肌に気づく。しわくちゃの白いシーツ。枕がふたつ。ユマ・サーマンみたいなヘアスタイル。ヴェルベットみたいなスマイル。
君の声だけを追いかけている。
林立する白い風車が回り続ける。敷き詰めたソーラーパネル。歩いても歩いても遠ざかる。風と孤独と記憶。君に刻まれた傷。冷たく閉ざされた冬。月も星も凍りつく。悪夢のような日々が過ぎてゆく。君の過去は雪にうずもれてゆく。心だけ今も泣いている。その涙をぬぐう人を知っている。それは僕ではなく。それは、僕ではなく。
君の声が聞こえない。
何も問題ない。君が元気で幸せならばそれでいい。
強がりではない、でも本音でもない。心の奥底でとぐろを巻く感情が今日もどす黒い。排水管に詰まったヘドロみたい。腐り果ててもまだ燻っているヤケボックイ。愛することさえ出来ない。諦めたくはない。自分を見失うほど好きになった人になんて、もうきっと出会えない。
君の声が聞きたかった。
晴れ過ぎて黒ずんで見える青い空。光を浴びて雲が浮き上がった。出会いも別れも笑ったり泣いたり、全部ぜんぶ君のためだった。
気が付くと外は夜明けだった。端末の向こうで君が笑った。名残惜しそうに電話を切った。最後の長電話。
君の声はVelvetのように。
君の笑顔はChocolateのように。
君の別れを共に悲しめない。
君のことを抱きしめたい。
君の声はVelvetみたいに。
君の笑顔がChocolateみたいに。
優しく、甘く、心が震えて、
忘れられない。




