5 68.檸檬の過去Ⅱ
ラストです。
ありがとう!
その後、スタッフさんが「どうしたどうした」って感じで入ってきたんだけど、アオが「すみません。最近疲れてるのかおかしいみたいで……Yuzuは悪くないのに怒ってしまいました……」
って言って場は収まった。
その後はアオも何も言ってこないし、いつもと変わらないようにふるまっている感じがしたから気にしないことにした。
でもどうしても気になって、堂前柚希の友達の………あれ……名前なんだっけ……?
……友達の男の子に話した。
そうしたら「柚希がなんか引っかかるならなんかあるよ。今は思い出せなくてもいつか思い出すかもしれない一緒に思い出そう」って言ってくれた。
それのおかげで私は記憶を戻した。
走って逃げて…あの子には悪いことしたな~。
そう思いながら帰りの電車に乗った。
♢
「ただい―――――」
「どこ行ってたの!」
帰ってくると同時に葵から怒られる。
「従兄に会いに行ってた」
間違いじゃない。
一緒に活動した中であり、父方の従兄だ。
「いとこ? 圭と伊予の所ですか?」
「ううん。碧の方」
「ええええ‼ 急じゃないですか⁉」
「野暮用。面倒くさいことに巻き込まれちゃって」
実際、野暮用かというとそれよりは大きいことかもしれない。
けど、Yuzuという正体を明かすわけにもいかない。
「あ。朝言い忘れたけど、一時間後ぐらいにお客様が来るから悪いんだけど、席を外してくれない?十分ぐらいで終わると思うんだ」
「基本、外からの入室はダメなのにいいんですか?」
安全面もあってここの敷地に入るには結構大変らしい。
「結構この学校からの信頼はあるんじゃないかな? 昴さんが来るんだ」
「昴さんって……あの昴さんですか? なんでですか?」
「そう。狐崎昴さんだよ」
「なんでですか?」って、失礼じゃない?
晃さんはいま、華奈の方……まあ、アメリカに行ってて、今は飛行機かな?
「…とにかく!自分も晃さんに会いたいです‼」
「やめといたほうがいいかな……?」
この間来た時は失神しかけてたし。
かなりの弱点になるんじゃない?
昴さんと弟さんの晃さんの二人で代々家に仕えてくれているんだ。
妖狐の憧れの的らしいよ。
「せ……せめてッ、掃除しなければ……」
「いいよいいよ。十分掃除してあると思うよ?」
今日の掃除当番は琉生。
テレビゲームをしていた琉生の方を見ると……私の言葉に反応してなのか、目が泳いでいて、汗がだらだら。
もしや、掃除していないな?
「…………」
「琉生くん。お掃除、した?」
私はにこやかな笑顔を作り、琉生に聞く。
「………してッ……ないです………」
目が笑っていないわけでもないが、完ぺきに笑顔ができているのがむしろ怖かったと後に琉生は語った。
まあでも、テレビが空いてよかった。
そう思っていると、一花がテレビのリモコンを取ってしまった。
「檸檬さん、何か見たかったですか?」
「いや、一花が見たいのあるなら……あ。私が見たいのこれだよ!」
一花がチャンネルを変えた先の番組が見たかったやつ。
弥緑くんに「見てね!」って言われた生放送の。
「そうなんですか!」
「……一花は誰推し?」
「一黄さまです! ステージに立つ一黄さまはまるで、光り輝く一番星のような…いえ、光り輝く一番星なのです! いつも素敵なパフォーマンスに歌声……初めて生で聞いた時は尊死しましたし、何よりもあのお顔‼ 眩しすぎてます! 私は一生押しますし来世でも、来来世でも、来来来世でも推しま……ハッ……ごめんなさいごめんなさい。気持ち悪いですよね。こんな陰キャがドルオタなんて……別にいいですよ、もう話さなくても(全早口)」
「い……一花落ち着け…」
掃除していた琉生が一花をなだめる。
というか、一花の自己肯定感の低さに驚く。
「落ち着いて一花。私は一花の事を気持ち悪いなんて思わないよ。それに一花の事を嫌いなんて思ってない。好きになるのは人それぞれ。一花を否定する人は許さない。それが一花自身だとしてもね。それに、一黄くん、カッコいいよね」
「一花の事をバカにするやつは、俺に言えよ!」
「檸檬さん、琉生さん……ありがとうございます」
一花の瞳は少し潤んでいた。
「オーロラ(アオ、弥緑、一黄のグループ名)って一番人気はやっぱりアオくんで……一黄さんの愛を語る人が少ないんですよ……ハッ!」
「いいよ。一花の愛、語って? でも、その前に琉生は掃除しよ?」
「はい……」
生放送を見ながら一花は一黄の愛を延々と語ったとさ。
♢
みんなに買い物に行ってもらって家には私一人。
ベッドの時みたいに晃さんを雑に扱ったりするけど、普段はそういうわけにはいかない。
メリハリ大事。
って言っても分かりづらいよねぇ…。
そうだなぁ…ベッドの件はプライベート、今は仕事中みたいな感じ?
「いらっしゃい、晃さん」
「お邪魔します」
玄関で迎え入れる。
相変わらずのビシッとスーツにすらりと長い身長。
顔は整っていて、芸能活動していてもおかしくは思わない。
まあ、運営側なんだけどね。
「檸檬様、ご不便はございませんか?」
「今のところは特にないです。住んで三日目ですからあるかもわかりません」
「この間のように駆けつけはしますが、それができないこともありますからね?」
「次からは心がけます」
約束はできない。
心の中でそう思う。
お茶の準備を台所でしていると、
「一つ、聞いてもいいですか?」
と聞いてきた。
「…………いいわよ」
「なぜ、鈴木の家に住むことにしたのですか?」
新品のカップを段ボールから取り出していた私はスッと立ち上がり、晃さんを見る。
わざとじゃないけど、たぶん鋭い視線だったと思う。
でも、睨むわけにはいかないので(睨んでたよ?)、すぐに笑顔を作り、
「社長に何か言われたのですか? 向こうに住むと社長に伝えたのは晃さんでしたものね」
「…個人的にです」
「………矢間の家も、狐坂もここから遠いんでしょう? 進学する可能性のある所には近い方がよかったですから。一人暮らしは寂しいもの」
家から持ってきたティーバッグを入れ、ぐつぐつとなっている沸騰したお湯を注ぐ。
話すことを意識していたからか、注ぐお湯から目を離した時、私はお湯を手にこぼしてしまった。
「熱っ!」
「……! 失礼します!」
昴さんは早く、スッと立ち上がり、カウンターキッチンのリビング側からシンクの水を出し、私の火傷した手を掴んで流れる水に当てる。
「気を付けてください! 檸檬様の身に何かあったら私たちは正気ではいられません!」
「……昴さんから怒られたのは何年ぶりでしょうね。次からは気を付けます」
正直、心の奥の方で、「仕事とはいえ、子供のおもりは嫌なんじゃないかな~」とか「忙しいのにこっち優先とか大変そう」ってちょっと思ってた。
でも、昴さんの本気の目、心配する顔。
アレは演技、嘘、偽りなんかではなく、本気でそう思っている。
そう感じた。
「怪我をした場合、担当の先生に報告しなければいけないので、少し待っていてください」
私は十五分ほど水で冷やしたので、新藤先生に報告しに行こうとすると、
「報告しに行くのはいいですが、まだです。先に手を保護します」
昴さんの持ってきたバリバリビジネスバッグからは「よく入るな」って思うほどの救急箱が入っていた。
ワセリンとガーゼを取り出して、左手の手の甲の部分にワセリンを塗ってガーゼで覆った。
「普段から救急箱を持ち歩いているんですか?」
「………多少の怪我ならその時、すぐ対処できるようにしたいので……」
先ほど少し出てきた「晃さんはアメリカに飛んでいる」という話だが、アメリカにいる私の友達、華奈の父は私たち…私と華奈と昴さん、晃さんを含む車の目の前で交通事故に遭った。
あの時、助けられなかったことを、華奈たちは二人のことを責めてなんかいなかったけど、悔いていた。
二話前に書いた通り、これで一旦区切ります。
明日投稿予定の「秘知ら陰譚ー私が怪盗になって知ったことー」をよろしくお願いします!
秘知ら陰譚も多少変わっていたりしますが、こちらに出てきた人物などなどいろいろ伏線という名の種をばらまいているので考察していただけると嬉しいです!
元はラブコメですし、その辺はあったりなかったりしたりしなかったり。
シリアス、ギャグ、ラブコメとぎゅーぎゅー詰めの檸檬たちの一年間をお願いします!
翆「一年間、ありがとうございました‼」
「主人公、檸檬です!」
「元気元気! 伊予です!」
「(何を言わせたらいいのかわからなかった)蓮です!」
「(何を言わせたらいいのかわからなかったパート2の)圭だ」
「辻ちゃんこと左紅だよぉ~!」
「ちょっとしか出なかった新藤と言います」
せーのッ
「…………」
翆「そろえろや!」
「一年間、お世話になりました!」




