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ピッキングアウト  作者: もぶ
プロローグ
6/72

第6話 心に灯る炎



 同じ場所、同じ景色。ああ同じだ。だがさっきより視界がクリアな気さえする。どうしてだろうな。


 この感情の名前を俺は知らない。だが悪くない。やっとこのどうしようもない状況に対して冷静に考えることができそうだ。


「木の棒は……無くなってるな」


 背中を打ち付けたときに手放してしまったからな。探せば落ちてるかもしれないがまぁいい。本物の武器を落とすよりは良い。


 俺はメニュー欄から【装備】を開きビギナーズソードを装備する。ここら辺はリアリティーを追及したとしてもゲームって感じだ。


「確かこう……右手で柄を握って左手を添える……?」


 こんな感じか……。恐らくこれが《カウンターバッシュ》のアクションなんだろう。感触的には正反対の押し返し、が重要なスキルっぽい。《木の棒》のスキルがなかったら発動せずに最初の一撃で吹き飛んでたな。


「真っ黒なドラゴン、あれがここのボスかな」


 徘徊するボスというのは怪しいところだが、どうかボスであってほしい。ゴツゴツとした体に夜の闇の中でもなお黒いと分かる鱗。赤い瞳。見た目はイグアナが近いだろうか? 前足は太く長いようだったけど後ろ足はどうだろう。 鞭のようにしなる尻尾も凶悪だった。


 奇襲特化のモンスターばかりだったからか、あんな風に足音を大きく立てながら襲撃してきた黒いドラゴンはなんていうかこう、カッコ良かった。


 そして最後のにやけ顔、やけに人間臭かった。俺にそう見えただけかもしれないが、俺しか見てないんだからいいだろ? あれはにやけ顔だ、ぶん殴ってやる。


 となるとまずはモンスターたちの行動範囲が知りたい。会わないためにも。毎回やられるのはシャクだしな。

 最終目標はあのドラゴンの討伐。決定事項だ。


 こういうゲームだと朝と夜でモンスターが変わったりする。まずは夜の調査だ。




「多分ヘイトや空腹値を設けて行動を定めるアトラクトファームなんかと一緒のシステムだろうな。主流だし」


 科学の発展により、生態系の形成は難しくはなくなったらしい。現実世界ではまだ無理だけど。気象条件まで含めるとまだ完全な支配はできないとはどこの国の科学者だっただろうか。

 ゲームで主流になっているのは通常Mobのモンスターで生態系を作るエネミーエコシステム。様々なゲームで取り入れられるくらいにはメジャーになったシステムだ。ちなみに日本発祥。


「確かあれは徘徊系ボスエネミーは頂点捕食者も兼ねるって条件。肉食以外のボスは固有の領域内のボスにならざるをえない……みたいなデメリットもあったはず」


 レイドモンスターをイベント限定で設定しようとしたとあるゲームで主要キャラクターである王族が軒並み食われたっていうお話(じつわ)がある。

 エネミーエコシステムを作った人曰く、『レイドモンスターを生態系に取り込むな』だそうで。


「となると……あのドラゴンよりでかいのはいないよね? ね?」


 いないといいなぁと願いつつ、まずは動かなそうなアイツから調べるとしようか。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 森を歩く、というのは難しい。目印がない。

 けれどこのゲームにおいては前と同じ場所を目指すのは苦ではない。正しくは()()()()()()()()()()()難しくはない、だ。

 なんせ敏捷値はアクセサリーの草履の効果も合わせてたったの5。歩くスピードはゆっくりだ。

 そしてリスポーン地点。寝転がった状態から起き上がるのがリスポーンの強制ムーヴのようだが、ありがたいことに()()()()()()()()()()()だ。つまりそこから動き始めるのなら前後左右は前と同じだ。この仕様は多分初期地点だからだと思うけど。

 

 ということで、


 ざっざっざ、


 ざっざっざ、


 ざっ


「確かこの辺だったな、大口(おおぐち)くん。」


 動き回るモンスターを追うのは無理だが、動かなそうなのは探しやすい。確かこの辺り。


 ふっ、こんなこともあろうかと。


「取り出したるは木の棒。装備できないやつ」


 アイテムは持ち歩くものだ。


「とりあえず音はセーフ。声を出しただけじゃ反応しないのかな?」


 これでいなくなってたらただ独り言呟いてる痛い奴ですが……さて、どうかな?


「ほいっ」


 一歩先くらいに木の棒を投げる。そして落ちると同時に


 ぱくん!!


「出やがった! 音じゃなく重さでもなく口に乗るだけで反応するのかこの()()()!?」


 そして何事もなくズズズズズと潜っていく!? アウトオブ眼中!? 本当にピンポイント罠張りモンスターなんですか!? 生態系のお話が無意味に!?


「いやいや、待て待て冷静になれ……。

 つまりこいつ(ナマズ)が待つほどモンスターが通る道……と考えよう」


 どっか隠れられる場所……茂み? そんなサバイバルじゃないんだから……。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





ぱくん!!



「「ギュギャァァ!!」」



「大漁じゃん……」


 おそらく俺を襲っていた四足動物、その群れがナマズくんのお口でぱっくんちょされる様子を茂みから見つめていた俺。その数5、6匹。そりゃあここで罠張るわ。


「だがこいつは使えそうだ……」


 件のナマズはまたズズズズズと潜っていく。同じ場所に居続けるモンスター。




 願わくばフクロウ野郎にも噛みついてくれないだろうか。

 隠れてる間に2回食われたんだけど。なんで上から来るんだよ茂みの意味ないだろ。

 


 夜の観察はこのくらいにしよう。見たいものは見ることができた。

 今日はもう寝て、明日は朝の観察だ。


 

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