人知れず最前線、威風にはためく大旆を掲げて #1
右側の耳元でカラカラと「千鳥駆のメモリアーク」の風車が音を立て回る。それは一定以上の速度を観測したということ。バイクに乗って宙を蹴りって押し出し、スキルの力を借りて、漸く辿り着いた速度は高速を越えて。またスタートラインに還った。
『記憶装起』の条件は達成された。メモリアークがまだかまだかと回転を早める。逸る心をそのままに、俺は右手で耳朶に触れる。ピアスのヘッドが起動ボタンになっているからだ。
……今、起動を。
「……なんだ? ビビってんのか?」
バルトフリートから降りたリージェスがこっちを見ていた。まあ、見られていたなら仕方がない。まぁ? ちとビビってる。
「どうなるのか検討も付かないからな。多分速さに関する大きな力を得られるとは思うけど……残念ながら俺は記憶装帰とやらも知らなければ千鳥駆の記憶もあんまりないんだよな」
なんせ速さには手を焼いたが心臓狙いが分かっていた相手だ。それにあの小鳥サイズ。体力も防御力も低すぎて格上という気もしなかった。その記憶に関する力と言われても、ピンと来ない。
そんな俺の不安を吹き飛ばすように、リージェスが言う。
「作られたモノってのはどこまでも真っ直ぐだ。それはセーベルが作ったんだろ? なら大丈夫だ」
威風を取り戻した男はその髪型を櫛で整えながら敵となった兵士たちを見据えていた。
「作り手と担い手が真っ直ぐなら、道を違えることはねぇ。最短最速でエンドコンテンツに足を突っ込んでるんだ。楽しむくらいで丁度いい」
そういうリージェスの腕には緑色の魔力のラインが延びていて、その繋がる先は相棒のバルトフリートだった。そのバルトフリートはバイク特有のエンジン音を響かせている。ハンドルを中心に魔力が渦巻いている。こっちも何か起きそうだ。
……なんか取り残されている気分だ。この俺を置いていこうってのか? おいおい正気かワレ最速でレベル上限を迎えしプレイヤーぞ? 俺が最先端を行かなきゃサバイバル生活がただ不便なだけの無意味なものになるだろうが! 苦労しつつ誰よりも先に高レアリティーな素材で楽しめてるってのが唯一の利点なんだぞ!? あー、なんかこう、不安になってるのがバカらしくなってきた!
これからどれだけの強敵を倒してアークファウンに啖呵を切るという男が自分の装備にビビってちゃ世話ねぇわな! 行くぜ最先端! ボタンを押していざ鎌倉ぁ!
これがリベンジへの一歩目にして流行を先取りする男の本領、ド派手にいこうか!
カチッ!
歴戦竜と同じく二つ名を持つ最速の鳥、大地と大空を駆け抜けるランナーの息の根を止められたのは森というフィールドのアドバンテージがあったからに他ならない。無理難題を押し付けてきた強敵であり、既に倒した過去の敵、快刀乱麻を力業で断つ最速の流星の全盛期と最期を知るのは只一人。俺にのみ焼き付いた記憶が今顕現する!
速度に対する恐怖は塵となって消えた。風が全てを置き去りにするように、高まる期待は不安をはね除けた。
何を不安がってたんだろうな俺は、誰も知らないなら今から知らしめれば良いんだよ! 確か名前はイッテントッパ! 一筋に天を突く羽の力、見せつけてやろうぜ!
『Memory Loading!』
メモリアークからの音声。周囲に風が吹く。その風は段々と音を立て、砂塵を巻き上げ……俺を包む。あ、フラム、ちょっと降りてなさい。良い子だから。
竜巻と化した風が大きくなり空を回って急降下して……これは、俺に吸い込まれていくような……。あれ?
「意外と時間かかりそう」
「そうか。相手さんも待ってはくれないようだな。俺たちも行くか」
そういえば敵さんが隊列を組み直してるな。もう既に起き上がれない兵士もいるようだけど。
「リージェスも隠し球があったんだ?」
「ああ、今の俺は機械工魂乗士って職業でな。ついさっき2つの条件を満たして奥義が使えるようになったところだ」
「ついさっき?」
「ああ。条件は自ら作った装備品で結果を出すこと。俺の場合は移動速度だった。
そしてもう1つは自らの作った装備で人間を害することだ」
……それはまた難儀なことで。運営やっぱり性格が悪いのか?
「リージェスの主張とは噛み合ってないな、それ」
「まあな。だが守る為の力が要る。手に入るなら手を伸ばす。俺たちは真っ直ぐ突っ走るだけだ!」
リージェスの言葉に呼応するようにバルトフリートが吠える。それは準備は整ったという合図だったのだろうか、リージェスも大きな声でそれに答える。
「機魂合身!!」
瞬間、バルトフリートは壊れてバラバラになった。しかし緑色の魔力でパーツの一つ一つは繋がっていて、その全てがリージェスに近付いていく。
ハンドルが胸部に、シートは背中を守るように、四本のマフラーは翼のように、そして2つのタイヤを含めた多くのパーツは右腕に集中して再びバイクを形成する。使われていた猪将軍の素材たちが両足を覆い、猪頭のエンブレムが特徴的な髪型をそのままに顔を隠す兜になった。
変形が終わったのか背中のマフラーから白煙が出る。まとわりついた魔力を払うようにリージェスが肥大化した右腕を振ってポーズを決める。
率直な感想を言おう。
「見た目が怪獣なんだけど」
「これ防御力が元の装備参照なんだよな。猪王の突貫服借りられて良かったぜ」
いや猪頭そのままの突貫服着た上で頭も猪化して腕にバイク付いたらそれはもうモンスターなんよ。
リージェスがバイク化した腕を右腕を見ながら言う。
「なんかこれバケットホイールエクスカベーターみたいだな」
知らない単語だ。エクスカリバーとエレベーターが合体してるのか? 強そう……かな?
「バカでかい掘削機だよ。それより早く変身しろ。風で髪のセットが崩れる」
「いや終わらないんだから仕方ないでしょ」
「ポーズ決めてなんか叫べば大抵なんとかなるもんだ」
「そうかなぁ……」
うーん……ポーズに叫び、ね。リージェスのパクっても無理だろうし。あれはマシンナーズキャバルリーとかいう職業専門だろうし。んー……お? あったわ丁度良いのが。せっかく記憶を想い起こすなら名前も必要だよな。
俺は右手を上に掲げて叫ぶ。
「『イッテントッパ』!!」
と同時に右手を下げてコートを弾いて風に靡かせる。決まったぜ。これで上手くいかなかったらマジで恥ずかしい。
新しい不安を他所に、俺を包む風は全て消え、凪のような平穏が訪れる。良かった……。終わったってことでいいんだよな?
ん? なんか視界に違和感があるな。足も変な感じだ……。でも不思議な万能感というか、今からできることがなんとなく分かった。フラムもう戻ってきていいよ。
「みゅ!」
「人型のモンスターだな」
フラムは気にせず肩に登ったけどリージェスはちょっと引いてるじゃん。マジで? 薄々感じてたけどこれ、形変わってる? うわぁ既に手じゃない!?
体を見下ろす……なんか全体的に羽根が生えて……生え揃ってるな。腕は指なんてものはなく鳥の翼そのものだ。ファッションは茶色の装備だけど腕は翠色だ。袖口から破れてる。なんていうかカラーリングがチョコミント味のアイス。
足も……ウィンドアンカーと一体化したような履き心地。これ、靴履いてるけど中身は鳥の足になってるな? 軽くホラーなんだが? 勝手に人間辞めさせるな。
「それ剣持ったりできるのか?」
「これ翼は指を常に広げているイメージ。剣は無理っぽい」
ヤドリギしかりドラゴンの形見しかり、使いたい武器は多いんだけどなー。この翼じゃあな。とりあえず記憶装帰とやらのテキストを確認。
手を使う装備は装備不可? これウィンドアンカー無かったら素手素足で戦うはめになってたな。お? スキル【空踏み】が5回になる。滑空時に腕で起動を変えられる……鳥だな。え? 滑空できるの? ちょっと嬉しい。
あ、滑空時に蹴撃の威力が極大で……死角に入ると【空前絶後】が発動可能? 何それ……。
そして使用限界とか無いのね。まぁ発動の為の速度がそもそも難易度高いもんな。ハードルを越えれば使えます……みたいな感じなのか。
「ウィンドアンカーがなかったら積んでたな。セーベルさんに感謝だ」
それにしても鳥と機械(猪モチーフ)が背中合わせとは。分からない世界観だこと。少なくともこれが最先端なんだからこの世界の行く末が気になるところだ。
「ん? なんか視力上がってるな。敵さんの奥の方に見覚えのある和服の仮面男がいるぞ」
「あん? そいつは多分漢服だ。ってことはこっちが本隊で間違いなさそうだな」
「海岸方面は無人の陽動か、それとも数人は随伴してるかな?」
それにしてもこの中世世界で漢服とは。流行ってモンを理解しているのか? 今の最先端ファッションは猪のセットアップか梟の翼を取り入れたノースリーブやぞ。翼の都合で破れたんだけどこれ直るかな?
おっと、時間が無いんだった。
「じゃ、行ってくる」
「ああ、任せたぜ。そんで任しとけ!」
フラムしっかり捕まっててな。さてダッシュからの大ジャンプ、そして【空踏み】を1歩、2歩、3歩!
お? 翼を広げて……おー!! ふらいあうぇーい!! ってうわ滑空ムズい!? 身体を真っ直ぐ伸ばすの難し過ぎ、アニメとかに出てくる鳥人間ってどうやって飛んでるんだよ!? 骨格? 骨格が違うのかな!?
「みゃう~!!」
「5回の《空踏み》のリキャストが全部別枠なのありがてー!!」
【空踏み】で高度を上げて頭から斜めに落ちるように、そこから腕の角度を少し変えて滑空! 翼と腹で風に乗るイメージ! うーん、正解が知りたい!
「うん、とりあえず空を走って行くか!」
「みゃう!」
にぎやかに空の旅に出たゼノンを見上げていたが、どうやらこっちは戦闘開始みたいだな。
「ほう? またお主か」
「そいつはこっちのセリフだぜ」
和服、とゼノンが言ったのを直ぐに訂正できたのは忘れられねぇ奴が居たからだ。漢服に顔を半分隠す面を付けた古臭い話し方の男。この男がただのNPCな訳がない。そう感じるほどにこの世界では異彩を放っている野郎だ。
「その姿……あぁ、以前のカラクリと融合した訳か。またまた珍妙なことよ。これだから降り人は面白い」
「ハッ! 部下を一閃鮫の餌にするような変わり者に言われたくねぇな!」
自分が映ってるPVを見たくはなかった。しかし一度だけ見たとき、逃げた後にこいつがやったことを知った。報告に来た部下を鮫型のモンスターに躊躇なく食わせやがったこいつは許せねぇ。俺が人を救った後で行われたムゴい諸行を映した運営も気に入らねぇ。性格が悪過ぎるぜ。
「ふむ? 貴様も知っての通り降札で使役するモンスターには対価が必要なのだ。手頃なものを与える、何かおかしいことがあるかな?」
「ぐははは!! 嘉明殿! 降り人なんぞに何を語っても意味は無いぞ! 所詮は模造品! 人ですら無いのだから!」
隊列を組み直した兵士達を割るように歩いてきたのは銀の鎧を着た屈強な偉丈夫。筋骨粒々っのはこういうことを言うんだろうな、2メートルはありそうなハルバードを担ぐ姿は伝説で語られるような英雄そのものだ。ったく、ゲームバランスを考えろ。
にしてもこのヨシアキとかいう野郎が関わるとプレイヤーの設定がボロボロ出てくるな。降り人とかいう割りに人の模造品だと?
つっても考察は後にしたほうが良さそうだな。ただでさえ厄介な術を使うヨシアキを相手するってのにどう考えてもフィジカル面で敵わなそうなおっさんが……あ?
「おい、おっさん! 後ろだ!」
「がははは! そんな見え透いた手に乗るわけが、あ?」
ドサッ! ……ドサッ!
「対価にしてはバハルダード将軍は上等過ぎるか。……まぁいい。これも実験というもの」
いつの間にか呼び出されていた一閃鮫によって頭から両断されたおっさん。鋭利な刃で切り裂かれたからか血は飛び散らず、両断された体は時間差で倒れ伏した。
橋には血溜まりが出来て、それを見た兵士たちは驚愕か恐怖に表情を変える。しかし瞬く間にその兵士たちは首を切り落とされて悲鳴すら上げずに死体となった。
一体何が起こっているんだ……!?
「いやなに、貴様のその姿、人と機械が融合するというのは実に興味深い。ならば人と魔物を混ぜるのもまた一興ではないかね?」
ヨシアキは徐に手に持っていた札を二つに別れたおっさんの体、その空いた隙間に投げる。……嫌な予感がする!
「おい、待て、止めろ!」
「封魔屍人混成・一閃鮫」
兵士を切り裂いた鮫は再び札に戻り、その札が死体の血溜まりに落ちた瞬間、強い魔力と共に外に出てきた。しかしそれはもはや鮫ではなく、死んだおっさんとその武器すらも取り込んだ一体の化け物で……。
「ふむ、バハルダード将軍から名を取って……バハルシャードとでも名付けようか」
「グギャグガァァァァ!!!!」
人間の体に鮫の鱗、剣のような角の生えた頭。尾はバハルダード将軍とやらのハルバードの先端を備えた異形過ぎる魔物。人であったはずの表情は消え、そこにあるのは飢えと悪意。
「さぁ、降り人よ。人と機械、人と魔物、どちらが強いか試そうではないか」
愉快そうに口を歪めるヨシアキ。その目にはただただ愉悦の感情しか無い。ああ、そうかよ。
「頭にキたぜ、クソ野郎!」
この男がどれだけ重要なキャラクターだろうがどんな機密に関わってようが軍人のこいつが消えてドミナディという国が滅びようがこのゲームのシナリオがお釈迦になろうが一切の妥協も許さずに今日この場でぶっ潰す。
主人公は鳥人間で腕が翠色の翼になってて足は脚だし頭は猛禽類なジュナ○パー(チョコミントカラー)みたいな感じになってます
リージェスは右腕にバイクくっつけてサングラスつけて胴体は猪頭なのでへヴィー○オモン(猪ver)みたいになってます




