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ピッキングアウト  作者: もぶ
威風の一角と造形の街
35/72

非日常にようこそ……?


 長かった……まぁ色々あったから密度は凄いが。あくまで高校生のゴールデンウィークと考えれば何もしていないに等しい。いつの間にかお爺ちゃんは退院していたらしいけど。


 といっても登校2日挟んでいる分、心は重くない。いやー、テストがあるわけでもない休み明けなんて清々しい気分ですよ。


「よっ」


 校門を潜ったところで声をかけられた。


「棚橋。これ俺からの奢りな」


「おー、おはよ。 貰っとくわ、ありがとう(かけはし)くん」


「私からもこれあげる」


「おー、おはようね。分からんけどありがとう八重樫(やえがし)さん」


 誕生日はまだ先なんだけどな。朝からジュースとグミを手に入れてしまった。これは何? 死地に向かう勇者への餞別か何かなの? ところで「じゃばらサイダー」って何味よ。「みかんグミfeat.せとか」も見たこと無いな。どこで売ってるの?


「くれた理由は分からないけど教室で渡してくれればいいのに」


 なんか注目集めてるし。うーん、まぁ梯くんは背高くて厳つい顔してるし、八重樫さんも純和風美人だしな。下級生上級生からの視線もあるのはそのせいか? というか上級生に関しては去年やらかしてたっけ。あれは素人にムキになった先輩が悪いんだ。俺、悪くない。


 と考え事をしていたら……目の前に人が。危ない、アンカーフッドが使えない? 仕方ない自力で止まるか。


「すいませ、えっと……?」


 まさかのこっちを見下ろすほどの身長とは……2メートルありますか……? そしてなんで見下ろしてるの……純粋に恐怖ですよ? 同級生にはいなかったと思うし多分先輩かな。 


「棚橋先輩!」


 嘘だろ一年生? え、何食べたらそんなに背伸びるの? 詳しく教えて?


「これ、うちの店の商品なんですけど、あの、どうぞ!」


「おお、ありがとう……?」


 待ってくれ、何故俺は見ず知らずの下級生から紙袋を渡されるなんていうバレンタインの高城みたいなシチュエーションに巻き込まれているんだ。しかも相手が2メートルある男子なんだが? 誰得よ。


「応援してます! 頑張ってください!」


「あー、うん、ありがとね?」


 よし、渡せた! なんて清々しい顔で走っていった所悪いんだがね少年、俺はどんな表情になればいいんだい? しかも紙袋から凄い良い匂いがする。これフライドチキンとかだよねきっと。ほんのり温かいことを考えると揚げたての。マジ? ちょっと嬉しいな。精神的な恐怖はあるけど。


 その後も知ってる人(同級生)と知らない人(下級生かな……多分)から色々貰いながら漸く教室に着いた。席について気になっていた紙袋からものを取り出す。やはりチキン! 温かいうちに食べよう!


「教室で骨付きのフライドチキン食べてるやつ初めて見た」


ほれ、ふまふひふ(これ、うますぎる)


「何言ってるか分からないわ」


 なんだこれジューシーなんだけどさっぱりしていると言うか、ザクッカリッと揚がった衣としっとりジューシーな肉が絶妙にマッチしているし、これあれだな、肉を衣の味付けとは違うタレで漬けてあるんだな? 凄い美味いんだけど揚げたてを届けられる距離の店で俺が知らないだと!? どこだ、どこの店だ……花菱うどん!? え、うどん屋でこのクオリティーのチキン売ってるのか!? 


「食いしん坊キャラに変えたのか? そんな荷物持ってきて」


はへへからへいい(食べてからでいい)?」


「会話しろ」


 がぶっ! ザクッじゅわ……もぐもぐもぐもぐ……。

 がぶっ! はふはふ……じゅわ……もぐもぐもぐもぐ……。

 がぶっ! ザクッザクッ……もぐもぐもぐもぐ……。


 プシュ! ごくごく……ぷはぁ……。


「これ美味しいね梯くん」


 だろー? と少し離れた席から返事が聞こえた。柑橘系のさっぱりとした炭酸だった。チキンと合うこと修学旅行と木刀の如し。


「で、何の話?」


「全力で食うんじゃねぇ。しかもうまそう」


「聞いて驚け、メチャクチャ美味い」


 俺、リピーターになります。後で店名で調べよう。


「で、何の話だっけ」


「何をそんな持ち込んでるんだって話よ」


「貰い物だから俺悪くないよね?」


「貰い物?」


 ちなみに今の台詞は去年のバレンタインにお前が言った台詞だからなこの野郎。このグミもおいしい。もぐもぐ。


「なんか歩いてたらくれた。せとかちゃんさん、これおいしいねー」


 ガタ、ガタン! と教室の端で音が聞こえた。随分重厚感のある返事だな。八重樫さんは八重樫せとかさんと言うのだ、さっき思い出した。


「貰い物……ああ、そういう」


「知ってるのか高城ン」


「いや、ピッキングアウト絡みだろうなってさ。確か……えーっと?」


「梯くんと八重樫さん?」


「そうそう、名前よく覚えてんな。その二人もやってたはずだから」


 むしろ何故この名前で覚えられないんだお前は。そして何故ゲームやってることは覚えてるんだ。


「んで? なんでゲーム繋がりで俺にプレゼントが来るんだ?」


「本気で言ってる? 昨日のPV観てないの?」


 PV……? はて?

 昨日は……確か厳つい猪王頭がいい感じのサイズだったから『これ服になるのでは?』と思って作ろうとしたらスキルも利用したら勝手に動き初めて……完成したのが原始人の服こと『王猪の突貫服』だ。突貫って突貫工事的な意味で名付けられてます? 直進行動に補正有りとかいう謎のバフはどう使えばいいんですか?

 で、その後は森で写真撮って高城に送りつけて……勿体無いから服は脱いで森を散策。フクロウをスキル『戦記降臨』で強制戦闘状態にしてボコしたんだっけ。いやー便利だよこのスキル。逃走行動の解除がヤバい。ヘイト稼ぐとかどうでもよくなる。 

 まぁフクロウが常時飛んでるわ遠距離攻撃(目からビーム。大山猫の眼(リンクスアイズ)なかったら負けてた)しかしないわで時間かかって……アイテム確保してそのままログアウトして寝たな。あの森からフクロウを殲滅……すると貴重な鳥肉(誤字ではない)が無くなるので程々にしよう。


 すると高城が呆れたように言う。


「お前、PVに出てたぞ。ドラゴンとデカイ始祖鳥と一緒に」


「あー……え? マジ?」


「俺としてはバイク作ったリーゼントのプレイヤーも気になるけど、まぁレイドボス相手にドラゴンと共闘するプレイヤーは注目集めるわな」


「嘘だろリーゼントのほうが気になるだろ産業革命してるじゃん」


 中世くらいの世界じゃなかったっけ。エンジンどうなってんだろ……。そして何故リーゼント。キャラメイクの時に無かった気がするんだけどまさかオリジナルか?


「お前……強そうなドラゴンと共闘してレイドボスを第三? 形態まで追い込んでおいて注目されないと思うか? 仲良さそうな映像も合間合間に入ってたし、理不尽に振り回された棚橋を皆気遣ってくれてるんだろ」


「うーん、そんなに気遣ってもらわなくても……」


「そういうと思ってお前が送ってきたスクショは掲示板に上げといたから。さすがに総ツッコミだったよ」


 分かってるじゃないか高城。いやまぁ、あのふざけた格好が晒されたと考えるとあまりいい気分はしないが……可哀想な目で見られる方が今の俺は嫌な思いをするだろう。

 可哀想? 大見栄きっといて負けそうになったら怖じ気付いて、挙げ句の果てはドラゴンにアークファウンの討伐を()()()()()体たらくだぞ? 悲劇の主人公なんて見方は勘弁だ。あれは俺の全力であり挽回したい過去だ。

 アークファウンへ復讐したいんじゃあない。リベンジしたいんだ。強くなったとドラゴンに認めて貰えるような、かっこいい倒し方をしたいんだ。


「他人からのよく頑張ったで賞なんて要らない。いつだって欲しいのは俺自身の納得だ」


「……そうは言っても顔バレしてるからしばらく続くんじゃない?」


「……なんで顔バレしてんのかな。俺そんな学校で目立ってないはずなんだけど」


「よく先生の荷物運びとか手伝ってるだろ。それに困ってる人に声かけて落とし物探したりしてるし。後は俺と一緒にいるからかな」


「最後の理由じゃなければいいなぁ……」


 モテ男に巻き込まれるのはごめんだぜ。カップリングなんて言われた日には高城の頭は丸坊主決定だ。


 その後、担任の武藤先生から購買の焼きそばパンを貰った。どうやら先生もPVを見た口らしい。ピッキングアウトはやっていないそうだが。『頑張れよ』と言われたけど俺は結果報告はしませんよ? 今回はたまたまだからね? 後その優しそうな表情はテストの結果を配るときにしてほしい。いつもコワモテじゃんあんた……。












◆ ◆ ◆ ◆ ◆






 さて、スターテイルからスタートしてブレイクベアの撃破を挟み、森を進んだ先の街は《針葉の街・サイプレス》だった。ここから三方向に分岐するらしい。


「負けてられないな」


 ピッキングアウト……ゲームの中では異例とも言える『選り抜き』をしたゲーム。

 まずはカートリッジかダウンロードか。次は諦めるか残るか。そして最後に……成し遂げるか。


 無理難題を理不尽に押し付けられ、逃げ道を用意されて尚挑戦し、成し遂げたプレイヤーが二人。


 そのうちの一人は会ったこともないが……奇抜な髪型と溢れるほどに(みなぎ)っていたその威風は俺こそが先頭を行くものだと言わんばかりの堂々としたもので。この世界で一からバイクを作ってみせたその知識と情熱は凄まじい。その我が道を行く姿に憧れる。


 そしてもう一人。


 

「『いつだって欲しいのは俺自身の納得だ』……か。ったく…………相変わらずかっこいいよ、お前」


 討伐しようとしていたドラゴンといつの間にか敵とは言えない関係になりながら、それを理不尽に引き裂かれた男。炎に飲まれ圧倒的な力量差を見せつけられて尚、俺もいるぞと雄叫びを上げるその眼は……喜色に輝いていて。

 そんな本気の眼を……俺もしてみたいと思ってしまう。


「負けてられないよ。イージーモードで追い付けないなんて……それこそ格好が悪いもんな」


 今日はパーティの集合時間は17時半。その中には意中の人もいるわけだが……それはそれ。これはこれ。

 楽しもうと思っていたゲームで……俺もあんな風に本気になりたい。


 その為には実力がいる。レベルとは違う実力が。己のがキャラクターを十全に使いこなす実力が。ゲームだからこそのスキルとスキルのコンボが。その為の種は既に撒いた。


「どれどれ……」


 掲示板に匿名にせずに投稿したのは訳がある。大勢であることの強みは試行錯誤をする頭数の多さだ。一人で島を回るより、大勢で複数の街を回った方が効率は良い。

 MMOだからこそ『目立ちたい』一心で喧伝するようなプレイヤーがいるのだ。そしてその情報を集めやすいように此方も情報を売るのだ。勿論売って損の無い情報に限るが。情報を売っている人間というのはそれが役に立てば立つほど恩に思われて周りから情報を得やすくなる。

 勿論そう上手くはいかないかもしれないが……多勢に無勢、ソロに追い付くためにマルチを利用する。


 それに良い情報があった。


「スキルは実際に見ることで獲得できる……ゼノンの言うことが本当かどうか、戦闘込みで観察と試行と行こうか」


 空を()()()蛙ことリコイルフロッグ。サイプレスから先へ進んだプレイヤーによって発見されたそのモンスターは恐らく【壁蹴り】の上位である【空踏み】を持っているだろう。


「タイムリミットは移動含めて40分。飛ばしていこう」


 理不尽なんて無くとも、進みたい理由ができたから。

 バースライトは鍛えた剣と共に、己の道を模索する。


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