活火激発、歴戦の竜と異種の輩#1
「嘘だろ……」
竜宮洞に着いた俺の目に写ったのは鱗が剥がれ、至るところに切り傷と打撲の痕を付けたドラゴンの奥さんの姿だった。
青い血は大地を侵食するほどに流れ出ていて、その中心に伏せている奥さんは……もう、助からないと分かってしまった。
俺は駆け寄る。
「奥さん! くっそ、回復アイテム、あああ、なんで!
なんで持って無いんだ!」
そうだ天誓花のミサンガ! 装備対象に選べない!? ふざけんなよ!
「ギュ、……ギュア……」
「奥さん、大丈夫か!? 今助ける、なんとかするから!」
なんか無いか、そうだスキル、取得できるスキルとかになんか、なんか……
「ギュア……」
奥さんは俺を見つめ……静かに呼吸を、深い呼吸を始める。一体何を……。
「キュー……」
《スキル《竜呼吸法》を習得。アンロックされます》
「は?」
竜呼吸法? 習得? そんなスキルあったけど……。
「キュァ……」
奥さんが俺を見つめる。傷だらけでズタボロで、今にも死にそうなのに……その目は曇りなく俺を見ている。俺に、託そうとしている?
「竜呼吸法……すぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁ……」
深い呼吸、意識を集中させて……続ける。これは、活力? 魔力? が高まって……体に循環しているのか。
「キュア」
奥さんの姿がぼやける。体が透けていくのを見ても俺は呼吸をやめない。何の意味があるのかは分からなくとも、奥さんが最後に俺に教えようとしているのならそれを受けるのが俺の役目だ。
そして奥さんの身体は光る粒子になって……そのまま消えてしまった。俺の顔を伝うのは涙なのか。はは、すげぇなこのゲーム。涙まで出るのかよ……。
呼吸を維持する。せめて涙が止まるまでは。
《スキル《竜呼吸法》を皆伝されました。
スキル《弔息吹》を習得。
スキル《咆哮》を習得。》
《特殊クエスト【竜夫人の願い】を受諾しました》
空を見上げる。夜空はこんなに暗かったかよ。空に二匹の竜がいる。一匹は顔馴染みだがもう一匹は知らねぇな。
ああ、竜じゃねぇのか。 この距離でも翼と尾羽根が分かる。鳥にしては竜よりの見た目、月明かりで金色に輝く鱗、相手してるドラゴンが空を駆け回ってるのはどういう状態なんだろうな。
ふぅ……落ち着け、俺。熱は心に溜めておけ。
さて。二頭の激突をただ眺めている? それで終われるか。
なんとなく、今俺がしなくてはいけないことは分かった。スキル《咆哮》を発動する。
「降りてこいやぁぁぁぁ!!!」
挑発の効果でもあったのか鳥みたいなデカブツは俺を視認し、そしてわざわざ俺目掛けて急降下を選択した。
近付いてきて分かった。牙の生え揃った嘴、爬虫類の目、こいつは始祖鳥とかの恐竜がモチーフなんだな、ドラゴンも丸のみできそうなサイズ感以外は!
顔を横に倒して口で俺を食おうとするデカブツに俺はスティックを取りだしスキル《アンカーフッド》とスキル《ジャッスル》を発動する。
ギガィン! という破壊できない武器に噛みついたデカブツは急降下をしていた、俺は身体を捻ってスキルの補助も含めてスティックを掴んだまま体を左に倒して押しだす。襲撃の勢いそのままに変則的な巴投げをされたデカブツは背中から森に落下した。そして上空から、
「グラァァァ!!!」
大回転したドラゴンの尾がデカブツの喉元に直撃した。鈍くて大きな音がした。いいのが入ったんだろう。
さぁ、弔い合戦が始まる。
ドラゴンの尾による叩き付けは極大とも言える一撃だったが、残念ながらデカさ=体力の大きさっていうのがこの世界の真理だ。サイズ感が大型旅客機とバスだけどそりゃあ旅客機は簡単にはつぶれない。
だが立ち上がる前に追撃ってのもまたセオリーなんでな。
「スラッシュ! かぁー! ダメージ1とかじゃねぇかなぁ!?」
当たったのに跳ね返され、切り返しすらできないとかはじめての体験だ。羽毛まで鋼でできてるのかこの鳥は!?
息吹、アッド、からのヘヴィスラッシュ!
ギィン!
「がぁぁ諦めはナンセンス! 当たればダメージ、公式が言ってたもんなぁ!」
弾かれ方がドラゴンとかとも違うから例外の可能性もあるけどな! 弱体ギミックとかある!?
ハンドガン2つを取りだし構えて撃つ。
「弾かれてはない、魔力直接のほうが効くのか? ドラゴン、ブレス打ってみてくれ!」
「ガァァァァァア!!!」
ゴ、ガァァァア!!! ととてつもない轟音を響かせ炎のブレスを放つドラゴン。俺の指示に従ったとかではなくこいつも試すことにしたんだろう。頭を狙う辺り私怨凄いけど。
「……」
始祖鳥はカブトムシ以来のだんまりか。いや、歯牙にもかけないってやつか? 強キャラムーヴしやがって。
「そろそろ起き上がるか……」
奴は腕の代わりに翼を持つ鳥ではない。翼の途中で三本の爪を持つ始祖鳥だ。仰向けからでも起き上がることができるようだ。
「ドラゴン、もっかい叩き付けとかできない?」
ドラゴンは両方の前腕を大きく振りかぶり同時に八つの真空刃を打ち出す。その不可視の刃は起き上がる始祖鳥の軸にしている右翼に炸裂したように見えたが……金色の鱗に傷は無い。なるほど? あれくらいじゃ止められないのか……。
「これ、ドラゴンじゃ勝てねぇようになってるのか?」
頭に過った絶望を頭を振って打ち消す。
設定、イベント戦闘、とにかくありえないくらいの力量差だけははっきりしている。だが、地に落ちた始祖鳥の顔は微かにだが焼けた痕がある。
ドラゴンの攻撃は効いているんだ。
「問題は噛みつかれただけでもドラゴンは致命傷になりかねないってとこか」
体格差は蜥蜴と鷹くらいはある。俺と始祖鳥? タンゴムシと鷹だよ。そもそも食われる、という概念があるゲームだと体格差は重要なんだよな。質量と許容力は自然界では重要なファクターだからな。
ドラゴンは怪我をしている様子はない。俺もダメージは無いものの魔力は消費してしまっている。だが始祖鳥相手でも耐久値がないビギナーズ武器なら戦えそうだ。ビギナーズシールドとかあったらヤバいのでは? 一生使えるんじゃ?
「ドラゴンがアタッカー、俺が盾になれれば……」
ステータスで劣るプレイヤーが束になったってこの始祖鳥に敵うとは思えない。となれば装備を鍛えて整えれば勝てるのか? 違う、それならドラゴンの体なんてどれも一級の武器だ。
じゃあ雑魚で大した爪も牙も持たない人間の取り柄は? 決まっている。
スキルだ。
「レベルが低くてもあんな無理矢理な投げが成立したんだ。スキル、それしかない」
だが防御に使えるスキルなんてカウンターバッシュとその派生ジャストカウンター。そして本命はプロテクション。だが、
「リキャストタイムに相手の特殊技……くっ、物理ばっかのこの島で育った弊害が……」
魔法を受け止めたらスキルがそっちに派生するとかないのか!? カブトムシ、お前もっと防ぎやすい技を………………ん?
「カブトムシ……スキルの派生? おっと、そろそろ来るか」
そんな睨むなよ始祖鳥。俺はまだ何もしてないだろ?
おお? なんか魔力を口に集めて……、なるほど、赤いから炎属性だったりします? だからドラゴンのブレスがあんまり効かなかったのかな?
「森で炎なんて吐くなバカ野郎ぉぉぉ!?」
しかも俺に向かってかよ!? いやこれ即死!
「ガァァ!!」
ゴワァァァァ!
「熱、い!?」
死ななかった。俺を庇うようにドラゴンが覆い被さったからだ。
俺を守る? ドラゴンが?
「ァァ……」
「火傷とかは無いよな? ありがとう、助かった」
ドラゴンの下から出た俺はその月明かりを弾く鱗を見て、ドラゴンが何かの防御手段を使ってまで俺を護ったことを理解した。鱗が普段よりもなだらかになって光沢を増して鋼のようになっている。鱗の硬質化? 初めて見る技だな。
そして俺もまた、こいつを守って牙を爪を、始祖鳥に届かせないといけないと覚悟を決める。
「なぁ親友、俺の作戦に乗ってくれるか?」
「ガァ……」
頷いた後、俺を見てから顎をくいっと動かして自分の背を見るドラゴン。
「乗れってか?」
「ガァ」
オッケー、今の俺ならジャンプで三メートル程度は飛べるからな。ひとっ飛びだ。
飛び乗った背中はごつごつとしていて……とても広い。は、頼りにしてるぜ親友。俺も頼られる男にならなきゃぁな!
「まずはあっちの森に誘導する。ヘイトは俺達に固定されているくらいには苛立ってるな。管理とかしなくていいのは楽でいい」
「……」
熱い眼差しだぜ。するのは寒気だけどな。このデカブツに勝てるのか? いやいや、勝てるかどうかじゃない。勝つんだよ。
「ドラゴン、向こうに走ってくれ。後ろは俺が見張るからよ」
「ア?」
「作戦だよ、勝つためのな。俺を信じろ。俺はもう諦めることはないんだよ」
逃げ? いいや、これは攻めと賭けだ。
この島を奴に紹介してやろう。
目指すのは大樹生い茂る森方向。木を伐れば出てくるアイツだ。
「おっと? なんか技出しそうな雰囲気だな」
翼に魔力が……ん? そういえばなんで魔力が見えてるんだろ。そういうゲームなのかな。でも今まで色なんて……おっと黒っぽい魔力が今にも発動しそうだ。
「ドラゴン、なんか羽根を飛ばして来そうだ、背中は守るから足は頼むぜ!」
シュン!
放たれた羽根は3つ、速い! アンカーフッドは地面に俺の足を繋ぐスキル、それはドラゴンの背でも同じこと。足場さえあればいい。そしてカウンタースキルは今2つあるんだ。
「ここ、ジャストカウンター!」
1つ目の羽根はジャストカウンター、これはダメージが発生するカウンタースキルだ。剣の刃で羽根を迎撃、そしてで俺自身の腕力で切り返してに2つ目を面で捉えてカウンターバッシュ! 最後3つ目をプロテクション!
ふぅ、アンカーフッドが効果時間があるタイプで良かった。
「なぁドラゴン、俺は今不謹慎だが楽しくなってきたぜ」
できることが増えるってのは、楽しいんだな。
「…………ガァ」
今、笑ったか?




