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Code_Sakuya/レイラインの軌跡  作者: 阿僧祇瑛佑
第三章 揺らぎ残像…そして覚悟

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第三章 揺らぎ残像…そして覚悟

◆〜沈黙はざわめきの始まり〜


朝の光が斜めに差し込み、

世界がゆっくりと淡い金色に満ちていく。

京一の影は道端の先へ細く伸び──


ほんの少しの道程なのに、

歩みのリズムはどこか重い。

胸の奥に沈んだ“あの光景”が、

まだ抜けていない。


『……さっきの光景が頭から離れない。

 あれは……何だったんだろうか』


音と想いが、

ひとつのリズムになって脳裏を駆け巡っていた。


学生を追いかけていく──

それが自然な流れだと、

京一は疑いもなく思っていた。


だが現実は違った。


犬は学生を追わず、

ほんの一瞬だけ京一の方を振り向いた。

いや……それすら“思い過ごし”と言えてしまうほど、

微細な違和感だった。


悶々としたまま、

ようやく家にたどり着いた。

日が高くなる前に帰りつけたことに、

わずかな安堵があった。


玄関の扉を閉めると、

まっすぐ伸びた廊下の突き当たりに

ガラスのはめ込まれたリビング扉が見えた。


扉を押し開けると、

南向きのベランダからの光が

部屋の奥に薄く残っている。


右手の壁沿いには、

仕事用のデスクとロータイプの書棚。

モニターとプリンターが並び、

その奥でPC本体のランプが点滅していた。


左奥にはアイランド式のキッチンカウンター。

背面には冷蔵庫と食器棚が並び、

その手前にはソファがベランダに背を向けて置かれている。


京一は靴を脱ぎ、

そのまま書斎机へ向かった。

「息抜きのつもりで出かけたのに……」


ため息ともつかない落胆が漏れ、

深く座った椅子が「キシッ」と小さく鳴る。


「……また振り出しに戻ったか」


呟きながら、

京一はPCの電源を入れた。


このPCはメーカー製ではない。

パーツ選びから組み上げまで、

すべて自分の手で仕上げた

“こだわりの自作機”だ。


3.2GHzのCPU。

合計2TBのHDD。


そして──

当時としては十分すぎる 32MBのDDRメモリ。


広い机の上に置いた21インチの液晶ディスプレイが、

静かに淡い光を返している。


京一は仕切り直すようにマウスを動かした。


画面には、

検索したサイトや画像が、

レイヤのように幾重にも重なっている。


「資料といっても、内容はほぼ同じだな……」

「どれもこれも、

 当たり障りない解説ばかりだ」


京一は検索を続けた。

だが、

どのサイトも似たような解説ばかりで、

記事の素材としては心許ない。


「……弱いな。どれも決め手に欠ける」


モニターに向かって小さく呟く。


タブを切り替え、

別のワードを入力する。


“三内丸山遺跡”

“皆神山”

“尖山”


──どれも興味深い。

どれも“線”にならない。


京一は深く息を吐いた。


「……編集長に頼むか」


呟くように言い、

京一はスマホを手に取った。

編集長の番号をタップする指が、

わずかに震えていた。


数回のコールのあと──

編集長の声が耳元で響いた。


「京ちゃん、

どうした? あれから進んでるか?」


京一は一瞬、言葉を失った。

喉の奥がひりつくような沈黙。


無理に声のトーンを整えて答えた。


「……正直に言うと、

 資料集めで難航してます」


「難航?」


編集長の声色がわずかに低くなる。

その響きには、

叱責の匂いが混じっていた。


「……いや、その……なんというか……」


返ってくる言葉を恐れ、

京一は言い淀んだ。

指先が机の端を無意識に叩いている。


「どうした? 京ちゃんらしくないな」


編集長の声は柔らかいが、

その奥にある“仕事の温度”は

隠しきれていなかった。


「資料はある程度、見繕っているよ。

 ただ……」


京一は言いかけて、

喉の奥で言葉を止めた。

説明しづらい重さが胸に引っかかっている。


『やる気の問題とは絶対に言えない……よな〜〜』


飲み込んだ言葉が、

胸の奥で重く沈む。


「響かないんだ。

決め手に欠けるというか……」


言葉を選びながら、

京一はぽつりと漏らした。


「で、どうして欲しいんだ」


編集長の声には、

わずかな凄みがにじんでいた。


「忙しいことは承知でお願いしたい。

 関連資料があるなら貸してほしい」


京一は咳を切るように言葉を絞り出した。


「なんだ、そんなことか。

いや〜、

てっきりお手上げの電話かと身構えたよ」


『図星……読まれてる』


編集長の勘の鋭さに、

京一は小さな畏怖を覚えた。


「そういうことなら、いくつか送ろう」


先ほどとはまるで違う、軽いトーン。

「助かるよ。よろしく頼む」


安堵のせいか、

京一の口調は自然とため口になっていた。


「なるべく早いうちに送るから…、

 後は頼んだよ」


編集長の声は、

さっきまでの鋭さが嘘のように軽かった。

京一は胸をなで下ろし、

スマホを耳から離した。


通話が切れる直前──

編集長がふっと笑ったような気がした。


京一はしばらくスマホを見つめた。


言葉にならない何かが喉の奥に引っかかり、

ゆっくりと息を吐く。


「……まぁ、助けてくれるならいいか」


例えようのない安堵だけが、

静かに胸へ広がっていった。


外はもうどっぷりと日が暮れ、

深い闇が窓の向こうに沈んでいた。


ダウンライトに照らされた書斎。

作家にしては、

不釣り合いなほど大きなワークデスクの端に、

自慢のデスクトップPCが、

どこか申し訳なさそうに据えられている。


キーボードとマウスは無線式だから、

本来なら机上はすっきりして見えるはずだった。


──はず、なのだが。

今日だけで積み上がった資料が、

逃げ場を失ったように散乱している。


どれも必要で、

どれも決め手にならない。

そんな“行き場のない情報”が、

机の上に沈殿していた。


作家なら、

持ち運びを考えてノート型を選ぶのだろう。

京一にとって、

それだけは譲れない部分だった。


「ノート型なんて、

 熱こもりゃすぐフリーズする」

「冷却装置をユニットで組むくらいなら、

 デスクトップの方が経済的だしな」


そんな理屈を並べながら、

彼は遠慮がちな相棒”をずっと使い続けてきた。

音楽サイトのタブから、

チキンシャックの曲が流れている。


それでも──

音は耳の表面を滑るだけで、

心にはまったく入ってこない。


集中しているわけでも、

気が散っているわけでもない。

ただ、

意識のどこかが“空白のまま”だった。



◆〜呼び覚まされた衝動〜

初夏の陽が高くなり、

部屋の空気はゆっくりと温み始めていた。

昨日のざわめきが、

まだ胸の奥に薄く残っている。


窓から差し込む光が、

机の上の白紙をじわりと照らし、

静かな昼の気配だけが、

京一の背中にまとわりついていた。


キーボードに置いた指は動かない。

頭のどこかが、

まだ“あの犬”に引き戻されている。

揺らぎをまとった輪郭が、

光の残像のように脳裏に貼りついて離れない。


「……書かないとな」


小さく呟いてみても、

言葉は空気に溶けていくだけだった。

ニュースは相変わらず、

世俗の出来事を淡々と読み上げていた。

温度のない声が、

部屋の空気に薄く溶けていく。


京一は画面をちらちらと追いながらも、

耳は流れている音楽のほうへ傾いていた。


「気分を紛らわすには……ながら作業、

 意外と落ちつく」


独り言のように呟き、

京一は妙な安心感に身を預けていた。



TVは淡々とニュースを続けていたが──

次の瞬間、

スタジオ内の空気がわずかに揺れた。


「次は特集コーナーです」


スイッチャーが画面を切り替える。

だが、

スタジオのモニターは、

ブラックアウトしたままだった。

アナウンサーの声色が、

ほんの少しだけ変わった。


「現場からの中継です」


スイッチャーが画面を切り替える。

それでも、

スタジオのモニターは。

ブラックアウトしたままだった。


「つながっていますか〜」


ピンマイク越しにキャスターが呼びかける。


「……」


「現場のレポーターさん?

 こちらスタジオです」


「……」


「まだ現場とつながっていないようです」


キャスターは視聴者に向けて、

取り繕うように説明を続けた。


イヤホン越しに届くディレクターの指示に、

キャスターが小さく頷く。


「もう一度、呼びかけてみましょう」


「現場のレポーターさんーーん!」


その瞬間、

スタジオのモニターがノイズに切り替わった。


「……おいアッシュ、

 何やってるんだ」

「フリップ逆さま、逆さま!」

「違う、裏表じゃない! 上下、上下だよ!」

「ディレクター! 音拾ってますよ!」

「え? 流れたの? 今の今の?」

「……それ、流れてます」

「音声〜〜何やってんだ。仕切りは俺!」

「アッシュ! いいから行け!」


混線した声が、

スタジオの空気を一気にざわつかせた。


調整された画面に、

ようやく現場レポーターが映し出された。

だが──

かぶったヘルメットが、

実況のたびにずれ落ち、

そのたびに手で押し戻している。


「こちら現場からお伝え──」


言い終えるより早く、

モニターが落ちた。

音声も同時に途絶える。

スイッチャーは、

慌ててスタジオ映像へ切り替えた。


キャスターは焦りを隠しきれず、

平常心を保とうと必死に言葉を紡ぐ。


「現場の手違いがあったようです……

 この場を借りてお詫び申し上げます」

挿絵(By みてみん)

スタジオの謝罪が終わると、

部屋の空気は急に静まり返った。


京一は、

しばらくモニターを見つめたまま動けなかった。


「……今の…、なんだったんだ」

呟きは、

部屋のどこにも届かずに消えた。



◆~スピンオフ 脱線!~

……ザザ……ピー……


【突然ですが 番組を変更してお送りしています】


(なぜかバラエティ番組に切り替わる)


司会「さあ続いては、

最近ちょっと話題の“あの放送局”を

   お題にキャッチフレーズを充て込んでください!」


司会「まずはゲストの小笑太さん、お願いします!」


芸人(関西系)「はいどーも〜。いやぁ、あの放送局ねぇ……

        “強制献金で今日も元気”て、

どんな元気やねん!

        ゼロ〜〜〜〜ッ!」


観客「(笑)」


司会「師匠、今のどうです?」

師匠「テンポはええんやけど、ひねりが足らんな」


司会「辛口コメントいただきました! 次はだれ?」

  「できた人から手上げて」「ハイ!」


(挙手した芸人を指す)

司会「今話題の放送局で……一言」

芸人「一言やのーうて、

キャッチフレーズで行きます」

司会「いいですよ!どうぞ」


芸人「【無駄金国営放送局からのお知らせ】……

    わたくしたちは

    国民皆さまからの強制献金で成り立っています。

    赤字と申し上げながら新社屋を建設いたしました。

    内部留保あります。

    スタッフは全員、害虫(外注)です。

   予算はお替り自由のどんぶり勘定方式です。

詳細は見えません。

   すべて横流しとなっております」


司会「長いな〜〜」

師匠「リズムがええ」


……ザザ……ピー……

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