彼と私の学園祭
更新が開いてすみませんでした。
お金持ちの学校であるここにも学園祭がある。
とはいえ、寿々のS1クラスは勉強特化のクラスなので、クラスとしての参加はない。部活に入っていれば部活としての参加はあるが、基本は部外者と同じで見て回るだけになるだろう。
真咲は生徒会の副会長なので、かなり忙しいようで、最近は昼休みにいつもの場所に来るのが遅かったり、来られなかったりする。
相変わらず真澄に招待される時もあるが、今年は9月の残暑が厳しく、ここ1週間ほど体調を崩していると真咲から聞いた。それでも今年の夏は調子が良い方だったそうだ。
一昨日まで続いた雨はやみ、学園祭当日は素晴らしい秋晴れだった。学園祭は2日間だが、警備の都合上一般公開は1日目のみでそれも事前に申請してから配布される招待状を持った保護者家族しか入れない。名家の子女が多いので仕方ないのだろう。
寿々は綾のいる美術室に向かっていた。今日は公開日で綾は美術室の当番だそうなので、そちらに呼ばれたのだ。1日目は部外者が入ってくるため、生徒会は忙しいらしく、真咲とは明日会うことになっていた。
美術部などの芸術系の部活は、中等部と合同で活動していたり、中等部には展示の場がないので学園祭で高等部と合同で展示したりしていると言っていた。
人が密集していた本校舎とは違い、特別棟はそこまで人は多くなく、時間通りに目的の教室に着いた。
「こんにちは。橘です。」
「まってたよぉ〜!入って入って」
中から綾の声がした。
ドアを開けると、見学者は誰もおらず、衝立の向こうからひらひらと手招きされた。
「こっちこっち。見学者はほとんど来ないからさぁ、こっちでお茶しよう〜!」
衝立の向こうには綾の他に男子生徒が2人いた。神経質そうな細身の青年は、何度か顔を合わせたことのある副部長の御園井颯と、一見少女のような綺麗な少年は中等部の生徒のようだ。
「御園井先輩は寿々も知っているよねぇ。この子は中等部3年の吉良葵くんだよぉ。吉良くん、こっちは私の友達の橘寿々さん。」
「よろしくお願いします。」
少年、吉良はにこりと微笑んで挨拶をした。
「こちらこそ」
寿々も返した。
「橘さん、こちらへどうぞ。」
御園井が慣れた仕草でエスコートし、寿々を椅子に座らせた。
テーブルは学校の中とは思えないほどにきちんと整えられ、中央には花瓶に花が、色とりどりの綺麗なお菓子がたくさん並んでいた。
「今日のお菓子は御園井先輩の差し入れなんだぁ。」
「お口に合うといいのですが。毎年あまり人が来ませんので、美味しいお茶とお菓子を食べながら過ごすんです。」
御園井は肩をすくめて言った。確か御園井の実家は有名なデザイナーの孫だった。用意されたお菓子も見るからに有名店のものだろう。断じてコンビニやスーパーで買えるものではない。
「寿々先輩、どうぞ。」
吉良がお茶の入ったカップを寿々に渡した。この短い間に入れておいてくれたらしい。
「あ、ありがとうございます。」
ふわりといい香りがした。一口含むと爽やかな香りが抜けた。
「すごくいい香りですね。それにとっても美味しいです。」
恥ずかしそうに吉良が頰を染める。
彼は日本舞踊の名家の三男だそうで、跡継ぎではないので、自由にしているらしい。去年有名な賞を最年少で受賞した有望株だそうだ。
「寿々先輩。今度モデルやってくれませんか。」
しばらく雑談していると、突然吉良が言った。
「どうしたのぉ?吉良くん。珍しいねぇ。人物画ほとんど描かないのに。」
「うーん。そうですね。なんか寿々先輩雰囲気が僕の周りにいない感じで描いてみたいなって。僕を狙ってくるギラギラした感じもないし、かと言ってこの学校に多いタイプの女子でもないし、なんか不思議な雰囲気なんですよね。」
「確かに。早川さんもですが、橘さんも外部生だからかこの学園の他の女子とは少し雰囲気が違いますね。」
2人の話を聞いて、寿々ははたと最近自分を苛むものの正体に気づいた。
(そうか。私はこれが不安かもしれない。)
真咲と出会ってからずっともやもやとしていたのだ。真咲が好きか嫌いかと言われたら、好きだと言える。今までの人生の中で1番心動かされているし、一緒にいたいと思っている。学園祭の準備で最近あまり会えなくて寂しいと思う程度には。今まで誰にもそんなこと感じたことはなかった。
でも、寿々にはつがいの結びつきが信じられなかった。もしかしたら、自分は毛色が違うから真咲に気にかけられたのかもしれない。家族に縁のなかった寿々にとって、恋愛や円満な家族は架空のお話のような気がしているのだ。
「先輩?すみません、不愉快でしたか?」
考え込んでいたらしい。不安そうな顔の吉良に覗き込まれた。
「あ、大丈夫です。そんな風に言ってもらったのが初めてだったので驚いてしまって…。」
慌てて言い訳を口にした。吉良が申し訳なさそうな顔になる。
「いやとかじゃないですよ。」
そういうと、ホッとしたような顔になった。
「寿々、そういうのはちゃんと本人に言ったほうがいいよぉ。」
突然隣からこそりと綾に囁かれた。自分が考えていたことを読まれたのだろうか。
前から綾は時々不思議だ。寿々の考えていることがわかっているかのような発言をする時がある。
驚いて綾を見ると、にやりと笑われた。
「たまには人物画もいいと思いますよ。やはり静物画とは違いますから。特に吉良くんは人物画はほとんど描きませんしね。橘さん、どうですか?」
「あの、勉強もあるのでときどきなら…」
そう答えると、吉良がパッと明るい顔になった。
そんなに長く拘束されることもないそうなので、了承した。御園井が美味しいお菓子を用意してくれると言ったので、それも楽しみだ。綾まで食べる気満々だったが。
そうしてたわいもない話や、内部生の話を聞いているとあっという間に交代の時間になった。ちょうどお昼くらいなので、売店でお昼を買うことにした。綾と吉良と寿々の3人で午後は回ることになった。
もともと綾とは気が合っていたが、吉良もとても話しやすく、いい子だ。3人で校舎内を回っているとあっという間に時間が過ぎた。
高校に入って、友達ができて、以前よりたくさんの人たちに会って寿々の世界は広がった気がする。初めて寿々は今の生活が楽しいと感じていた。
帰り際、もう一度綾に美術室と同じことを言われた。念を押されたようだ。
明日、真咲とたくさん話したい。そう思いながら帰路に着いた。




