彼と私の学園祭2
2日目、お昼から時間が空くからと真咲に言われていた。午前中綾とまた校内を見て回り、彼女と別れて待ち合わせに指定されたサロン棟に向かった。
サロン棟は学費とは別に料金がかかる。時間単位で借りることもできるし、年間料金で一部屋借りることもできる。外部生でしかも特待の寿々には入ったことのない場所だった。エントランスに入ると、コンシェルジュの男性がいた。
「橘様でいらっしゃいますか。東條様より伺っております。サロン棟のご利用は初めてと伺いました。こちらで受付をお願いいたします。」
学生証を提示するよう言われ、学生証を機械に通された。
「毎回こちらで受付をお願いいたします。カフェテリアからの取り寄せなどで、中での飲食はできます。室内のパネルでご注文いただけますし、年間利用の場合は専属の使用人のいる部屋もございます。今回ご利用の東條様の個室にも、専属の使用人がおりますので、こちらにお申し付けください。では、こちらをお返しいたします。部屋は3階になります。こちらのエレベーターをご利用ください。」
さすがは上流階級の学校だ。サロン棟に使用人までいるとは。
驚きつつ、教えられた部屋にいった。ノックすると、中から「どうぞ」と返ってきた。真咲のほうが早かったかと慌てて入ると、いかにも高そうなソファに1人の男性が腰掛けていた。後ろに背の高い男性が控えている。
「橘寿々さんだね?真咲の父の真斗です。」
真咲の父は立ち上がり、寿々に握手を求めてきた。
「た、橘寿々です。真咲さんや真澄さんにはいつもお世話になっています。」
そういって握手を返した。
真斗は色彩の違う真咲といった感じだった。真咲は茶色っぽい髪や鳶色の瞳だが、真斗は顔の作りはそのままに、髪と瞳を真っ黒にしたようだ。そのまま真斗は寿々を椅子に座らせた。最近こういうのが多くて、寿々もすっかり慣れてしまった気がする。真斗は慣れたように使用人にお茶を運ばせた。
「さて。君と会うのは初めてだね。忙しくてなかなか日本にいられなかったものだから、遅くなってすまない。真澄や芳宏からもよく聞いているよ。真咲からも。」
真斗は穏やかに笑った。笑った顔は真咲とは少し違うようだ。
「いつも勝手にお邪魔していてすみません。真澄さんにもとても良くしてもらっています。」
「ああ。真澄もだいぶ調子が良くなったようだから、また会いにいってやって欲しい。娘ができたようだと喜んでいたよ。私も一度君と会ってみたくてね。真咲のつがいたと聞いた。」
「つがい…」
寿々の表情が曇ったのがわかったのだろう。
「何か心配事かな?」
真咲と似た顔に警戒心が緩んでいたのかもしれない。
「あの…東條家は名家だと聞いています。その跡継ぎの真咲先輩のつがいが私だなんて。」
「うちは私もそうだったけれど恋愛結婚に関しては特に咎めるようなことはないよ。つがいならなおさら。家の格なんていうものはないんだよ。何代か前に商売上手な先祖がいたってこと。」
「でも、私は…」
「君の家のことは知っているよ。それだって別に君が何か悪いわけではないよ。」
「でも、私は父親がわかりませんし母親とも数えるほどしか会ったことはありません。真咲さんたちが周りから何か言われてしまうかもしれません…。」
「そういうことを言ってくる人は、君のことだけじゃなく、どんなことにも嫌なことを言ってくるものだ。気にするほどのことじゃない。大切なのは君たちの気持ちだと思っているんだ。」
「気持ち…」
「そうだ。周りのこと全て取り払って君の心1つになったとき、誰を選ぶかだよ。まぁ君たちはまだ若い。多少失敗しても、大抵のことは私たち大人がなんとかするから、安心しなさい。」
真澄と同じことを言われた。やはり2人は兄妹なのだとおかしくなってしまった。
「ところで、今日はもう1つ、君に会って話したいことがあったんだ。君は当事者だから、知る権利と選ぶ権利がある。」
にわかに真斗が居住まいを正した。寿々も緊張する。
「これは東條家の当主としての相談だ。真澄と芳宏が、君を引き取りたいと言っている。正式に家族になりたいと。もし真咲とのことが気になるなら、今まで真澄の体調面などから本邸に暮らしていたが、今の屋敷を出て、別に屋敷を構えてそちらで暮らしてもいいと。」
寿々は思いもよらない話に驚きを隠せなかった。
「もちろん強制ではない。君の親御さんや兄弟に対する愛情も否定しない。これは真澄と芳宏のわがままのようなものだから、断ってもらってもいい。ちなみに、君が彼らの養子になることは東條家としては歓迎する。正当な手続きをしているので、しばらくすると面会の話が行くと思う。返事は焦らないから、少し考えてみて欲しい。」
いうだけ言ったところで、秘書らしき男性から時間だと告げられ、真斗は去っていった。
真澄と芳宏の家族になる…。全く実感が湧かなかった。
ぼんやりしながら新しいお茶と真斗の茶器が片付けられるのを見ていると、ノックが聞こえ、真咲が入ってきた。寿々を見た真咲の顔が笑顔になる。
「寿々、久しぶりだ。会いたかった。」
「…私も…その…寂しかった…です…」
ピタリと真咲が止まった。
「え、なんだか都合のいい幻聴が聞こえる…」
「幻聴じゃないです…」
上目遣いで真咲をみると、耳が真っ赤になっていた。




