助けてくれると思ってたのに…
クラスでの悪い噂を一蹴した午後の休み時間。タカオと廊下を歩いていると、またもや嫌な光景が目に飛び込んできた。
短髪ヤンキー「おいアイツだろ、放射線浴びてるヤツって(栗木を見ながら)」
そばかすヤンキー「あぁ、あれあれ(笑)」
3年3組のヤンキーぶった男子たちが、ニヤニヤしながら栗木の横を通り過ぎようとする。その時。
短髪ヤンキー「なんか放射線臭くね?(栗木をニヤニヤ見ながら)」
そばかすヤンキー「あぁ、すげー臭ぇわ(栗木をニヤニヤ見ながら)」
短髪ヤンキー「病気うつされたらたまんねーよなぁ…学校来ないでほしいわ(笑)」
ヤンキーども「ぎゃはははは!」
栗木「………」
それを見た俺とタカオは、すぐさまヤンキー男子たちの横を通り過ぎる。
空翔「なんかチンカス臭くね?(短髪ヤンキーをニヤニヤ見ながら)」
孝雄「あぁ、すげー臭ぇわ(そばかすヤンキーをニヤニヤ見ながら)」
空翔「包茎うつされたらたまンねーよなぁ…学校来ないでほしいわ(大笑)」
俺たち「ぼわはははは!!」
ヤンキー男子どもがギロリと俺らを睨む。
ヤンキーたち「な、なんだオメーら…」
空翔「は?(鼻をほじりながら)」
短髪ヤンキー「…文句でもあんのか?」
空翔「臭っさぁ~!(鼻をつまみながら)お前、ちゃんと歯磨いてる?口臭くてたまらんぞ(笑)」
そばかすヤンキー「ナメてんのかお前!」
孝雄「ブー!(間違ったときの効果音)ナメてるのは飴でした~(笑)」
俺たち「ぼわはははは!!」
ヤンキーたち「喧嘩売ってんのかこの野郎!」
俺たち「喧嘩売ってんだよバカ野郎…!(ニヤリとしながら顔を近づけガンくれる)」
ヤンキーたち「……う…!(ビビって後ろにたじろぐ)」
俺たち「…次やったらマジで学校来れない身体にしちゃうよ♪」
ヤンキーたち「………(汗)」
栗木「………(悲しい顔で俯いている)」
放課後。俺は栗木が部活を終えて来るのを駐輪場で待っていた。しばらくすると、オレンジ色の夕日を浴びた栗木が現れた。
栗木「…大和…君?(俺に気付いた感じで)」
空翔「お疲れ」
栗木「…なに…してるの?」
空翔「待ってた(笑)栗木を」
栗木「…あ…あの」
空翔「?」
栗木「…さっきは…どうもありがとう。…給食のときと…その…廊下で…」
空翔「気にすんな」
栗木「…本当にどうもありがとう(ペコリと頭を下げる)」
空翔「途中まで一緒に帰ろう(ニコッと)」
栗木「……うん」
だが、栗木が自転車にカバンを入れようとしたその時。サドルがなくなっていることに気付く。
栗木「………」
空翔「………」
栗木「…ごめんなさい。わたしやっぱり歩いて帰る…。先に帰って…」
空翔「俺のチャリンコ乗ってけよ。栗木のよりボロっちいけど(笑)」
栗木「ううん…。さっきも助けてもらったし…。これ以上、甘えるわけにはいかない…」
空翔「………」
栗木「………」
空翔「ジャッキー・チェンのプロジェクトAって映画でさ。サドルのないチャリンコに跨って悶絶するっていうギャグシーンがあるんだよ(笑)俺、1度やってみたかったんだわ」
そう言って、同じシーンを再現する俺。
空翔「メリメリメリ…!(ほほほ…!こ、これはきくっちゃあ…(大汗))」
栗木「…大和君…。本当にわたし、1人で帰れるから…。もう無理しないで…(目に涙を浮かべながら)」
空翔「なんのなんの…!ぼわははは!」
栗木「…どう…して…」
空翔「…?」
栗木「どうして…そんなに優しくしてくれるの?このままじゃ…ますます大和君に迷惑がかかっちゃうよ…」
空翔「………」
栗木「…う…ぅぅう…(大粒の涙を流している)」
空翔「(ニコリと笑って栗木の右肩をポンッと軽く叩く)」
学校を出てからの通学路。俺は栗木の自転車を。栗木は俺の自転車を押しながら無言で歩く。その途中。
空翔「公園、寄ってかね?」
栗木「…うん」
俺らは桜の木に囲まれた公園に立ち寄った。
空翔「ガシャコン(自販機からジュースが出る音)はい(スポーツ飲料を渡す)」
栗木「…ありがとう(120円を払おうとする)」
空翔「いーって(笑)」
栗木「でも…」
空翔「俺、しょっちゅうタカオの家で飯食ってンじゃん?小遣い余ってんの(笑)だから奢り(←厳密にはタカオの奢り?)」
栗木「…あ…ありがとう(ニコッとして)。それじゃ、いただきます…」
栗木とちゃんと話しをするのは久しぶりだった。俺も栗木も少しの間、夕日を背にブランコに腰掛けながら黙ってジュースを飲む。しばらくして俺は、こう口を開いた。
空翔「知に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく、人の世は住みにくい。だっけ?」
栗木「…?」
空翔「夏目漱石の草枕。昔、リュウジが教えてくれた(笑)」
栗木「……(微笑みながらうつむいている)」
空翔「学校生活も同じだよな。成績も運動も性格も違う人間。そんな連中が教室って箱の中に集まってんだから…」
栗木「……」
少しの沈黙。栗木は黙って俺の話しを聞いている。
空翔「…昔さ、俺、いじめられてた友達を助けられなかったことがあってね」
栗木「…?」
空翔「シンペーってヤツ…。一つ歳下なんだけど、幼稚園からの幼なじみで家も近所。だから、しょっちゅう遊んでた」
栗木「……」
空翔「シンペーは吃音症でさ。言葉に詰まることが多くて、それが原因で学校では真似されたり笑われたりしてたの。最初はみんなに軽くいじられてるだけだった。実は俺も、最初はふざけてシンペーの真似をしたりしたことがあった」
栗木「……」
空翔「でもある日、家で夕飯食ってる時、シンペーの真似をしたら親父がテーブルぶっ叩いてブチギレてさ。冗談でもそんなひどいことすんな!って。次やったら許さねーぞ!って」
栗木「……」
空翔「この頃、親父は下総航空基地に勤めてた自衛隊員だったの。だからリュウジと一緒で正義感がヤバくてさ(笑)親父があんなに怒ったの初めて見たから、俺のやってることはすごく悪いことなんだってガキながらに理解してね。それ以来、一切真似することはやめた」
栗木「……」
空翔「あのとき親父に怒られてなかったら、俺は今、人を傷つける側の人間になってたかもしんない。だから親父には感謝してんの。足はめっちゃ臭いけど(笑)」
栗木「…フフ(いい話なのに足は臭いのセリフでちょっとだけ笑う)」
サワサワサワ(木々の葉が揺れ、優しい風が二人の間をそっと通り抜ける)
空翔「俺は親父のおかげで気づくことができたけど、でも周りは違ったんだよね。小2になって下校時にシンペーが本格的にいじめられてるのを見かけるようになってさ」
栗木「……うん」
空翔「ランドセル持たされたり、石投げられたり、顔に泥塗られたり…」
栗木「……」
空翔「でも俺は、シンペーを助けることができなかった。もちろん、いじめてるヤツが悪いのは頭ではわかってた。でも、注意したら自分が同じ目に遭うかもしれない。そう思うとやっぱり怖くてな…。だから俺は「気にすんな」って無責任にあいつを励ますだけ。これといって何もしなかったの」
栗木「……」
空翔「それから小3になってすぐ、シンペーは引っ越すことになった。俺の母ちゃんは「シンペーの親の都合」っていってたけど、俺は絶対いじめが影響してるって思った」
栗木「……」
空翔「引っ越す日の朝、見送りに行ったの。その時、シンペーがボソッと一言だけ俺にこう言った」
栗木「……何て?(悲しい目で俺を見ながら)」
空翔「「カケル君は助けてくれると思ってたのにな」…って。口では笑ってたけど涙を浮かべてた」
栗木「……」
空翔「泊まったり鬼ごっこしたりアニメ観たり。いつも一緒にいた友達だったのに…。俺はいざとなるとビビッてシンペーを助けられなかった。何も言えなかった」
栗木「……」
空翔「もうね。めちゃくちゃ胸が痛くてさ。それがシンペーに言われた最後の言葉(栗木を見ながら微笑を浮かべて)」
栗木「……」
空翔「それから毎日、モヤモヤした感覚が続いた。遊んだりしてても心の奥でそれが引っ掛かっててさ。「俺はクソだ…」「せめて何か少しでも行動してれば…」って。そういう罪悪感で胸がいっぱいだった」
栗木「……」
空翔「その後、入れ替わるようにリュウジが引っ越して来てね。仲良くなってからしばらくして、そのことアイツに話したら大喧嘩になってさ。「それでも友達か!」ってボッコボコの殴り合い(笑)。あいつも親父と一緒で正義感の塊だったから。でも、それで俺は目が覚めた」
栗木「……」
空翔「俺は、いじめを注意できなかった勇気の無さを変えたい。おかしいことはおかしいって言える人間になりたい。もう二度と見て見ぬふりなんてしたくない。そう思ってリュウジも誘って一緒にキックを習い始めたんだ。心も身体も鍛える意味で(笑)自分の気持ちに嘘をついた人生なんてクソだと思ったから」
栗木「…そう…だったんだ」
少しの沈黙。再び木々の葉がサワサワと音を鳴らし、公園で座っている俺たちに優しい風が吹く。
空翔「…栗木は何も悪くない(真剣な顔で)」
栗木「……」
空翔「いじめられる側にも責任がある、とか言うヤツいるじゃん?確かに調子に乗って周りに迷惑かけたりしてるとか、普段から嫌がることをしてるとかだったら、まだわからなくもない」
栗木「……」
空翔「「あいつ調子に乗りすぎだろ」とか「ウゼー」みたいに人の反感を買うようなことを日頃から自分でしてたわけだから。まぁ、その場合いじめっつーか自業自得っつーかさ」
栗木「……」
空翔「でもさ、だからって「いじめていい理由にはならない」と俺は思う。適当にあしらうとか流すとか、いくらでもやれることあんじゃん?」
栗木「……」
空翔「今回なんて特にそう。栗木が何をしたっていうのさ?福島から引っ越してきただけでアホ共が変なレッテル貼ってよ?」
栗木「……」
空翔「いじめの張本人。加担する人間。見て見ぬふりをする傍観者。悪いのはこいつらに決まってんだろ?」
栗木「……」
空翔「だからさ…。俺も一緒に闘うよ」
栗木「大和君……(うるんだ目でカケルを見ている)」
空翔「クラスの連中が敵になろーが学校中が敵になろーが俺はお前の味方だ(笑)」
栗木「……ッ!(目を見開き涙を浮かべ俺を見ている)」
空翔「良いモンは良い。悪いモンは悪い。当たり前じゃね?こんなの(笑)」
栗木「……」
空翔「大丈夫!タカオもリュウジもツトムもマヒロもみんなでお前を支えてやる!「友達」だもん…俺ら(ニコッと笑顔で)」
栗木「…大和君(ぶわっと大粒の涙が溢れ出す)」
空翔「ニィッ(満面の笑みで)」
栗木「…ありがとう…(鼻を真っ赤にして震えながら泣きじゃくる)」
謎の影「………(2人の様子を木陰から見ている)」