アユミの過去
亜弓「ナメた真似してくれちゃって…」
栗木「………」
亜弓「ミエ、やりな!」
青年の森には、数年前からあると思われる古く錆びたサッカーのゴールポストが置いてあった。アユミはこのゴールポストに栗木を縛り付けるようミエに指示を出す。
栗木「…う…うぅ…(ゴールポストに縛り付けられている)」
亜弓「さぁ~て。じゃあ、始めようか(ニヤリ)」
そう言うと、アユミは栗木に向かってバレーのスパイクを打つ体勢に入る。
亜弓「どっちが栗木を気絶させられるか…。ミエ、勝負しようじゃないの(笑)ただし、狙うのは腹だけよ。顔はバレるから…」
ミエ「………」
亜弓「じゃああたしから行くよっ!そぉらっ!!(栗木のお腹目がけて思いっきりバレーのスパイクを打つ)」
栗木「ボスッ!!うぅっ!!(お腹にボールが当たり苦悶の表情を浮かべる)」
ミエ「パシンッ!」
栗木「はうっ!」
亜弓「何発まで耐えられるかねぇ(笑)」
その後も、アユミとミエは交互で栗木のお腹にスパイクを打っていく。十数発と打ち込んだ後。
亜弓「はぁはぁ…」
ミエ「はぁはぁ…」
栗木「…ぅ…ぅ…(涙を流し痛さのあまり意識が朦朧としている)」
亜弓「…生意気なマネするからこういう目に遭うんだよ…。もう二度と逆らったりすんじゃねーぞ…」
栗木「………」
亜弓「それとさぁ、あんたのせいでスパイク打ち過ぎて腱鞘炎になっちゃった。明日、治療費3万持ってきて」
栗木「………(うつろな目をして項垂れている)」
亜弓「いい?持ってこなかったらまた同じことするから(ニヤリと笑いながら)」
少しの沈黙。
栗木「……い…嫌…です…(俯きながらか細い声で)」
亜弓「…あ?今なんて言った?」
栗木「…もう…。あ…なたの…指図は受け…ない…!」
亜弓「こ!こンの野郎!まだヤラれ足りねーのか!」
ミエ「………(その様子を黙って見ている)」
栗木「…何度ヤラれても…。わたし…は…自分の気持ちに…嘘をついて生きるの…ヤメ…たんです」
亜弓「あぁ!?」
栗木「…わ…わたしの人生は……わたしが「主人公」だから…!(カケルが教室で言ったことを思い出しながら)」
亜弓「き、きっしょいこと言いやがって!!(怒)だったらお望み通り、動けなくなるまで続けてやろうじゃないの!」!
その時、これまで黙っていたミエが声をあげた。
ミエ「アユミ、もうヤメよ…これ以上やったらこいつ(栗木のこと)死んじゃうよ」
亜弓「ふん…!そう簡単に人が死んでたまるモンですか…。ミエ、あんたも続けるんだよ!」
ミエ「………(目を閉じて何かを考えている様子)」
亜弓「ミエ!」
しばしの沈黙。
ミエ「…アユミさ。あんた変わったよね、哲ちゃん(哲郎)のことがあってから」
亜弓「……!(触れてほしくない感じでハッとし、その後怒りの表情でミエを見る)」
栗木「……(うなだれたまま話しを聞いている)」
ミエ「小学5年生の頃、あんたはミニバス(ミニバスケットボール)のキャプテンだった哲ちゃんに片思いをしてた」
亜弓「……(真剣な顔でミエを見ている)」
ミエ「あんたと哲ちゃん、最初仲良かったもんね?隣の席で毎日話してたし、ミニバスの練習終わるの待って一緒に帰ったり」
亜弓「……」
しばしの沈黙。
ミエ「でも林間学校の時だっけ?カオリに奪われたの」
亜弓「…や…めろ(わなわなと震えながら)」
ミエ「ウチらのグループで一緒に遊んでたカオリが、あんたが哲ちゃん好きなのを知ってたのに、裏で哲っちゃんと付き合ってた。そのきっかけが林間学校の夜、カオリが哲ちゃんにこっそり告白してたことだったよね」
亜弓「…やめろって言ってんだろ!」
ミエ「それ以来、あんたは変わった。まるで「人を信じるなんて損。周りなんて関係ない。自分の思うがまま好き勝手に生きるほうがいい」とでも言わんばかりに…」」
亜弓「……」
サワサワサワ(森の木々が音を立てて揺れる)
ミエ「でも、思い通りにいかないからって痛めつけて無理やりわからせる。やっぱりこれはよくないよ…」
亜弓「あんただって一緒に栗木やってきてるじゃんか!(大きな声で怒鳴りながら)」
ミエ「そうだよ!(キッと真剣な顔でアユミを見ながら)あんたや他のヤツと一緒にいる時は正直、良いとか悪いとか真剣に考えてなかった!でも最近、1人の時思ってた。「こんなことしていいのか。このまま大人になっていっていいのか」って!モヤモヤしてた」
亜弓「…何が言いたいんだよ?」
ミエ「今まで私はあんたに協力してきた。その過去があるから正直、気持ちはグチャグチャ。でも、今の栗木を見て格好いいなとは思ってる。純粋にすげーなって」
亜弓「…な、なんだと!?(怒)」
栗木「……(痛さで意識が朦朧としながらもミエを真剣な顔で見ている)」
ミエ「だって今の栗木頑張ってンじゃん!(ブワっと涙が湧いてくる)1人しかいないのに…こんなにボロボロにされてるのに…。大和や吉崎を想って信じて1人で立ち向かってきてンじゃん!」
栗木「……ミエ…さん」
亜弓「……!」
ミエ「…本当の私は…あんたとこーゆー関係(栗木たちみたいな)になりたかったんだと思う。同じ目線で信じあえる、支え合える、そんな仲間に…(アユミを見ながらスーと涙が頬をつたう)」
亜弓「……」
サワサワサワ(再び森の木々が音を立てて揺れる)
ミエ「今のあんたは友達なんかじゃない…ただの「独裁者」だよ」
亜弓「お前……!もういっぺん言ってみろ…!」
ミエ「…わたしは降りる…。もうこれ以上…ヤリたくない…」
亜弓「あんた!わたしに逆らうつもりかよ!?」
ミエは無言のまま栗木のもとに歩み寄り、縛っていた紐をほどく。
亜弓「わなわなわなわな…!!(俯きながらプルプルと震え怒り狂っている)」
栗木「…ミエさん(ミエを見ながら少しほっとした表情で)」
ミエはその場に佇み、少しの沈黙。
ミエ「……アユミ。…今日限りで友達の縁切るわ…」
亜弓「あ…あんた…!今まで誰が男の世話してやったと思ってんだよ!?え!?」
ミエ「………」
亜弓「あんたみたいなブスが男と遊べたのはわたしのおかげだろーが!!」
ミエ「………」
亜弓「ひ…人の恩を仇で返しやがって…!!」
ミエ「(アユミを無視して)栗木…ごめん。ひどいことたくさんしちゃって。わたし、あんたの友達を想う姿にちょっと感動したよ…」
栗木「………」
ミエ「…もちろん、許して欲しいなんて都合の良いことは言わない。わたしは、あんたの心に一生消えない傷をつけちゃったクズだから…。死ぬまで恨まれても仕方がない…」
栗木「………」
ミエ「本当にごめん栗木。でももう二度と、あんたのこといじめたりしない。それだけは「約束する」よ…」
栗木「…ミエ…さん…(微笑を浮かべて)」
ミエ「今日のあんた…マジでカッコ良かった…それじゃ…」
そう言い残し、ミエは怒り狂っているアユミを置いて1人帰っていった。
亜弓「ゴゴゴゴゴ…!!(怒りが頂点に達する音)あ、あんたのせいで…あんたのせいで…わたしの周りはメチャクチャだよ!!(超怒)」
栗木「………」
亜弓「なんでウチの学校なんかに転校してきたワケ!?…あんたさえ来なければ、こんなことにはならなかったのに…!!」
栗木「………」
サワサワサワ…(風が吹き森の木々が音を立てて揺れる)
亜弓「わたしは中1のときから3年間、ずっとリュウ君だけを想ってきた…。ずっとリュウ君が好きだった!でも、同じクラスになりたくても1度もなれないし、それどころか校舎もどんどん離れるし…」
栗木「………」
亜弓「だから、少ない時間を見つけてはリュウ君に会いに行った。1分でもいいから話したい。そう思ってコツコツ努力してきた!」
栗木「………」
亜弓「リュウ君が好きな髪型にしたり、格闘技わからないけど動画たくさん観たり、少しでも女として意識してもらえるようバストアップだって頑張った…」
栗木「………」
亜弓「それなのに、あんたはわたしの気持ちも知らないで呑気にリュウ君と友達になって…。しょっちゅう一緒にいやがって…!毎晩、考えれば考えるほど憎いって思った…!眠れなかった…!許せなかった…!!」
栗木「………」
亜弓「だから、リュウ君とあんたを付き離そうって…。そのために手段は選ばない。わたしはそう決めた…」
栗木「………」
亜弓「あんたをいじめていじめていじめまくって…。追い込んで追い込んで追い込みまくって…。二度と学校に来れないようにしてやろうって…。そうすれば、あんたが来る前の生活に戻れるから…」
栗木「………」
亜弓「でも、それももう終わり…。リュウ君にバレたろうし、ただでさえ少なかった確率は完全にゼロになっちゃった…」
栗木「………」
しばしの沈黙。
亜弓「…ク…ククククク(怒りと悲しみのあまり喉を鳴らす)あんたのせいで…あんたのせいでリュウ君もミエも失うことになったんだ…(下唇を噛みしめブルブルと震えている)」
栗木「………」
亜弓「だからもう、後には引けない。絶対に引けない!ここで引いたら全てが無駄になる…」
栗木「………」
亜弓「あんたなんかにわたしは負けない。だからわたしは1人でもあんたに精神的恐怖を与え続ける!そして、二度と学校に来られないようにしなきゃいけないんだよ…!」
狂気じみた言葉を発しながら、再び栗木に向かってスパイクを打つ体勢に入るアユミ。
亜弓「もう遠慮はしない…!顔だろーがなんだろーが全身痛めつけて思い知らせてやる…!!」
栗木「……う…ぅう…(痛さのあまり身動きがとれないでいる)」
亜弓「恨むなら…自分の運命を恨みな栗木ぃい!!うぁあぁあああ!!」
バシィィイイン!!!栗木の顔面目がけ、渾身の力でスパイクを打つアユミ!!
栗木「……!!(目をギュッと閉じ覚悟を決めた顔をする)」
バカーン!!!(ボールが弾き返される音)
亜弓「ギューン!!!(凄い速さで自分の顔の横スレスレをバレーボールが通過する)……!!?」」




