第39話
最近は朝と晩が冷えるようになりました。冬が近いですね。
ともかく、龍人記の更新でございます!
「待てぇぇぇぇ!侵入者共ぉぉぉぉ!」
「なんだか最初に比べてかなり数が増えたな」
未だに追い掛けてくる警備員達をちらりと見た藍が呟く。警備員に見つかってからというもの、流零達を追い掛けるその数は十倍位に膨れ上がっていた。別に戦って倒せない相手ではなく、むしろ今の面子なら楽勝である。しかし下手に戦って時間を取られて、月の軍隊が本格的に動き出しては困るのだ。
「ええい、これ以上先に進ませる訳にはいかん!撃て!撃て!」
「やらせない!」
痺れを切らした警備員達が遂に銃を撃ってくるが、放たれた弾丸は紫の結界に遮られて届くことはない。
「流石紫さん!頼りになるわ!」
「おい、前からも来やがったぞ!」
紫のサポートに感心したのも束の間、今度は前方から新たな警備員達が現れる。現在通路は一本道で横に通路など無い。このまま突っ切るために紫は前にも結界を張ろうとするが、ここで以津真天が一行の中から飛び出た。
「私達に任せて」
そう一言告げた以津真天は流零達から少し距離を取り、前方の警備員達を対象に能力を発動する。
「うわぁぁぁぁ!浮気なんかした俺が悪かったから、包丁を振り回さないでくれぇぇぇぇ!」
「美少女フィギュア集めてるのが親にバレた……鬱だ」
「お、俺は男に興味は無いんだ!やめろ、やめろぉぉぉぉ!」
どうやら以津真天の能力はちゃんと効いているものの、何だか変なことを口走っている者が多かった。
「能力操作間違えたかな?」
「ま、まあいいじゃないか。効いてるには効いてるみたいだし、とりあえず彼らには眠って貰おう」
思っていたものとは違う反応に首を傾げる以津真天。現在の容姿でするその仕草は中々に可愛らしい。藍はそれを見て苦笑しながらも、妖力弾を撃って前方の警備員達を気絶させた。そして一行は止まることなく通路を走り抜けていく。
「階段が見えた!あそこから一気に三階まで上がるわよ!」
「っ!?上から何かが来る!」
視界の先に階段を見つけ、全員に指示を出す永琳。しかし、直後に流零は上階から迫る気配を感じ取る。それは妖怪に近いが何かが違う、『不気味』という表現がピッタリの気配だった。
ドゴンという鈍い音と共に流零達と警備員を分断する形で、何かが天井を突き破ってくる。
「フシュルルル……」
「な、何だこいつは?」
気味の悪い唸り声を上げるその物体は生物であった。身長はおよそ2m程で、見た目は人間の体格をしたトカゲと言うと分かりやすいだろう。ただし肌は濁った血のような色をしており、金色に輝く目は横並びに四つもある。加えて長い舌を盛んに出し入れしながら涎を垂らしているため、気持ち悪さが余計に際立っていた。
「シュアァァァァ!」
「こ、こっちに来た!?」
「来るな化け物ぉぉぉぉ!」
怪物は警備員達の方を見ると、獲物を見つけたと言わんばかりに襲い掛かる。警備員達は怯えながらも負けじと銃を撃って応戦して、怪物にダメージを与えていった。銃弾の雨あられを受けた怪物は、終いには四肢が千切れて倒れる。
「化け物め、やっとくたばったか……何っ!?」
警備員達が安堵した次の瞬間、怪物の体に異変が起こった。何と傷口がボコボコと動き、そこから新しい腕や足が瞬時に生えてきたのだ。
「フシュアァァァァァァ!」
「はっ!?こんな時に弾切れ……があっ!?」
「まずい!逃げ……ぎゃあ!?」
手足を再生するやいなや、再び警備員達を襲う怪物。鋭い爪で切り裂かれ、牙で噛みつかれ、瞬く間に通路は血で染められていく。
「何だか分からねえが、あれを何とかしねえと!」
「待て流零!まだ来るぞ!」
「シュゥゥゥゥ」
自分達を追っていたとはいえ、人間が怪物に殺されるのを黙って見ていることなど出来ない。流零は警備員達を助けるべく動き出そうとするも、藍に止められてしまう。そして藍の言葉が終わるか終わらないかというタイミングで、同じ姿の怪物が天井の穴から降りてきた。その数、三体。
「まだ居やがったのか!」
「に、兄さん……か、階段の方……」
数が増えたことに苛立ちを禁じ得ない流零だが、一輪の戸惑いと少しの恐怖が混じった声を聞いて階段のある方向を見る。
「……おいおい、こりゃ何の冗談だ?」
「残念だけど現実よ。認めたくないのは私も一緒だけどね」
「何か怖い」
目にした光景に顔を引きつらせる流零と永琳。そしてポーカーフェイスが基本の以津真天さえ、怯えた表情を見せる。
一行が見たものとは、階段から降りてくる数十体はくだらない怪物の群れだった。醜悪な姿をしたそのどれもが大口を開けてこちらを狙っている様子は、きっと大抵の者が恐怖を感じるはずだろう。
(一体ここで何が起こってるってんだ?)
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流零達が警備員に見つかるより前まで時間は遡る。巨大研究施設の三階通路を三人の少女が歩いていた。
一人は帽子を被り、金色の長髪をした穏やかそうな少女。二人目は薄紫色のポニーテールで、腰には刀を差している真面目そうな少女。三人目は頭に兎耳が付いた紫色の長髪をした少女。他の二人は洋風の服を着ているが、彼女だけは現代の女子高生のような服を着ている。
「まさか八意様が失敗するとは思わなかったわね。村雲ったら余計な真似をしてくれちゃって……ねえ、依姫ちゃん?」
「豊姫姉様、誰が聞き耳を立てているか分かりません。同感ではありますが、ここでそういった発言は控えて下さい」
帽子の少女『豊姫』がどこか忌々しげに言うと、『依姫』と呼ばれたポニーテールの少女が淡々とした口調で咎めた。表面上の態度こそ違うものの、心境は同じようである。
「師しょ……八意様は無事なんでしょうか?私、すごく心配です」
「鈴仙、心配なのは私達も同じよ。八意様はあなたにとっても、私達姉妹にとっても大切な恩師だもの。けれども、私達に八意様の安否を確認する術は無いわ」
「今の私達に出来ることは、八意様の無事を祈ること。そして輝夜をサポートすることですよ、鈴仙」
不安そうな表情で尋ねる兎耳の少女『鈴仙』に、豊姫と依姫の二人がそれぞれの言葉でもって返す。鈴仙はそれを聞いて気持ちを切り換えたのか、その表情は不安に満ちたものから凛としたものへ変わった。
豊姫と依姫は鈴仙の様子を見ると小さく微笑み、鈴仙と共に通路を進んでいく。
「確かここだったわよね」
「はい、輝夜様はこの中に居るはずです」
「そして担当者である村雲も……ですね」
そう言って足を止めた三人の前には、『第四実験準備室』というプレートが付いた扉があった。目的地に辿り着いた三人は、早速扉を軽くノックして中へ入る。部屋の奥には白衣を身に付けた村雲と、透明なカプセルのような物体の中で眠っている輝夜が居た。
「これは驚きましたぁ。月の守護者、綿月姉妹殿のご来訪とは恐縮ですねぇ。お茶でも出しましょうかぁ?」
「結構です。それと、あらかじめ私達が来ることは伝えたはずですよ」
来訪者に気付き、貼り付いたような笑顔で迎える村雲。依姫は彼の言動や態度に不快感を覚えながらも、それを見せることなく少し冷淡に返す。
「それは失礼、なにぶんこちらも忙しいものでしてねぇ。ところで本日のご用件は何でしょうかぁ?」
「率直に言いましょう。蓬莱山輝夜の待遇改善を要求します」
絶えず変わらない笑みを浮かべる村雲からは、まるで反省の態度が見られない。注意するだけ無駄だと悟りつつ、依姫は本題へと入る。その内容は輝夜の負担を少しでも減らす為のもの。今の自分達に出来る精一杯のことだった。
「彼女とて一人の人間。それをただの実験材料として扱わないでいただきたいのです」
「成る程、お話は分かりましたぁ。そういえば、あなた達姉妹と彼女は幼い頃からの付き合いでしたねぇ。美しい友情というわけですかぁ」
依姫の話を聞いた村雲は、おもむろに輝夜の入ったカプセルに近付いて何かのスイッチを押す。すると、カプセルが起動音と共に開いた。しかし、中の輝夜は被験者用の白い装束を身に付けて未だに眠っている。
「いやはや、実に無意味で下らない」
「……何?」
村雲の発した言葉に依姫だけでなく、豊姫と鈴仙も表情が険しくなった。それを見ても村雲は構うことなく続ける。
「この実験は上層部直々の命令なんですよぉ。あなた達が何を言ったところで実験に一切の変更はありませぇん。それとも、上層部に逆らってみますかぁ?代償は高いですがねぇ」
「くっ!」
月の都において、上層部の命令は絶大な力を有している。下手に反抗しようものなら役職から下ろされ、罪人とされる場合さえあるのだ。上層部という言葉に何も言い返せなくなった依姫は、拳をギュッと握りしめて必死に感情を押さえ込む。豊姫と鈴仙はそんな依姫を心配そうに見つめていた。
「まあ、大切には扱ってあげますよ……『実験材料』としてね」
そう言いながら村雲が舐めるような手付きで輝夜の顔を撫でる。それを目にした時、遂に依姫の頭の中で何かが切れた。
「貴様っ!!」
「へぇ、あなたは思ったよりも熱くなりやすいんですねぇ。てっきりお姉さんの方が先に突っ掛かってくると思ってたのにぃ」
弾かれたように飛び出すと、依姫は村雲の胸ぐらを掴んで壁に叩き付ける。しかも表情は激しい怒りに染まり、今まで見せていた冷静さがまるで嘘のようだ。だがそれでも村雲は意外そうな顔こそすれど、恐怖のようなものは感じていない。
「依姫ちゃん!それ以上は駄目よ!」
「そうです依姫様!抑えて下さい!」
「離して下さい姉様!鈴仙!こいつだけは……警報!?何事ですか!?」
咄嗟のことで行動が遅れていた豊姫と鈴仙は、拳を振り上げて今にも村雲を殴ろうとしている依姫を止めに入った。その時、室内に非常事態を知らせる警報が鳴り響く。
「……誰がやったかは知らんが、これはこれで都合がいいな」
「え?」
警報に依姫達が驚いていると、突然意味深なことを喋る村雲。三人がその言葉に反応した瞬間、鈴仙は見た。
「お前達姉妹は最も厄介だからな。ここで始末しておく」
冷酷さと殺意に満ちた目をした村雲と、彼の腕で体を貫かれる依姫と豊姫の姿を……。




