第38話
月編も最高潮に近付いてきた!……と思う。
月が輝く曇りなき星空。普通ならば見とれてしまうような美しい景色も、今の流零達にとってはどうでもよかった。今流零達が考えているのは、月に行って輝夜を救出することのみなのだから。
「全員準備は整ったわね?じゃあ出発の前に言っておくわ」
紫の真剣な表情を見て、皆も気を引き締めて話を聞く姿勢をとる。
「今回私達は戦いをしに行くわけじゃない。あくまで目的は蓬莱山輝夜の救出であり、基本的に隠密行動をすることになるわ。無用な戦闘は避けること。いい?」
紫の言葉に全員が頷く。いくら流零達でも、月の戦力全てを相手にするのは無理というものだ。ちなみに永琳によると相手は様々な兵器を所有している上、強力な兵士も居るらしい。
「私から言うことはもう無いわ。スキマを開くわよ!」
「おっしゃあ!行くぜお前ら!」
「「「「「おお!!」」」」」
気合いの入った掛け声と共に流零達は、開かれたスキマへと足を踏み入れる。そして空間内を少し進んだ先には出口があり、流零は一番にそこを通り抜けた。しかし次の瞬間に突然浮遊感を覚え、体勢を崩して落下してしまう。
「おわっ!?……痛ってぇな」
幸い地面からの高さは人間一人分といったところであり、特に怪我もなく流零はすぐに立ち上がった。
「流零、大丈夫か?」
「いきなり落ちるからびっくりしたわ」
「兄さんってば確認もしないで出ちゃうんだから」
少し遅れてスキマから他の面々が降りてくる。一度流零が落ちたのを見たおかげで、皆無事に着地成功していた。
「まさか地面から離れた場所に出るとは思わなかったんだよ。それより周りを見てみな。こいつは凄えぜ」
「ほう、これが月の都か」
「なんか地上の都よりも迫力あるわね」
流零に促されて周囲を見渡せば、地上にはない建物がズラリと並んでいるではないか。永琳にとっては見慣れた光景だが、ずっと地上で暮らしてきた流零達にはとても新鮮に見えていた。
「これはまたいい場所に出て来れたわ。皆、向かい側に大きな半円型の建物があるのが分かるかしら?」
「ああ、あれか。ばっちり見えるぜ」
永琳が指で示した方向に全員が目を向けると、そこには白い巨大なドームがあった。周りの建物と比べると軽く五倍はありそうな大きさは圧巻と言える。
「私の知っている情報が正しければ、輝夜はあそこに居るはずよ」
「何!?じゃあ早く行こうぜ!」
「そう焦らないの。ちょっと待ちなさいな」
輝夜が居ると聞いて、早く助けたいという感情が露になる流零。紫はそんな流零をなだめながらスキマを開く。一行がスキマに入って出口から出ると、ドームのすぐ近くの茂みであった。
「何だ?一気に中に入るんじゃねえのか?」
「スキマで入っていきなり敵と鉢合わせしたらどうするつもり?こっちは輝夜の正確な居場所が分からないのよ……誰か来た!皆隠れて!」
慎重に進んでいくことを流零に言い聞かせる紫だったが、人の気配を感じたため即座に茂みに身を隠す。他の全員も隠れると、足音がだんだんと近付いてきた。
「いやー、それにしても今日は中の連中が忙しそうだったな」
「なんでも、不老不死の薬を服用した人間での実験らしいぞ。人間で実験するなんて、科学者の考えることは俺達には分からんな」
見張りと思われる銃器で武装した男が二人、話をしながら息を潜めて隠れている流零達の近くを通り過ぎていく。気付かれずに済んだようだ。
「……行ったか。とにかく、これで輝夜がこの中に居るのが確定したわけだ」
「そうね、後は見つけ出して助けるだけよ。この建物には何度も入ったことがあるから、構造は大体把握しているわ。道案内は任せて」
先程の男達の会話から確かな情報を得た一行は、永琳を先頭に周囲を警戒しつつ先に進む。すると、ほどなくして建物に入れそうな小さめの扉を発見した。
「これは非常用の出入口ね。ちょうどいい、ここから入りましょう」
そう言って永琳は扉のすぐ横の壁に手を触れる。何をするのかと他の全員が見ていれば、永琳が触れた一部が縦にスライドしてボタンが現れた。そしてボタンを押すと、カシャンという音が鳴り響く。
「これで鍵は外れたわ。行きましょう皆」
永琳の言葉に頷く一行は、扉を手動で開けて内部へ侵入を果たした。扉の中は非常用というだけあって薄暗く、照明も微々たるものしかない。しかし、それでも構うことなく先に進んでいく。
「これが出口よ……ちょっと待って。扉の向こうに誰か居るみたい」
ようやく出口と思った矢先にまた足止めを食らってしまった一行。とりあえず気付かれないように気配を消し、扉の前から去るのを待つことにする。
「暇だな〜。ていうか非常用通路に二人も警備が必要か?」
「だよな〜。実験開始の時間が近いから警備を厳重にするって言っても、流石にこれはやり過ぎだよな」
扉の向こうで呑気に会話する警備員二人。それとは違い、流零達は困っていた。警備員達はここから動くことはほとんどないだろうし、他の出入口にも警備員が配置されているのが予想されるからだ。
「参ったわね。こんなところでつまずくなんて」
「どうしたものやら……」
「俺にいい考えがある。全員耳貸してくれ」
小声で話し合いが行われる中、流零が不敵な笑みを浮かべて名乗り出る。全員の注目を浴びて、流零は更に話を続けた。
「(青年説明中)……ってな感じで行く」
「それで本当に大丈夫なのか?」
「隠密行動もへったくれもないじゃない……けれども、現状を打開するにはいいかもしれないわね」
「流零に賛成」
「あまりのんびりしてもいられないし、それで決まりね」
流零の作戦を行うことに決定した一行は、即座に行動へと移す。流零は扉の前に立ち、それ以外の者は後方でいつでも動けるよう待機。そして流零はゆっくり扉に手を掛けると、一気に引いて扉の向こうに躍り出た。
「な、何……ぐふぉっ!!」
「ひっ!?」
「動くな。静かにしろ」
扉を出た先には左右に警備員がおり、突然の乱入者に目を剥いて驚いている。流零はまず右に居た警備員の鳩尾に拳を一発叩き込んで気絶させ、素早く剛火を抜いてもう片方の警備員の首筋ギリギリに添える。
待機していた面々は流零が行動を終えたのを確認すると、開いた扉から姿を現して流零の周囲に集まった。
「さて、お前に一つ質問だ。蓬莱山輝夜が今どこに居るか知ってるか?」
「お、お前達は一体……うぅっ!」
剛火を首筋に添えたままで質問するが、警備員は答えない。そこで流零は気絶しない程度の殺気を込めて睨み付ける。無論、本当に殺すつもりなど欠片もない。
「たたた確か今は、三階の第四実験準備室に居るはずだ。う、嘘じゃない。そう聞いたんだ」
「そうかい、ありがと……よ!」
完全に怯えきった様子で答える警備員。それを見て若干やり過ぎたかと思うも、用は済んだので流零は警備員の鳩尾を殴って気絶させた。
「第四実験準備室といえば、ここからかなり離れてるわ。急がないと!」
「お前達!そこで何をしている!」
強引ではあるが、輝夜の居場所を突き止めた一行。しかし、運の悪いことに巡回中の警備員が数人現れてしまった。
「ちっ、まあいい。どうせこっからは見つかっても構わねえからな!」
「皆、最短の道はこっちよ!私についてきて!」
緊迫した状況でも臆することなく、流零は自らを奮い立たせる。そして永琳が先頭となり、一行は脱兎の勢いで走り出した。
「逃がすな!他の警備員にも知らせろ!」
「了解!こちらC班、侵入者を発見しました……」
流零達を逃がすまいと警備員達も通信機で仲間に連絡を取る。すると、数秒の内に施設全体に警報がけたたましく鳴り響くのだった。
(今行くぞ……輝夜!)




