第30話
今回はちょいエロかな?
とりあえずどうぞ!
不比等の屋敷の一室。ここでは現在、藤原親子と流零達が朝食の真っ最中であった。
「流零、今日は一輪と都の外で修行して来ようと思う」
「おう、昼までには戻って来いよ」
藍は箸を持った手を止めて流零に今日の自分の予定を告げ、流零は漬物を口に運びながら簡単な返事をする。
「あの……私もご一緒していいですか?皆さんが来てからもう一週間は経ちますけど、まだそういった風景を見させていただいてないので」
「前にも言っただろ。危険だから駄目だってな」
話を聞いていた妹紅は流零達のことをもっと知るために同行許可を求めるが、流零にあっさり断られてしまった。
「確かにそうかもしれませんが!」
「妹紅、彼らが危険だと言っているのだから大人しく……ごほっごほっ!?」
諦めきれずに思わず大きな声を出す妹紅。
それを見た不比等が注意して彼女をなだめようとした時、突然咳をして苦しみ出した。
「父上!?大丈夫ですか!?」
「あ……ああ、ちょっとむせただけだ。心配はいらないよ。それよりも、流零君達に言われた通りにしなさい。いいね?」
「はい……」
妹紅だけでなく流零達も心配そうに見つめる中、不比等は調子を整えると改めて注意する。
妹紅は不比等の言葉を受け、しょんぼりした様子で引き下がるのだった。
少し時間が経過し、朝食を終えた流零達は屋敷の玄関前に集まっていた。
「兄さん、行ってきます!」
「ここはよろしく頼むぞ」
「ふっ、任せとけ」
少しだけ流零と話すと、雲山の入った袋を持った一輪と藍は元気そうに屋敷を出発する。
見送りが終わった流零は今日は何をして過ごそうかと考えながら屋敷の中をうろついていた。
他人の屋敷の中で龍人化の特訓をする訳にはいかないため、力仕事が無い限り正直言って暇なのだ。
そうしていると、通りがかった部屋の中から誰かが咳をしている声が聞こえてくるではないか。
戸を開けてみるとそこに居たのはうずくまって咳をする不比等だった。
「おっさん!あんた血が!」
「ごほっ……見られてしまったか……」
不比等に駆け寄った流零は彼の手のひらにべったりと付いた血を見た。恐らく吐き出した血なのだろう。
不比等は真剣な表情の流零を見ると、自嘲するような笑みを浮かべて静かに語り出す。
「黙っていてすまない。実を言うと私は不治の病を患っているんだ。医者からはそう長くは生きられないと言われたよ。時々今のような咳が出たりするんだが、その間隔も段々短くなってきた」
「……妹紅には伝えてあるのか?」
衝撃の事実を知るもあまり騒ぎ立てるのはまずいと思い、表面上は冷静にする流零。
「一応ね。気丈に振る舞ってはいるけど、きっと心の中では不安なはずだ。母親は既に他界し、その上私まで死んだら肉親は一人も居なくなってしまうから」
「そうか……」
両親を亡くした自分とこれから最後の肉親を失うことになるであろう妹紅。
流零は不比等の話を聞きながら妹紅の境遇にかつての自分を重ねていた。
「だったらよ、俺達が妹紅の心の支えになってやる。あいつが一人でもやっていけるようになるまでな」
「流零君……本当にいいのかい?」
流零は決めた。妹紅の支えに、助けになってみせると。彼女には心を許せる者がもっと必要なのだと。
流零の言葉を聞いた不比等は嬉しく思いながらも確認をする。
「強引に引き止めといていいも何もねえだろう。ここまで関わったんだ、最後まで付き合わなきゃ後味悪いんだよ」
「ふふふ、それはすまなかったね。それにまたお礼を言わなくてはならなくなった。ありがとう、流零君」
小さい笑みを浮かべて自分の決意が変わらないことを伝える流零。それにつられて不比等も微笑みを浮かべながら礼を言うのだった。
その頃妹紅はというと……
(父上には悪いけど、やっぱり気になるものは気になるわ!)
なんと一般人に変装し、屋敷を抜け出して気付かれないように藍達の後をつけていた。
藍達は都を出ると人気の無い森の中に入っていき、妹紅は離れた場所からその様子を見る。
(こんなところでやるんだ。どうしよう、ちょっと怖くなってきちゃった)
妖怪でも出てきそうな森の前に来て入るのを少し躊躇う妹紅。もし襲われでもしたら、戦う力を持たない自分ではひとたまりもないだろう。
「ちょっと見るだけだから大丈夫よね?」
そう自分に言い聞かせると意を決して森の中に入り、藍達を探すのだった。茂みから自分を見つめる存在にも気付かずに……。
「そらそら!守ってばかりでは一撃入れることも出来ないぞ!」
「姉さんの妖力弾が多すぎなんだってばぁぁぁぁ!?」
「むう!このままではいかん!」
現在、日課と化している修行をしている藍達。一輪と雲山は藍が放つ弾幕に圧倒されて手も足も出ず、当の藍は余裕の表情で妖力弾を撃ちまくっていた。
そこから離れた場所の茂みで様子を見ている者が一人居た。そう、妹紅である。彼女は自分が見ている光景に声を出さないようこらえながら驚いていた。
「(これは一体どういうことなの!?一輪ちゃんの隣に居る雲みたいなおじさんに藍さんの獣耳や尻尾は何!?ひ、一先ず屋敷に戻らなくちゃ!)……え?」
頭の中が混乱し、屋敷に戻って整理しようと後ろを向いた妹紅。するとそこには最も望まぬ来客が居た。
「グルル……」
「きゃああああ!!」
そこに居たのは体長およそ3mほどの巨大な熊。だが、その背中からはミミズのような気持ち悪い触手が飛び出て蠢いている。妹紅は悲鳴を上げてすぐに逃げようとするが、妖怪熊は触手を伸ばして妹紅の足を絡めとってしまった。
「ヴァァァァァッ!!」
「は、離して!」
何とかして妖怪熊から逃れようと必死に抵抗する妹紅。しかし、人間の少女と妖怪とでは力の差は歴然である。すると、唐突に触手の動きに変化が起きる。
「ひっ!?何を……嫌、嫌ぁぁぁぁ!?」
「グフフ」
足を掴んでいる触手が徐々に体の上へ這い上がってきたのだ。
涙目になって嫌がる妹紅を見て舌なめずりする妖怪熊。どうやら食べる前に遊ぶつもりらしい。ついには着物の中に触手を入れようとする。
「グフッ、グフフ……グギッ!?」
「っ!?あ、あなたは……」
もう助からないと絶望しそうになったその時、突然何者かが飛び蹴りで妖怪熊を吹っ飛ばして妹紅の前に現れた。
「悲鳴が聞こえたから駆けつけてみたが、まさか妹紅だったとはな。まったく、不比等殿にも止められただろう」
「藍さん!」
颯爽と登場したのは九尾の狐、藍。妹紅を見つめるその表情には間に合ったという安堵と、忠告を無視して来たことへの呆れが混じっていた。
「あ、危ない!?」
「グラァァァァ!!」
「おやおや、私ばかりに気を取られていいのか?」
妹紅の声を聞いて妖怪熊の方を見ると、怒りに満ちた表情でこちらに突進してくる。さっき蹴られたのが余程頭にきたようだ。
藍は慌てることもなく余裕を見せつけると、おもむろに空へ指を差す。
不思議に思った妹紅が藍の指差した方向を見るとそこには……
「一輪ちゃん!」
「雲山、お願い!」
「承知した!」
一輪と今まさに拳を振り下ろさんとする雲山が居た。
「ふんっ!!」
「ギッ!?」
振り下ろされた雲山の巨大な拳は見事に妖怪熊を押し潰し、拳を退けた跡には原形を留めていない妖怪熊だったモノが残っているのみであった。
「あ、あの……藍さん達は……妖怪なんですか?」
「隠していたことは本当に申し訳ないと思っている。不比等殿は承知の上で私達を招き入れたのだが、君が望むならすぐにでも屋敷を出て行こう」
危機が去ったので、最も気になっていたことを聞く妹紅。それに対して藍は正直に話すと、屋敷に残るか出て行くかの判断を妹紅に任せる。
「……藍さん達には父上だけでなく私の命も救っていただきました。妖怪とはいえ恩人を追い出すことなど私には出来ません。従者達には秘密にしておきますので安心して下さい」
「不比等殿に似て君もお人好しだな。けど、ありがとう」
少し考えて妹紅が出した結論は藍達を受け入れることであった。彼女の言葉を聞いた藍達の表情には自然と微笑みが浮かぶ。
「じゃあ妹紅ちゃんに紹介するわね。この雲みたいな妖怪は私達の仲間で、名前は雲山よ」
「雲山だ。よろしく頼む」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
話がまとまったところで雲山の紹介をする一輪。妹紅は雲山の姿に少し圧倒されながらも丁寧に挨拶をした。
「さて、そろそろ屋敷に戻るとするか」
「ちょっと待って下さい藍さん」
一通りのことが終わり、屋敷に戻ろうとする藍を妹紅が止める。
疑問に思う藍だったが、妹紅の視線で彼女の考えていることに察しがついた。
「藍さんの尻尾、屋敷に戻ったらしまっちゃうんですよね?触ってもいいですか?」
「やはりな。別に構わないが、あまり乱暴には扱わないでくれ」
妹紅が見ていたのは藍の尻尾。とても手触りの良さそうな毛並みをしているそれは、一度は触ってみたくなるのも頷ける。
許可を得ると妹紅は早速尻尾に触れて感触を堪能し出した。
「うわ〜、凄いモフモフしてて気持ちいいです。えいっ!」
「こ、こら!根元の方はやめ……ひゃんっ!?」
相当気に入った様子の妹紅は尻尾の深いところまで触り始め、藍は色っぽい声を出してしまう。
「姉さん可愛い!妹紅ちゃん、私も混ぜて混ぜて〜!」
「一輪!?お前まで……うひゃあっ!?」
その光景を見ていた一輪も楽しくなってきたのか、妹紅のように藍の尻尾を触るのだった。
雲山が言うには、この後藍はへとへとになるまで尻尾をいじられたとか。