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第23話

日常に新しい刺激が欲しいなと思った今日この頃です。


自分、インドア派ですけどね。

『……ろ。起き……れ』



遠のいていた意識が徐々に戻り、どこか懐かしさを感じる声が耳に入る流零。



『さっさと起きんか馬鹿息子!!』


「痛えっ!?」



怒声と同時に頭に強い衝撃が走ると、完全に目が覚めて周囲の状況を確認しようとする。



「ここは……どこだ?」



さっきまで妖怪の山で號鬼と戦っていたはずの流零だが、彼が今いるのは見渡す限り何も無い真っ白な空間だった。


上下左右も自分が立っているのか浮いているのかもよく分からない。そんな状況に流零は戸惑っていた。



『どこを見ている流零。私はこっちだ』


「っ!?あんたは!?」



後ろから声が聞こえたので振り向いてみると、そこには流零と似た服装をした白髪の青年がいた。


髪は腰まで届くほど長く、目付きがどことなく流零に似ていた。



「なんであんたがいるんだよ!親父!」


『気付くのが遅いぞ馬鹿息子。未熟なところは昔とちっとも変わらんな。それでもこの流禪(りゅうぜん)の子なのか?』



流零の父……流禪は顔を合わせて早々に呆れた様子で、驚いている流零に厳しい言葉を浴びせる。



「んだと!?いきなり現れて馬鹿呼ばわりはねえだろ!このクソ親父!!」


『親に向かってクソとは何だ馬鹿息子!!』


「そっちこそまた馬鹿って言いやがったな!もう許さねえ!ぶっ潰す!!」


「やれるものならやってみろ!馬鹿息子がぁ!!」



売り言葉に買い言葉でついには取っ組み合いの喧嘩を始めてしまった二人。やはり血の繋がった親子なのだろうか、性格も似た部分がある。



『はいはい二人共、今はそんなことしてる場合じゃないでしょう』



二人が殴り合っていると不意に女性の穏やかな声が聞こえ、自然と喧嘩も止まる。


二人が声のする方を向くと、そこには若緑色の巫女装束を身に付けた黒髪の女性がニコニコと笑顔で立っていた。


髪は流零と流禪の中間ほどの長さで、美人という言葉がぴったりの顔をしている。



『……すまん魅零(みれい)。私としたことがつい熱くなってしまった』


「お、お袋まで出てくるなんて本当にどうなってんだ!?まさかあの世に来ちまったのかよ!?」



流零の母……魅零の登場で流禪は冷静さを取り戻し、目の前に死んだ両親がいる状況に流零は改めて混乱しそうになる。



『よく聞け流零、ここはお前の精神の中だ。そして現実ではお前に鬼神の攻撃が当たる直前でもある。ああ、ここでの時間は現実の一瞬にも満たないから焦らなくていいぞ』


「そ、そうか。なら一安心だ。……けどよ、どうして死んだ親父達がいるのかが分からねえんだが」



流禪の説明を聞いて自分が死んだわけではないと分かりホッとする流零。しかし疑問はまだ残っている。

死んだはずの両親が何故自分の精神世界に現れたのか?幻ではなさそうだが。



『私達は煌龍に魂の一部を宿らせてあなたを見守っていたの。万一の場合あなたの力になるためにね』


「俺の力に?」



穏やかな笑みを崩さずに語る魅零。彼女の話す事実に内心驚きながらも流零は自分の力になるという部分が気になる。



『そうだ流零よ、私達は今からお前の持つ龍の力を最大限に解放させる。そうしなければ鬼神には勝てん』


「解放だと?どういうことだ!?じゃあ俺は今まで力を使いこなせてなかったって言うのかよ!?」



流禪の言葉に驚愕する流零。自分なりに力を使えているつもりだったので無理もない話である。



『純粋な龍でないお前が下手に龍の力を解放すれば体に多大な負担が掛かる。無意識の内に力を抑えていたのだろう』


「待てよ!だったら、ボロボロになってる今の俺が力を解放したら死んじまうんじゃねえのか!?」



淡々と話す流禪にもっともな意見を言う流零。確かに今の流零の体は號鬼との戦いで激しく傷付いている。そんな状態でさらに大きな負担を掛けたら命に関わるだろう。



『そうならないために私達が出てきたのよ。負担は私達が軽減するわ。ただしそれは今回が最初で最後、その先はあなたが自分で力を馴染ませていくしかないからね』


「……分かった。ならやってくれ!」



優しく諭すように話す魅零の言葉に決心した流零は、真剣な表情で力の解放を頼む。



『元よりそのつもりだ。では流零よ、お前はそろそろ現実世界に戻れ。力はお前が戻ったと同時に解放されるゆえ心して掛かるのだ』


『少しの間だけど、あなたと久しぶりに話せて本当に嬉しかったわ流零』



どこか威厳を感じさせる表情で忠告をする流禪と暖かい笑顔で見送る魅零。二人からは親としての情が滲み出ていた。



「親父……お袋……」



そうこうしている内にだんだん両親の姿がぼやけて見えてきた流零。自分の精神が現実に戻りつつあるのだ。


やがて二人の姿は完全に見えなくなり、ここに来た時のように意識が遠のいていく。


そんな中で流零の耳にはっきりとした声が届く。



『『愛しているぞ(わ)流零』』



それは紛れもなく両親の声であり、二人の真心であった。








場面は変わり、妖怪の山の修行場。ここに轟音が響き渡る。號鬼の天雷球が大爆発を起こしたのだ。大きく土煙が舞って流零の姿が見えない。



「そんな……流零が……」


「!?いや、まだ終わっていないようだぞ!」



流零が死んだと思い、力無く地面に崩れ落ちる藍。しかし、隼は異様な気配を感じ取っていた。


その場にいる全員が流零のいる場所を凝視する。



「オオオオオオオオッ!!」


思わず耳をふさいでしまいそうな凄まじい咆哮が土煙の中から聞こえ、全員の鼓膜を激しく揺さぶる。


同時に膨大な紺碧の光が土煙を吹き飛ばし、それは姿を現した。


馬や駱駝のような長い頭に鹿のような角が生え、ルビーのような赤い目をしている。そしてわずかに開かれた口の中には鋭い牙が見える。


光沢のある黒に近い灰色の鱗に覆われた体からは長い尻尾が一本伸びていた。


鋭い爪の生えた右手には今にも砕けてしまいそうな太刀が握られている。


その姿はまさに人型の龍……龍人と呼ぶにふさわしいものであった。



「あ、あれは流零……なのか?」


「煌龍を持っているのを見ると恐らくそうだろうな。だが、この威圧感は普通ではない。力の弱い妖怪なら良くて気絶、最悪死ぬぞ」



突如変貌を遂げた流零を見て困惑する藍。その額には汗が滲み出ており、冷静さを保っているように見える隼も同様の状態だった。


不知火達は威圧感にあてられて起こる震えを必死にこらえて状況を見守る。



「おいおい、そんな力を隠してたのかよ!へへっ、面白えじゃねえか!」


「隠してたわけじゃねえ。今使えるようになったばかりだ」



威圧感を感じながらも號鬼の顔には笑みが浮かんでいた。嬉しいのだ、まだ戦いを続けられるということが。


それに対して姿を変えてから初めてまともにしゃべった流零の言葉には、どこか落ち着きのようなものが感じられた。



「そんなことはどうでもいい!さあ、早いとこ続きをやろうぜ!」


「そうかい、なら気を付けろよ。上手く加減出来るか分からねえからな」



事情は気にせずとにかく戦いを求める號鬼に、流零は一応忠告すると互いに構えを取る。


次の瞬間、流零の姿が消えたと思ったら號鬼の目の前に現れた。


防御する暇もなく流零の左の拳が腹にめり込み、声一つ出せずに號鬼はそのまま殴り飛ばされて地面に倒れる。



「ぐっ、やってくれるぜ!だが、まだ終わらねえよ!!」


「終わらせるさ。次の一撃でな」



よろよろと立ち上がりながらもその瞳から闘志の消えない號鬼。対して静かに佇む流零は早々に決着をつけるつもりだった。


二人は言葉を交わした直後に同時に力を高める。どうやら互いに大技を繰り出そうとしているようだ。


號鬼は右腕に雷が同化しているように見えるほどの金色に輝く妖力を収束させ、流零は溢れる紺碧の光を煌龍に纏わせる。



雷霆拳(らいていけん)!!」


龍牙怒涛(りゅうがどとう)!!」



叫びと共に突撃し、交差する二人。互いに技を出し終えた状態で動きを止め、辺りに静寂が訪れる。



「俺の負けだ流零。久しぶりに……楽し……」



静寂を破ったのは號鬼。胸に×印の傷が現れて血が飛び散ると、最後まで言葉を言えずに前のめりに倒れる。


號鬼が倒れると流零の体が白い光に包まれて、いつもの人間の姿へと戻る。



「ありがとう……親父、お袋……」



そう呟いた途端に煌龍の刀身が砕け散る。まるで役目を終えたかのように。


流零はそれを見届けるとドサリと倒れ込み、遠くから聞こえる藍達の叫び声を耳にしながら意識を失う。


体は傷だらけだが、見事に勝利した流零の表情はとても穏やかなものであった。

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