第22話
ゴールデンウィーク終了後初投稿です!
一夜明けた妖怪の山。その中腹には山に住む妖怪達の修行場がある。普段は天狗や鬼が自身を鍛えるために訪れて騒がしい場所なのだが、今日はいつになく静かだった。
現在、広い修行場の真ん中では隼と號鬼の二人が流零達を待っていた。
「昨日はもっともらしい理由を言ってたが、本当は単にお前が戦いたかっただけなんじゃないのか?」
「へへっ、お見通しだったってわけか」
昨日待ったを掛けた理由を推測して聞いてきた隼。
號鬼は隠さず素直に推測が当たっていることを認める。その表情は悪戯好きの子どものようだった。
「はあ、何年の付き合いだと思ってる?嫌でも分かるようになるさ。……どうやら来たようだぞ」
ため息混じりに話す隼の姿からは、今までも號鬼の行動に苦労してきたことが言わずとも理解出来る。
二人が会話をしていると複数の足音が聞こえてくる。
いち早く気付いた隼が號鬼に教えて到着を待つと、少しして修行場に目的の人物が現れた。
「ここが私達がよく使ってる修行場さ。お、大将達はもう来てるみたいだね」
「案内ありがとよ、勇儀」
現れたのは流零達と勇儀だった。どうやら勇儀はここへの案内役を任されたようだ。
「これくらいお安い御用さ。それより、大将と戦うんだったら気をつけなよ。大将の強さは半端じゃないからね」
「分かってらぁ。だが、それでも俺は退けねえんだ」
不知火の兄貴分である流零のことを心配しているのか、真剣な表情で忠告する勇儀。流零は強い意志の宿った目をしながらそれに答えるのだった。
「それじゃあ行ってくる。お前達は巻き添え食らわねえように離れてな」
「兄貴!頑張って下さい!」
「兄さん!負けないで!」
「お前のことを信じて待っておるぞ」
「……」
號鬼達のいる場所へ向かう流零に激励の言葉を送る仲間達。その中で藍だけはほんのり頬を赤く染めてなにやらもじもじしている。
「流零……その……ちょっといいか?」
「どうしたんだ藍?」
流零が疑問に思っていると藍は流零のすぐ目の前に立って両肩をそっと掴む。
「んっ」
「!?!?!?!?」
藍がしたのは口付けだった。それも頬ではなく唇に。
あまりに突然な出来事に流零は言葉が出ず、顔は蒸気が出そうなほどに真っ赤になっていた。
仲間達や勇儀はその様子に顔を赤くし、離れた場所にいる隼と號鬼は状況を察したようでニヤニヤしている。
「こ、これはお前が無事に戻ってこれるようにというおまじないだ!他意は無いぞ!絶対無いからな!い、いつまでボーッとしてるんだ!早く行かないか!」
「お、おう!行ってくる!」
流零に負けないくらい顔を赤くしている藍は、恥ずかしさに耐えられなくなったのか必死に理由付けをする。
どうしたらいいか分からなくなっていた流零は藍に言われて自分のやるべきことを思い出すと、口付けの余韻を感じつつすぐに號鬼と隼が待っている場所へ走っていった。
「熱々じゃねえか、お前達」
「彼女一人出来なかった流零にもついに春が来たか。めでたいめでたい」
「う、うるせえ!藍とはそんな関係じゃねえっての!いいからさっさと始めるぞ!」
からかってくる號鬼と隼に声を荒らげて返す流零だが、頬にまだ赤みが残っているためいまいちしまらない。
「ふっ、そうだな。ではまず、この戦いはどちらかが戦闘不能になるまで続けるということでいいな?そして他の者は俺も含めて勝敗が決まるまで手出しはしない」
「ああ」
「望むところだ」
おふざけは程々にして真面目にルール確認をする隼。
號鬼と流零も気持ちを切り換えて戦いに専念する。
「二人共、準備はいいな?」
「いつでもいいぜ!」
「久しぶりに血が騒いできやがったぜ!」
はりつめた空気の中流零は煌龍を、號鬼は素手で構える。二人の戦意は確実に高まっていた。
「それでは始め!!」
隼は掛け声と共に空高く舞い上がり、現在藍達が避難している修行場の端へ退避する。
「おおおおっ!!」
先手を取ったのは流零。號鬼に突撃すると、まずは一撃浴びせようと煌龍を振り下ろす。
次の瞬間、流零は信じられない光景を目にした。
「何!?」
「どうした?お前の力はそんなもんか?」
振り下ろされた煌龍は號鬼の左腕に防がれていたのだ。
腕からは血がわずかに出ているため無傷ではないが、號鬼にとってこの程度はどうということはないだろう。
流零は全力ではなかったとはいえ、煌龍の一撃で小さな傷しか付けられなかったことにショックを受けていた。だが、戦闘中ではそれが命取りになる。
「俺を倒したけりゃもっと全力で来い!」
「っ!?」
隙を突かれた流零に號鬼の右腕が襲いかかる。攻撃は頬に直撃し、勢いよく飛ばされてしまう。
流零は地面を転げながらどうにか立ち上がると、口の中に違和感を覚えて吐き出してみる。すると口からは血に混じって折れた歯が出てきた。
流零は口元を手で拭いながら號鬼を睨み付ける。
「なんて頑丈な体してやがるんだ。鬼神……想像以上の相手だぜ」
「そうら、どんどん行くぜぇっ!」
流零が號鬼の強さに驚かされていると、號鬼は自身の右手に妖力を集めて何かをするつもりのようだ。
バチバチと弾けるような光が號鬼の右手から発せられている。
「あれは……雷!?」
「地雷!!」
声と共に號鬼が右手で地面を殴ると、まるで雷が地面を引き裂くように流零へ向かってくる。
流零はすぐに回避行動を取ってその場から離れると、さっきまでいた場所で大きな爆発が起こった。「距離を取っても無駄ってことか、ちくしょうめ!だったら!」
離れても強力な遠距離攻撃の可能な號鬼に対して流零に残された手段はただ一つ。
「俺の全ての力を攻撃に使って攻め続ける!はああっ!!」
「面白え!来な!!」
ありったけの力を煌龍に注ぎ、號鬼に再び突撃する流零。號鬼も流零を迎え撃つべく両手に雷を宿して構える。
そこからは凄まじい攻撃の応酬だった。流零の斬撃が號鬼の体の至るところに傷を付け、號鬼の拳が流零の骨にひびを入れていく。ひどい箇所では骨が折れるところもあった。
その最中短時間で負担をかけ過ぎたのか煌龍の刀身に少しひびが入るが、今の流零にそれを気にしている余裕など無かった。
「動きが鈍くなってきたな。限界か?」
「黙ってろ!俺はまだ戦える!」
號鬼の言う通り流零の動きからは当初のキレがなくなっていた。
それもそのはず、煌龍に力を注ぎ続けてなおかつ攻撃をもろに受けているのだ。対する號鬼もだいぶ傷を負ってはいるが、まだまだ力は十分に残っている。
ここにきて差が目に見えて分かるほどになっていた。
「悪いがそろそろ終わりにさせてもらうぜ!」
「がふっ!?」
流零は蹴り飛ばされて仰向けで地面に倒れてしまう。
立ち上がろうとするが、上体を起こすのが精一杯で体が言うことを聞かない。
號鬼は最後の攻撃を繰り出すために両手を合わせて雷を大きな球体に収束させる。
「天雷球!!」
「避けろ!!流零ぇぇぇぇぇぇっ!!」
絶大な破壊力を持っているだろう雷の球が流零に迫る。
今まで静かに見守っていた藍の悲痛な叫びが響く中、流零は上手く動かない体を無理矢理動かして煌龍を構えて防ごうとする。
そして雷の球と煌龍がぶつかり合うがその衝撃で煌龍のひびが広がり、もう少しで砕けてしまいそうな状態になってしまった。
このままでは押し切られると思ったその時……
『やれやれ、世話が焼けるな』
どこからともなく声が聞こえ、流零は意識が遠のいていくのを感じた。




