第12話
長らくお待たせしたわりには短いですが、どうぞ。
竹林での騒動から数日、流零達はとある小さな町の茶屋で休憩していた。
「すみません!お団子のおかわり下さい!」
「ちょっと待て!これ以上は金がヤバいからやめろ!」
「そうだぞ不知火!もう少し財布の中身を気遣ってくれ!」
椅子に座りながらお茶を飲んでいる流零と藍。その隣には不知火と山積みになった皿があった。
まだ食い足りないのか追加注文しようとする不知火を、二人はお茶を吹き出しそうになりながら慌てて制止する。これ以上の出費は厳しいものがあるのだろう。
「ちぇっ、まだ食べたいのに」
「こんだけ食っておいてよくそんなことが言えるな!」
「お前は遠慮というものを覚えろ!」
不知火は食べ終わった団子の串を持って不満そうな様子。しかし流零と藍は額に青筋を浮かべながら、不知火が食べた団子の皿を指差して言うのだった。
「はーい、分かりましたよ」
「ハア、この大食いめ」
「うーん、これは結構な出費になるな」
反省しているのかよく分からない不知火に流零は大きなため息をこぼし、藍は財布の中身を確認しながらどうやりくりするか頭を悩ませていた。
「さて、後は必要なものを買って宿に行くか」
「はい!」
「買い出しに必要な金は残ってるし、もし足りなくなったら手持ちの物を売って間に合わせよう」
休憩が終わり、代金も支払った三人は買い出しに町の商店へ行こうとする。
「旅の方々、もしかして町を出たら山を越えていくつもりですか?」
突然の声に振り返る三人。声をかけてきたのは五十代ぐらいの茶屋の店主だった。
心配そうな顔で店主は町の外に見える山を指差して言葉をつなぐ。
「あの山には物盗り妖怪が出るんです。悪いことは言いません。遠回りにはなりますが違う道を進まれた方がいいですよ」
「物盗り妖怪?その話、詳しく聞かせてくれねえか」
店主の話によるとその妖怪は数年前から現れるようになったらしい。
大きい雲のような体で、通りがかった者に食料や金目の物を置いていくように要求するのだそうだ。
既に数回退治屋が向かったが、どの退治屋も敵わずに帰ってきたとのことだ。
「幸い今のところ死人は出ていませんが、この先出ないとも言えません。ですから、あの山を通るのはやめた方がいいですよ」
「そうかい、忠告ありがとよ。一応覚えておくぜ」
店主の話を聞き終わった流零は店主に礼を言うと、一緒に話を聞いていた二人と共に買い出しに戻るのだった。
この町は規模こそ小さいが様々な商店が建ち並び、活気に溢れていた。
道中では不知火が食べ物の店に行こうとするのを藍が止めたり、藍が町の男からナンパされたのを断ったりしていた。
そんな中、流零は茶屋で聞いた妖怪のことについて考えていた。
何故わざわざ食料や金目の物を奪うのか?大抵の妖怪ならそんなことはせずに人間を食おうとするはずだ。
しかしその妖怪は人間を食おうとしているわけではないようだ。そして退治屋を含めて、今まで死人が出ていないということも注目すべき点だろう。
偶然とは言い難い事実。その妖怪が意図的に殺さないようにしている可能性が非常に高い。まあ、仮にそうだとしても町の住民などにとってその存在は迷惑なのだろうが。
茶屋の店主から忠告されたものの、流零は実質行く気満々だった。正義心と好奇心をその胸に抱きながら。
そのように思考に集中していたせいか、流零は横から出てきた人影に気付かなかった。
「きゃん!?」
「うおっ!?」
案の定ぶつかってしまった両者。流零は倒れなかったが、ぶつかって来た方は地面に尻餅をついていた。
ぶつかって来た人物は水色に近い青の長髪に紺色の着物を身に付け、見た感じ十代後半の少女であった。
地面には少女の物であろう袋が落ちており、中から果物などの食べ物がこぼれていた。
「悪い!ちょっと考え事してて気付かなかった。怪我はねえか?」
「あ、はい。大丈夫です」
流零の謝罪に答えると少女はすぐに立ち上がってこぼれた食べ物を袋に戻し、流零もそれを手伝った。
「ありがとうございました」
「いいってこった。元はと言えば俺が悪いんだからよ」
礼を言う少女に流零は苦笑しながら答える。軽くお辞儀をすると少女はそのまま早足で去っていった。
少女の後ろ姿を見送る流零は真剣な表情になっていた。
「一瞬、あいつから妖力を感じた。妖怪なのか?」
「おーい、流零ー!早く来ないと置いていくぞー!」
また思考に集中しそうになっていると藍の声が聞こえてきた。いつの間にか離れていたようで、遠くで藍が手を振っているのが見える。
「ああ!今行く!」
少女のことについては、別段悪意のようなものは感じられなかったので放って置こうと判断した流零。
今は自分を待っている二人の仲間の元へ行くのだった。