第24話:矜持と違和感
天国御来は我妻の治療を続けていた。
だいぶ治療は進み、
火傷の量も御来と我妻が同じくらいになっていた。
「そう……、やっぱりそうなのね。」
途中から血清の効果が効き始めていたのか、
毒が回ってこなかった。
その為、自身の火傷の消毒に努めていたが、
毒が回らない理由はそうでなかった。
「この子、無意識に魔力で毒を焼いているわね……。」
火傷のスピードもかなり遅くなり、
もう残すところは噛み傷くらいになっていた。
ただ、これを見るに……。
(噛まれた時点で、死んでるわね……、これ。)
もう一度傷をなぞる。
牙の形がお腹から各種臓器を貫いて、
生命機能を停止していたはずだった。
その事に気付いた時には既に自分の火傷の痛みより、
我妻の事が気になっていた。
「……これは、
雫の能力が強くても弱くてもどちらかが死んでたわね。」
お腹の傷が最後まで治らなかったのは
【羽搏ける不死鳥】が臓器を復元していたから。
そして、着くのが少しでも早かったら、
この臓器の傷が自分に返されて死んでいたということ。
「これは一応、茜に報告かしらね……。」
唐突に来る眩暈。
(やられたわ、この子に相当魔力を取られたわね……。)
御来は自身の魔力量が多い事を自覚していた。
しかも固有魔法の能力なのかは分からないが、
魔力があれば自身の身体が治癒していくはずだった。
だが、彼女の身体についている火傷が再生しない。
(久しぶりに……傷が残りそうね……。)
御来の魔力と我妻の固有魔法、その2つが作用したのか。
我妻の身体の傷は元通り治っていた。
「脈もあるわね……とりあえず……良かったわ……。」
各種薬を片付けし、鞄を持つ。
(とりあえず、それっぽく言い繕わないといけないわね。)
マスクを付けなおし、服を正す。
そして扉を開く。
「終わったわよ。」
彼女はそのまま、
付けたばかりのマスクを外していつも通りに話し始めた。
――――――――――――――――――――
数時間後、治療室内。
我妻の眠るベッドの前で茜と御来は話していた。
「そう、我妻君がねぇ……。」
茜は憂う顔で我妻を見つめている。
「何よ、あんた最近そんな顔ばっかりしてるわね。」
御来がそういうと、
立ち上がりマグカップを持ちコーヒーを準備する。
「一番上がシャキっとしないといけないのは分かるけど、
根詰めすぎも良くないわよ。」
コーヒーを茜の前に置いて、
小さな背丈の彼女は椅子にジャンプで飛び乗った。
「そんなに酷い顔してるかな。」
か弱く呟く彼女に普段の明るさは見る影もない。
我妻や操を世界樹に行かせる判断をしたのは自分だ。
責任というものは上が取らなければいけない。
「酷い顔よ、酷い顔。鏡見なさい。」
茜が辺りを見渡して見つけた鏡には、
今にも死にそうな顔をした女の顔が映っていた。
「あはは……確かに、これは酷い顔だ。」
「馬鹿ね。」
彼女は御来に対しても深く罪の念を抱いている。
御来の固有魔法は、
どうあっても痛みや苦しみを伴ってしまうからだ。
「それで?固有魔法の話、続きがあるんでしょ?」
御来は話題を戻そうと、茜に促す。
「そう……そうなんだよね。
我妻君は恐らく二段階目に入った。」
「だから、生きているってことね。」
茜はその言葉に頷く。
「こんなに早く目覚める子が出るとは思わなかったけど。」
「怪我の功名……といえば聞こえはいいけれどね……。」
当然だ、二人とも救えない命が目の前にあった。
自分がすぐ傍に入れなかったこと。
自分が手を尽くしても治せなかったであろうこと。
二人ともが、悔しい思いに歯噛みするしかなかった。
沈黙が続く。
「そういえば、
どうして茜はその第二段階とやらに気付いたの?」
御来がそういうと茜は口を開いた。
「因果関係があるかどうかは分からないけど、
私も目覚めたのよね。」
あっけらかんとコーヒーを飲みながら言う茜に対し、
御来が眼を丸くする。
「茜が……?いつ?」
茜が聞こえない程の小さな声でつぶやく。
「――――――――――、かな。」
「え……?なんで?」
それを聞き取った御来は大きく狼狽した。
「どうしてそれを早く言わなかったのよ!」
感情が大きく揺さぶられて怒鳴る御来。
「誰にも聞かれなかったからね。」
弱々しく笑う茜。
「あんた!仲間を信じてるの!?
信じてないの!?どっちなの!茜!」
小さな身体で茜のお腹の服を掴む。
その力はとても弱かったが、
茜のバランスを崩すには十分だった。
茜が持っていたマグカップが落ちて割れる。
「信じているから……だよ。」
茜は優しく小さな手の上に手を重ねる。
「だからって……。そんなこと……。」
「新たな能力に目覚めし覚醒者……。
いや、グロワーって呼ぼうか。
目覚めし者の事も、
さっきの事も秘密にしておいて欲しいな。」
「……。」
御来は無言でゆっくりと手を離す。
それは否定か肯定か。
「言われなくても知りたくなかったわよ、こんなこと。」
「だろうね。」
茜は力弱く笑った。
御来は後ろを向く。
「また私に秘密を抱えさせるのね。」
そして御来は小さな怒りを声に出した。
「出て行って、
ここは健康な人間が来るところじゃないの。」
茜は困ったように立ち上がる。
「御来からそんなこと言われるの久しぶりだね。」
「うるさい、早く出て行け!」
茜はゆっくりと治療室のドアを閉めた。
「……何よ……。
どうしてこの組織は馬鹿な子しかいないのよ……。」
御来は静かに涙を流していた。




