第23話:[二段階]と【魔の口移し】
夕凪茜は操と雫、
そして達也を所長室に招集していた。
最近の茜はどうも真剣な表情が多い(達也談)らしく、
あまりブラコンが出る事もないとか。
気になることがあるとすれば、
どうも所長室の雰囲気が暗い。
電気や温度、湿度の問題なのかと思うが……。
それは無さそうだなと、操は感じている。
一体何がそう感じさせているのか……、
操は辺りを見渡して違和感に気付く。
(あれ……、いつも居る補佐の藤林さんが居ない。)
彼女の真面目な顔も彼に起因することなのだろう。
彼の存在は彼女とってどれほど大きいものなのだろう。
その答えを、操は持ち合わせていない。
「固有魔法の二段階目……
【目覚めし者】について話すよ。」
足を組みながら椅子を左右に揺らしながら、彼女は話す。
明らかに落ち着きのないことが見て取れる。
「……姉貴、今二段階目って言ったか?」
達也が驚きながら口を開く、
普段は茜や所長呼びであった事も忘れて。
「達也、しっかり聞いてね。」
達也を茶化すことはしない。
やはり何かがあったのだと悟らせる。
「固有魔法には二段階目が存在する。」
茜の話を纏めるとこうだ。
1.二段階目は[現在使える能力をさらに強化する]か
[完全に別能力の変異を獲得する]。
2.代償と呼ばれる制限、
操に当たる所の[血液]が解消されるケースもある。
3.発現する条件は様々であり、
少なくとも[自然に発現することはない]。
4.この話を知っているのは、
[夕凪茜・藤林幻・天国御来]と[もう一人]のみ。
5.能力を開花しているのは[夕凪茜・藤林幻]
そして、フロンテラ中にあと二人。
この話を聞かされた三人は沈黙した。
やはり、全員が思う所はあるが声を出せない。
「茜さん、何故今この話をしたんですか。」
操が重い口を開き、質問する。
当然の疑問を。
この話を新参者の自分にする理由が分からなかったから。
「君たちには、強くなってもらう必要が出来た。」
今の彼女から出た言葉は、少しだけショックだった。
まるで今までは戦力として換算していなかったような。
「おい、姉貴。まるで俺まで弱ェみたいにいいやがるな!」
「そう言ってるんだよ。」
あくまで茜の声は冷たい。
「ふざけっ……!」
そう達也が叫んだ瞬間、茜は指を達也に向けて、光の線を発射した。
予備動作も見えない、魔力を集中させる時間も必要とせず。
その線は達也の頬を通過して、壁を焦がしていた。
「今、達也は1回死んだよ。」
それはとても悲しそうな声だった。
「【三の災厄】特にデスターと相対するなら、
常に気を張ってなきゃダメだよ。」
茜は弱々しく笑う。
それは嘲笑か、それとも。
少なくとも、
知っている限り彼女のみが使える「光魔法」。
それを達也に対して、躊躇いもなく放つ。
明らかに常軌を逸していた。
「あ、姉貴……。」
頬から血が垂れているにも関わらず、茜を見つめる達也。
その瞳は、先ほどのような怒りではなく。
今にも泣きだしそうな子供の眼。
操と雫も、その空気に飲まれていた。
「あ、あの……。」
そんな中、雫が勇気を出して声を発する。
彼女が怯えているのが分かる。
ここまで雫が感情を表に出しているのを操は初めて見た。
「もしかして、湯楽里さんの所の事が。
関係しているんですか?」
詰まる息をゆっくり吐きだして、言葉を選んで話す雫。
「……。そうだね。それだけじゃないけど、
そういうことになるかな。」
茜は椅子をくるりと、回してそっぽを向く。
「我妻君にも話をするつもりだけど、
彼は目覚めし者になったんだ。」
「えっ?」
声が出てしまった。
彼が目覚めし者になったということはつまり。
「目覚めし者になるトリガーは、
[死にかける]事だったっていう事ですか?」
「違うと思う。ニアではあるかな。」
「我妻君のトリガーは、恐らく[死ぬこと]だよ。」
「だからまだ目覚められない、分不相応の力を行使して、
三途の川から戻ってきたんだから。」
その言葉は三人が絶句する。
「彼は一度死んでいるんですか……?」
雫は恐る恐る質問を続ける。
「うん、そうじゃないかな。
御来の話の話の内容から察するに……ね。」
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時は遡り、
小屋の中で我妻の治療を始める御来へと場面は移る。
マスクを付けて部屋に入った御来は絶句した。
「何よ……これ。」
雫が時を止めて動かすを繰り返して、
時間による延命をしていたとはいえ、状況は深刻だった。
彼女が扉を開け我妻の服を脱がすと、
そこには毒ではなく酷い火傷の後があった。
噛まれた位置を中心に広がる火傷が、
ゆっくりと顔まで到達しようとしている。
(この子の息……。)
そっと首に指をあてる。
火傷するかと錯覚するような熱さを感じる。
御来は知っていた。
我妻の【羽搏ける不死鳥】の代償。
それが火傷であることを。
しかし、手前で聞いていた話と違い、
明らかに行使した量が多すぎる。
手前で一応火傷を治すための水を確保していた……が。
「これじゃ……全然足りない。」
兎にも角にも、ただ驚愕してるだけでは何も始まらない。
まずは毒を取り除くところから始める。
「噛まれた場所は、ここね。」
ゆっくりと傷口をなぞる。
「結局これに頼らないといけなくなるの、
医者として本当に情けなくて嫌になるわ……。」
その傷口にゆっくりと御来は口を近づける。
イメージを練りながら、その固有の名前を唱える。
「【魔の口移し】(キス・オブ・ヒーリング)」
顔に届きそうだった火傷がゆっくりと引いていく。
彼女の固有は口づけによる「回復」。
しかし、その実、代償はというと。
(んんっ……かなり……、これは酷いわね……。)
痛み、病や毒を自身の身体に2割引き受けるというもの。
御来の身体に我妻が噛まれた箇所と同じ位置に、
と火傷が毒が広がり始める。
(クッ……あっ……意識が……!)
セントスピリットは麻痺毒と致死毒の両方を持っている。
少し取り込んだだけでも身体に痺れの感覚が回る。
自分が倒れる前に急いで御来は傷口から唇を離す。
「はぁっ……!はぁっ……!」
息も絶え絶えに服を捲り、自分の身体を確かめる。
火傷は広がり、そして毒が肌を紫に色を染めていく。
(舐めんじゃ……ないわよッ!)
全身の魔力の流れをコントロールして患部へ意識する。
我妻が噛まれたと報告を受けた時点で、
ワクチン代わりに血清は打ち込んでいたが所詮付け焼刃。
火傷の外傷は止まっているが、毒の内症は留まらない。
(そりゃ気絶もするわ……ね。)
酷い痛みに耐えながら、
さらに自身に用意してあった薬を刺し続ける。
そして魔力も集中させる。
強壮剤、麻酔、抗生物質、毒性除去、栄養、水分。
様々な薬を腹部に撃ち続ける。
それによって訪れる激しい痛み。
倒れないように、身体を支え口付けを再開する。
「ぐ……あっ……うっ……。」
反動として更に酷い痛みが伴うが、声は出さない。
外の人間に気付かれてしまうから。
この固有魔法の代償を知っているのは、
黒鉄と初期メンバーだけだ。
(っ……!落ち着くのよ……。)
また口を離す。
薬の甲斐もあって自身に回っていた毒性が、
ゆっくりと引いていくのを確認する。
しかし、火傷はどうしても外傷になる為、
どう対処しても残る。
(この能力の悪い所はここなのよ……、ぐっ……。)
また傷に無理やり口づけをする。
彼女の能力は、全ての外傷、病を吸いだしてしまう。
それはつまり、[毒のみ]や[火傷のみ]
といった細かい調整が聞かないのだ。
(この子……魔力不足と栄養失調まで……、
今度覚えてなさいよ……。)
心の中で舌打ちをする。
(絶対に死なせない、私が医者である限り、
患者が死んでいても……私がどうなっても……!)
天国御来の治療は続く。




