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処刑人の娘は満月に選ばれ、冷静な頭脳で冤罪を暴き、辺境伯に溺愛される  作者: 風谷 華


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7.「牢獄の分析」

翌朝、私は牢獄の床で目を覚ました。

体が痛い。石の床は硬く、冷たかった。


(まぁ、牢獄に快適さを求める方が間違ってるけど)


窓から差し込む光で、時刻を推測する。

朝の七時頃か。

裁判は午後二時からだと聞いている。

つまり、あと七時間。


(準備する時間は十分ある)


私は立ち上がり、独房の中を歩き回った。

頭を整理するために。


「エリーゼ、起きたか」

隣の独房から、父の声がした。

「はい、お父様」

「よく眠れたか?」

「まぁ、それなりに」

(本当は嘘。実際は三時間しか眠れなかった)


「エリーゼ、今日の裁判だが——」

父は真剣な声で言った。

「お前は、自分の無実を証明することに集中しろ」

「はい」

「俺のことは気にするな。俺は処刑人だ。この程度の陰謀、耐えられる」

父の声には、強い意志があった。


「だが、お前は違う。お前はまだ若い。これから自由に生きるべきだ」

「お父様……」

「もし、判決が不利になったら——」


父は声を潜めた。

「ポール・バーバルマンを頼れ」

「え?」

「彼は信頼できる男だ。そして、お前を守ってくれるだろう」


父は静かに言った。

「北の辺境は、王宮の権力が及びにくい。もし逃げる必要があれば、彼の元へ行け」

「お父様、逃げるつもりはありません」


私は冷静に言った。

「私は無実です。そして、真実を証明します」

「エリーゼ……」

「お父様、私は処刑人の娘です。証拠を集め、真実を明らかにすることができます」


私は鉄格子を握った。

「今日の裁判で、全てを暴きます」

父は沈黙した後、

——笑った。

「お前は……本当に強い娘だな」

「はい」

私は微笑んだ。


そして——頭の中で、証拠を整理し始めた。



【証拠その1:毒薬の入手経路】

私の部屋から発見された毒薬は、ベラドンナ系の特殊な品種。

王宮の薬草園でしか栽培されていない。

つまり、この毒薬を入手できるのは——

①王族

②高位貴族

③宮廷薬師

④薬草園の管理者

の四者のみ。


私はどれにも該当しない。

(これが第一の矛盾)


【証拠その2:毒薬が部屋に置かれたタイミング】

騎士たちが私の部屋を捜索したのは、昨夜。

しかし、私は毎晩部屋を掃除している。

三日前まで、部屋に毒薬はなかった。

つまり、毒薬が置かれたのは——

この三日間のどこか。


そして、この三日間で私の部屋に入ったのは——

①使用人(毎朝の掃除)

②クラレリア(二日前の午後)

③継母シーナ(一昨日の朝)

の三者。


使用人は私が賄賂で手なずけている。証言を確保済み。

つまり、犯人はクラレリアかシーナ。

(これが第二の矛盾)


【証拠その3:動機】

なぜ、私を陥れる必要があるのか?

①私が北の辺境に行くことを阻止したい

②処刑人の家系を排除したい

③王妃暗殺の濡れ衣を着せる「駒」が必要だった

三つの動機が考えられる。


そして、この三つ全てを満たすのは——

宰相デュランド。

(これが第三の矛盾……いや、繋がり)


私は冷静に分析を続けた。


【結論】

①宰相デュランドが黒幕

②シーナとクラレリアが実行犯

③毒薬はデュランドが提供

④クラレリアが私の部屋に毒薬を置いた

⑤計画的な陰謀

(完璧な推理……のはず)



けれど——

問題は、証拠だ。

推理だけでは、裁判では勝てない。

証拠が必要だ。

物的証拠、証言、状況証拠——

何でもいい。

(どうする?)


私は独房の中を歩き回った。

そして——思いついた。

(毒薬の瓶だ)

騎士が私に見せた毒薬の瓶。

あれには、必ず誰かの指紋がついているはず。

私の指紋ではなく、本当の犯人の指紋が。


(でも、指紋鑑定なんてこの世界にない)


私は首を傾げた。

魔法がある。

スキルもある。


ならば——

(魔力の痕跡を調べる魔法を使うのはどうだろうか)


毒薬の瓶には、持ち主の魔力の痕跡が残る。

私は無属性だから、私の魔力は痕跡を残さない。

つまり、瓶に残っているのは——

犯人の魔力。


クラレリアの光属性の魔力。


いや——

(待てよ)

私はハッとした。

クラレリアは本当は闇属性だと思う。

光属性と偽装しているだけ。

ならば、瓶に残っているのは——

闇属性の魔力だろう。


(これだ!)

私は確信した。

裁判で、毒薬の瓶の魔力を調べてもらえばいい。

そこに闇属性の魔力が残っていれば——

クラレリアの正体が暴かれる。


(完璧な作戦……のはず)


けれど——

問題は、誰が魔力を調べるか。

宰相デュランドが黒幕なら、彼は妨害するだろう。


(信頼できる魔法使いが必要だ)


私は考えた。

王宮には、魔法使いが何人もいる。

けれど、誰が信頼できる?

誰が、公正に魔力を調べてくれる?

(ポール様に連絡できれば……)


けれど、牢獄から外部に連絡する手段はない。

(どうする?)

私は焦っていた。


その時——

「エリーゼ様」

独房の扉の前に、誰かが立っていた。

看守……ではない。

王宮の使用人だ。


「誰ですか?」

「ポール・バーバルマン様の使いです」

私は目を見開いた。

「ポール様の!?」

「はい。ポール様は、あなたの逮捕を知り、すぐに王宮に駆けつけました」


使用人は小さな手紙を差し出した。

「これを」

私は手紙を受け取った。

開くと、力強い文字で書かれていた。

『エリーゼ嬢

君の無実は疑っていない。

今日の裁判で、俺が証人として立つ。

安心しろ。俺が君を守る。

——ポール・バーバルマン』


(ポール様……)


「ポール様は今、王に直訴しています」

使用人は小声で言った。

「裁判を公正に行うよう、圧力をかけています」

「そうなんですね……」

「ポール様は、あなたのことを信じています」


使用人は微笑んだ。

「だから、頑張ってください」

「はい……ありがとうございます」


使用人が去った後、私は手紙を読み返した。

(ポール様が、私を守ろうとしてくれている)

(私は……一人じゃない)


父の言葉が蘇る。

『お前は一人じゃない』


そうだ。

私には、父がいる。

ポール様がいる。

そして——真実がある。


(絶対に、勝つ)


私は拳を握りしめた。

午後二時の裁判まで、あと五時間。

私は独房の中で、作戦を練り続けた。


証拠の提示順序、質問の流れ、相手の反論への対策——

全てを頭の中で組み立てる。


(シーナ、クラレリア、デュランド)

(あなたたちの罪を、全て暴いてやる)


窓の外を見ると、太陽が昇っていた。

今日の夜——満月だ。

(満月の夜に、真実を見る)

父の言葉が、また頭に蘇る。


でも、私にはわからない。

それが何を意味するのか。


(まぁ、今は裁判に集中しよう)

私は深呼吸した。


処刑人の娘として、百回以上処刑に立ち会ってきた。

死刑囚たちの最期の言葉を、全て記録してきた。


そして今——

私が裁かれる側に立つ。


けれど——

(私は負けない)

私は静かに誓った。


真実は、必ず明らかになる。

正義は、必ず勝つ。

それが、処刑人の娘の信念だから。


時間が過ぎていく。

午前十時。

午前十一時。

正午。

そして——

午後一時。


「エリーゼ・エクセキューター」

看守が扉を開けた。

「裁判の時間だ。来い」


私は立ち上がった。

背筋を伸ばして。

誇りを持って。


「行きましょう」

私は冷静に答えた。


父の独房の前を通り過ぎる時、父が言った。

「エリーゼ、強く生きろ」

「はい、お父様」

私は微笑んだ。

「真実を、明らかにしてきます」


看守に連れられて、裁判所へ向かう。

石の廊下を歩きながら、私は心の中で誓った。

(今日、全てが決まる)

(私の無実が証明されるか)

(それとも——死刑判決が下されるか)

けれど——

(私は負けない)

(絶対に)

裁判所の扉が開く。


そこには、貴族たちが集まっていた。

シーナ、クラレリア、ダミアン、そして——

宰相デュランド。

全員が、私を見ている。

冷たく、蔑むように。


けれど——

一人だけ、違う目で私を見ている人がいた。

ポール・バーバルマン。

彼は、私に頷いた。


(大丈夫。私には味方がいる)

私は深呼吸した。


そして——

裁判が、始まった。

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