表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑人の娘は満月に選ばれ、冷静な頭脳で冤罪を暴き、辺境伯に溺愛される  作者: 風谷 華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/25

4.「公開婚約破棄」

舞踏会の日がやってきた。


侯爵家の大広間は、きらびやかなシャンデリアと音楽に満ちていた。

貴族たちは華やかなドレスと宝石を身につけ、優雅に踊っている。

そして私は——相変わらず黒いドレスを着て、隅っこに立っていた。


(まぁ、処刑人の娘が派手な格好しても、逆に浮くし)


「エリーゼ様、お一人ですか?」

振り返ると、ポール・バーバルマンが立っていた。

軍服姿ではなく、正装のタキシードを着ている。

(うわ、めっちゃ似合ってる)


「ポール様。お久しぶりです」

「一週間ぶりだな。今日が例の日か?」

「はい。ダミアン様が婚約破棄を宣言する日です」


私は淡々と答えた。

ポールは少し心配そうな顔をした。

「大丈夫か?」

「何がですか?」

「公開婚約破棄だぞ。普通、屈辱だろう」

「別に。どうせ最初から愛していませんし」

私は肩をすくめた。


ポールは苦笑した。

「君は本当に……変わっているな」

「よく言われます」

その時、音楽が止まった。


広間の中央で、ダミアン・グリュンヴァルトが立ち上がった。


(お、来たな)


「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます」

ダミアンの声が広間に響く。

「本日、私には重要な発表があります」

貴族たちがざわめいた。


「私、ダミアン・グリュンヴァルトは——」

ダミアンが私を見た。

その目は、明らかに嫌悪に満ちていた。

「エリーゼ・エクセキューターとの婚約を、ここに破棄いたします」


広間が静まり返った。

そして——どよめきが起こった。

「婚約破棄!?」

「処刑人の娘が捨てられたのね!」

「当然だわ。あんな穢れた血の娘と結婚するなんて」

(うわぁ、言いたい放題ですね)


私は冷静に周囲を観察した。

ダミアンは続けた。

「理由は明白です。エリーゼ嬢は、処刑人の娘として……その、家名に傷がつくと判断しました」


(おい、もうちょっとマシな理由を考えろよ)

私は内心でツッコミを入れた。


「さらに、彼女は無属性です。魔力を持たない女性と結婚することは、我が家の将来にとって不利益です」


(あー、これは完全にテンプレ悪役のセリフだな)


貴族たちがさらにざわめいた。

「そうよね。無属性なんて、呪われているも同然だわ」

「グリュンヴァルト様、正しい判断ですわ」

「可哀想に、あんな娘と婚約させられて」


(私の方が可哀想なんですけど?)


ダミアンは得意げな顔をした。

「そして——」

彼はクラレリアの方を見た。

「私は、クラレリア・エクセキューター嬢と、新たに婚約いたします」


広間が再び沸いた。

「クラレリア様!」

「光の天使と南の辺境伯!お似合いだわ!」

「やはり、美しい方には美しい方が相応しいのね」


クラレリアは驚いた表情で立ち上がった。

「ダミアン様……でも、お姉様が……」


(うわぁ、演技うますぎる)


「クラレリア嬢、君は優しいな。だが、もういいんだ」

ダミアンはクラレリアの手を取った。

「君こそが、俺に相応しい女性だ。こちらの方が100倍美しい」


(くっさ。しかも露骨に比較してくるし)

私は内心で顔をしかめた。


クラレリアは涙を浮かべた。

「でも……お姉様に申し訳なくて……」

「君は悪くない。俺が選んだんだ」


ダミアンは私を見た。

「エリーゼ嬢、すまないが——いや、すまないとは思わない」


(おい、謝る気ゼロかよ)


「君は俺には相応しくない。君の手を握るのも嫌だと、最初から言っていただろう?」


広間の貴族たちが、私を見て囁き合う。

「可哀想に……」

「いいえ、当然の結果よ。処刑人の娘なんて」

「クラレリア様の方が100倍美しいわ」


ダミアンは続けた。

「エリーゼ嬢、君は今後、社交界に出る必要はない。君のような者がいると、場が暗くなる。君は犯罪者の娘として、地味に生きていけばいい。それが君に相応しい人生だ」


(よし、完璧に記録した)


私は心の中で帳簿にメモを取った。

『ダミアン・グリュンヴァルト。侯爵家舞踏会にて、公開婚約破棄。侮辱発言多数。「犯罪者の娘」発言あり。証人:貴族約200名』


「さあ、クラレリア嬢。俺たちの婚約を祝おう」

ダミアンはクラレリアを抱き寄せた。


広間が拍手に包まれた。

「おめでとうございます!」

「お似合いですわ!」

「グリュンヴァルト様、正しい選択ですわ!」

私は静かに立っていた。

表情を変えず、背筋を伸ばして。


そして——

一礼した。

「ダミアン様、クラレリア。お幸せに」

私の声は静かだったが、広間に響いた。


貴族たちが驚いた顔で私を見る。

「え……怒らないの?」

「泣かないの?」

「普通、屈辱でしょう?」


私は微笑んだ。

「怒る理由がありません。最初から愛していない相手に、感情を使うのは無駄ですから」

ダミアンが顔をしかめた。

「……君は、本当に変わっている」

「よく言われます」

私はくるりと踵を返した。

「では、失礼します」


広間を出ようとした時——

「待て」

低い声が響いた。

ポール・バーバルマンが、私の前に立ちはだかった。

「ポール様?」

「エリーゼ嬢、君はまだ踊っていないだろう」

「え?」

「せっかくの舞踏会だ。一曲踊ろう」

ポールは手を差し出した。


広間がざわめいた。

「北の辺境伯が……処刑人の娘と?」

「まさか、あの『氷将軍』が?」

「冷たくて無骨な、あの将軍が……?」


私は戸惑った。

「で、でも……」

「君が嫌なら無理強いはしない。だが——」

ポールは私を見た。

「俺は、君と踊りたい」

その目は、真剣だった。


私は少し考えた。

そして——手を取った。

「では、お願いします」


広間が再びざわめいた。

ポールは私を広間の中央へと導いた。

音楽が流れる。

私たちは踊り始めた。

「すまない。余計なことをしたか?」

ポールが小声で言った。

「いいえ。嬉しいです」


私は正直に答えた。

「初めてです。誰かが、私を対等に扱ってくれるのは」

「君は対等に扱われるべき人間だ」

ポールは真剣な顔で言った。

「君の出自は関係ない。君の能力、君の誠実さ、君の強さ——それが全てだ」


「ありがとうございます」

「礼を言う必要はない」

ポールは微笑んだ。

「それに、俺は君が必要だ。北の辺境を守るために」

「はい。全力でお手伝いします」


私たちは静かに踊り続けた。

周囲の貴族たちは、困惑した顔で私たちを見ている。

ダミアンは不機嫌そうに、クラレリアは冷たい目で私たちを見ていた。

(ああ、クラレリアの目……やっぱり怖いな)


私は彼女の視線を感じた。

あれは、嫉妬ではない。

計算だ。

彼女は何かを企んでいる。

(ポール様が私に近づいたことで、計画に狂いが生じたのかな?)


曲が終わった。

ポールは優雅に一礼した。

「ありがとう、エリーゼ嬢」

「こちらこそ」

私は深く一礼した。


その時——

「お姉様!」

クラレリアが駆け寄ってきた。

涙を浮かべながら。

「お姉様、ごめんなさい!私、こんなつもりじゃなかったの!」


(おっ、来た来た。『私は悪くない』アピール)


「ダミアン様が勝手に……私、お姉様を裏切るつもりなんて!」

クラレリアは泣きながら私の手を握った。


周囲の貴族たちが、同情の目で彼女を見る。

「可哀想に、クラレリア様……」

「悪いのはグリュンヴァルト様よ」

「クラレリア様は被害者だわ」


(完璧な演技だな)


私はクラレリアの手を払った。

「大丈夫です、クラレリア」

私は微笑んだ。

「あなたは何も悪くありません」

クラレリアの目が、一瞬鋭くなった。


(おっ、今の目。本性が見えたな)


「本当に……お姉様、許してくださるの?」

「ええ。そもそも、愛していない相手ですから」

私は淡々と言った。

「どうぞ、お幸せに。ダミアン様と」


クラレリアは複雑な表情をした。

「お姉様……」

「では、失礼します」

私はクラレリアを残して、広間を後にした。


ポールが後を追ってきた。

「エリーゼ嬢、大丈夫か?」

「はい。むしろ、スッキリしました」

私は笑った。

「これでようやく、自由になれます」

「そうか」

ポールは微笑んだ。


「では、明日からは北の辺境で働いてもらうぞ」

「はい。よろしくお願いします」

私は深く一礼した。



その夜、私は自室で黒い帳簿を開いていた。

『ダミアン・グリュンヴァルト。公開婚約破棄。侮辱発言多数。「犯罪者の娘」発言。クラレリア・エクセキューターと婚約』

『クラレリア・エクセキューター。ダミアンを誘惑し、姉の婚約者を奪う。演技により周囲を欺く』

几帳面に記録する。


窓の外を見ると、月が輝いていた。

丸く、大きく——満月に近づいている。

(綺麗な月だな)

私は何気なく月を見上げた。



コンコン。

扉をノックする音がした。

「はい」

「エリーゼ様、お父様が——」

使用人の声が震えていた。


「どうしました?」

「お父様が……倒れられました!」

私は立ち上がった。


(え?お父様が?)


急いで父の部屋に向かうと、父はベッドに横たわっていた。

顔色が悪い。

「お父様!」

「エリーゼ……すまない」

父は弱々しく笑った。

「少し、毒を盛られたようだ」

「毒!?」


私は愕然とした。

父の症状を見る。唇の色、呼吸、瞳孔——長年の毒物学の知識が働く。

「これは……ベラドンナ系の毒……」

「さすが、俺の娘だ」


父は苦笑した。

「量は少ない。殺すつもりではなく、弱らせるつもりだったようだ」

「誰が!?」

「わからない。だが……」


父は私の手を握った。

「お前を狙っている者がいる。気をつけろ」

「お父様……」

「俺は大丈夫だ。処刑人は、毒に慣れている」


父は咳き込んだ。

「だが、お前は……気をつけろ。特に、満月の夜は注意しろ」

「満月の夜?」

「ああ。満月の夜は、魔力が最大化する。何かが起こりやすい」


父は真剣な目で私を見た。

「お前の無属性も……もしかしたら、満月の夜に何かが起こるかもしれない」

「何かって……」

「わからない。だが、エクセキューター家には古い言い伝えがある」


父は静かに言った。

「『無属性の者は、満月の夜に真実を見る』と」

私は首を傾げた。

「真実を見る?」

「昔話だ。気にしなくていい」


父は私の頭を撫でた。

「それより、お前はもうすぐ北の辺境に行くんだろう?」

「はい」

「ポール・バーバルマンは、信頼できる男だ。彼の元なら安心だ」


父は微笑んだ。

「お前は自由に生きろ。もう、この家に縛られる必要はない」

私は涙を堪えた。

「お父様……」

「俺のことは心配するな。シーナとは近いうちに離婚する」

「でも——」

「お前は、お前の人生を生きろ」


父は強い目で私を見た。

「それが、お前の母の願いだった」

私は頷いた。

「はい。わかりました」

部屋を出る前、父が言った。

「エリーゼ、満月の夜は気をつけろ。何かが変わるかもしれない」

「……はい」


私は不思議な気持ちで部屋を後にした。

満月の夜に、何かが起こる?

無属性の私に?


(まさか。父上の言う昔話でしょう)


私は首を振った。

けれど——

窓の外の月を見上げた時、何か胸騒ぎがした。

まるで、運命が動き始めているような。


(気のせいかな)


私は黒い帳簿を抱きしめた。

そして——誓った。

お父様を毒殺しようとした犯人を、必ず見つける。

シーナか?

クラレリアか?

彼女たちが、お父様を消そうとしているのだろうか?


(許さない)


私は拳を握りしめた。


(絶対に、許さない)

黒い帳簿が、私の怒りを記録する。


満月の夜が、すぐそこまで来ている。

その時、何が起こるのか——

私はまだ知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ