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処刑人の娘は満月に選ばれ、冷静な頭脳で冤罪を暴き、辺境伯に溺愛される  作者: 風谷 華


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22/25

22.「処刑の日」

処刑当日。

朝から、王都中央広場には人が集まり始めていた。


「宰相の処刑だ!」

「王妃を暗殺しようとした大罪人!」

「国を売ろうとした裏切り者!」

民衆の声が、広場に響いている。


私は父と共に、処刑台の横に立っていた。

黒い服、黒い帳簿。

処刑人の娘、エリーゼ・エクセキューター。

最後の仕事。


「エリーゼ」

父が小声で言った。

「大丈夫か?」

「はい」

私は頷いた。

けれど、心臓は激しく鼓動していた。


(冷静に……冷静に……)

(これが、最後の仕事)


ポールは、少し離れた場所に立っていた。

近衛騎士たちと共に。

彼は私を見て、静かに頷いた。


(ポール様……)

(見守っていてください)


午前九時。

処刑執行の時間。

鐘が鳴り響いた。

「これより、宰相デュランド、シーナ・エクセキューター、クラレリア・エクセキューターの処刑を執行する!」

王国の執行官が宣言した。


民衆がざわめく。


最初の囚人が連れてこられた。

宰相デュランド。

鎖に繋がれ、やつれ果てた姿。

けれど、目には——まだ傲慢な光があるような気がした。


処刑台の階段を登る足取りは重い。

デュランドが台の上に立った。


「宰相デュランド」

執行官が読み上げた。

「王妃暗殺未遂、国家反逆罪、ガルゼイン帝国との内通、違法薬物取引、冤罪捏造、脱獄幇助——」

「これらの罪により、死刑を執行する」

「最期の言葉を述べよ」


デュランドは民衆を見渡した。

そして——叫んだ。

「俺は間違っていない!」


「俺は、王国のために動いた!」

「王妃は平和主義で、国を弱体化させようとしていた!」

「俺は、強い王国を作ろうとしただけだ!」


デュランドは最後まで、自分の正当性を主張した。

「貴様らは、わかっていない!」

「俺の計画が成功すれば——」


「執行」

執行官が冷たく命じた。

父が縄を確認する。

そして——

落とし扉が開いき、

デュランドの体が落ちる。

首に縄が食い込む。


数秒後——

動かなくなった。


私は黒い帳簿に、几帳面に記録した。

『宰相デュランド、最期の言葉』

『「俺は間違っていない」』

『最後まで、自分の正当性を主張』

『午前九時五分、処刑執行』


民衆が歓声を上げた。

「ざまあみろ!」

「裏切り者め!」

「当然の報いだ!」


私は感情を押し殺した。

(まだ、終わっていない)

(あと二人)


デュランドの遺体が降ろされる。

次の囚人が連れてこられた。

シーナ・エクセキューター。

かつての継母。

彼女は、完全に憔悴しきっていた。

足が震えている。

階段を登る時、何度もつまずいた。


「シーナ・エクセキューター」

執行官が読み上げた。

「属性偽装幇助、王妃暗殺未遂加担、違法薬物取引、国家機密漏洩——」

「これらの罪により、死刑を執行する」

「最期の言葉を述べよ」


シーナは、私を見た。

涙を流しながら。

「エリーゼ……」

私は黙って見ていた。

「ごめんなさい……」

シーナの声は、震えていた。

「あなたを……苦しめて……」

「でも、私は……」

シーナは泣き崩れた。

「クラレリア……ごめんなさい……」

「娘を……守れなかった……」

「母親として……失格だった……」

シーナは最後まで、娘のことを想っていた。

歪んだ愛情。


けれど——

それでも、母親だった。


「執行」

執行官が命じた。

父が縄を確認する。

落とし扉が開いた。

シーナの体が落ちる。


私は目を逸らさなかった。

記録係として。

冷静に、全てを見届ける。

シーナの体が、動かなくなった。


私は帳簿に記録した。

『シーナ・エクセキューター、最期の言葉』

『「クラレリア……ごめんなさい……」』

『娘への後悔を口にする』

『午前九時十五分、処刑執行』


民衆の声は、複雑だった。

「母親だもんな……」

「でも、罪は罪だ」

「娘を守ろうとして、逆に破滅させた……」

シーナの遺体が降ろされる。


そして——

最後の囚人が連れてこられた。

クラレリア・エクセキューター。

かつての義妹。

「光の天使」と呼ばれた少女。

彼女は、意外と落ち着いていた。


階段を登る。

しっかりとした足取り。

台の上に立った時、

私と目が合った。


「クラレリア・エクセキューター」

執行官が読み上げた。

「属性偽装、王妃暗殺未遂加担、国家機密漏洩、スパイ活動——」

「これらの罪により、死刑を執行する」

「最期の言葉を述べよ」


クラレリアは、静かに私を見た。

そして——微笑んだ。


(え……?)

私は驚いた。


「お姉様」

クラレリアが口を開いた。

「私……本当は……」

民衆が静まり返る。

全員が、クラレリアの言葉を待っている。


「お姉様のこと……大好きだったの」

私は息を呑んだ。

「小さい頃から……ずっと」


クラレリアの目から、涙が溢れた。

「お姉様は強くて、優しくて、誇り高くて」

「私は……憧れてた」

「でも、お母様が……」

クラレリアは声を震わせた。

「お母様が言ったの。『エリーゼを超えなさい』って」

「『エリーゼより優秀にならなければ、愛してあげない』って」


私は胸が痛んだ。

「だから、私……属性を偽装して」

「お姉様を陥れて」

「でも——」


クラレリアは泣き崩れた。

「本当は……お姉様と仲良くしたかった」

「お姉様に……認めてもらいたかった」

「ごめんなさい……お姉様……」

「私……お姉様のこと……」

クラレリアは最後の力を振り絞って叫んだ。

「大好きだったの!お姉さまは私の分まで幸せになって!」

私は涙が溢れてきた。


(クラレリア……)

(あなた……)


「執行」

執行官が命じた。

私は思わず叫びそうになった。

けれど——

父が私の肩を掴んだ。

「エリーゼ……」


私は唇を噛んだ。

(これが、正義)

(これが、因果応報)

落とし扉が開いた。

クラレリアの体が落ちる。


私は目を逸らさなかった。

涙を流しながら——

全てを見届けた。


クラレリアの体が、動かなくなった。

私は震える手で、帳簿に記録した。

『クラレリア・エクセキューター、最期の言葉』

『「お姉様のこと……大好きだったの」』

『姉への愛情を告白』

『午前九時二十五分、処刑執行』


涙が、帳簿に落ち、

インクが、少し滲んだ。

けれど——

記録は、完了した。


「以上をもって、三名の処刑を終了する!」

執行官が宣言した。

民衆が歓声を上げた。

「正義が果たされた!」

「悪人どもが裁かれた!」

「ざまあみろ!」


けれど、私の耳には——

何も聞こえなかった。

ただ——

クラレリアの最期の言葉が、響いていた。


「お姉様のこと……大好きだったの!お姉さまは私の分まで幸せになって!」


私は広場を後にした。

父が傍についてきた。

ポールも。


誰も、何も言わなかった。

ただ、静かに歩いた。


エクセキューター邸に戻ると、私は自室に入った。

一人になりたかった。

黒い帳簿を机の上に置く。

そして——

最後のページを開いた。

空白のページ。

ペンを取る。

震える手で、書き始めた。


『処刑人の娘、エリーゼ・エクセキューターの記録、ここに終わる』

『十八年間、私は死を記録してきた』

『無実の者も、有罪の者も』

『全ての最期の言葉を、記録してきた』

『そして今日——』

『最後の三人を、記録した』

『デュランドは、最後まで傲慢だった』

『シーナは、娘への後悔を口にした』

『クラレリアは——』

私は手を止めた。

涙が、また溢れてきた。

『クラレリアは、私への愛情を告白した』

『彼女は、ずっと私を愛していた』

『けれど、歪んだ愛情の中で、道を誤った』

『これが、因果応報』

『これが、正義』

『そして——これが、最後の記録』

『処刑人の娘としての、最後の仕事』

『明日から、私は——』

『エリーゼ・バーバルマンとして生きる』


(あれ……)

私は書いた文字を見て、驚いた。

(なぜ、バーバルマン?)

(まだ、ポール様から何も——)


コンコン。

扉がノックされた。

「エリーゼ嬢」

ポールの声だった。

「……はい」

私は涙を拭いた。


扉が開く。

ポールが入ってきた。

彼は私を見て、すぐに駆け寄ってきた。

「エリーゼ嬢……」

「ポール様……」

私は彼の胸に飛び込んだ。

そして——声を上げて泣いた。


「クラレリア……!」

「彼女……私のこと……!」

「好きだったって……!」

「私、誤解して彼女を憎んでしまっていた…」


ポールは何も言わず、ただ私を抱きしめていた。

どれくらい泣いたのか、わからない。

やがて、涙が止まった。

「……すみません」

私は顔を上げた。

「また、泣いてしまって」


ポールは優しく言った。

「君は、よく頑張った」

「最後まで、記録した」

「それで、十分だ」


私は頷いた。

「ポール様……」

「エリーゼ嬢」

ポールは私の手を取った。

「処刑は、終わった」

「ああ」

「君の仕事も、終わった」

「はい」

「では——」

ポールは真剣な目で私を見た。

「俺の話を、聞いてくれるか?」


私は心臓が高鳴った。

(大事な話……)

(ついに……)


「はい」

私は頷いた。

「聞かせてください」

ポールは深呼吸した。


そして——

膝をついた。


(え!?)

私は驚いた。

ポールが、私の前で跪いている。



「エリーゼ・エクセキューター」

ポールが口を開いた。

「俺は、君を愛している」

私は息を呑んだ。


「君の強さ、優しさ、誇り高さ——」

「全てを、愛している」

「だから——」

ポールは私の手を両手で包んだ。

「俺と、結婚してくれないか?」



私はまた涙が溢れてきた。

けれど、今度は——

嬉しい涙。


「俺は、君を幸せにする」

ポールは真剣な目で言った。

「北の辺境で、共に生きよう」

「戦略家として」

「そして——」

「俺の妻として」

私は震える声で答えた。

「はい」


ポールは驚いた顔をした。

「本当に?」

「はい」

私は微笑んだ。

「喜んで」

ポールは立ち上がり、私を抱きしめた。


「ありがとう、エリーゼ」

「いいえ、こちらこそ」

私は彼の胸に顔を埋めた。

「ありがとうございます、ポール様」

「もう、様付けはやめてくれ」

ポールは笑った。


「これからは、ポールと呼んでくれ」

「では……ポール」

私は少し恥ずかしそうに言った。

「ああ、そうだ」

ポールは微笑んだ。

「エリーゼ」


窓の外では、夕日が沈んでいた。

長い一日が、終わろうとしている。

処刑人の娘としての、最後の日が。

そして——

新しい人生への、第一歩が。

私は黒い帳簿を見た。

もう、死を記録する必要はない。


これからは——

生を記録する。

希望を記録する。

愛を記録する。

処刑人の娘、エリーゼ・エクセキューターは——

ここで終わる。


そして——

戦略家エリーゼ・バーバルマンが、始まる。

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