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東公先生 姿絵を語る
市に絵描き来たりて人の姿絵を描きて売る。
街人次々に訪れ、描かせて満足して帰る。
東公先生その様しばらく観て、己が姿も描かしむ。
描き上がりし姿絵を見て東公先生いわく。
眉凛々しく眼鋭く鼻高く口品ありて耳貴し。
東公己が姿を鏡にて知るもかくも上たる姿にあらず。汝何故かく描きしかと。
絵描き答えていわく。
我姿のままに描くこと適う。すなわち凡夫は凡夫に、小人は小人に、悪人は悪人に。
己を丈夫美人と信ずる者も有り様のままに。
されど一人として喜ばず。
あえて描くならば人の喜ぶところを描かば皆人嬉しく笑顔にて似姿見る。これ我も喜ぶところなりと。
東公先生いわく。
しかり。人のあえて姿絵を描かせしむるは己の真の姿を知りたきが故でなく、己の姿良しとされること望めばなり。故に汝の描く似姿正しと。
ただ、東公先生重ねて問う。
汝が人を上として描くは、かく描けば人皆多く銭を払うが故もまたあるならんと。
絵描き笑いていわく。
論を俟たずと。




