表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/55

そのにじゅうにぃ~!

時雨の一言あらすじ:ギルドマスターをボコってやった。


 私は今、特殊な金属のような名前と一文字の英数字の描かれたカードを持ち、眉間にシワを寄せている。尚、隣に居るハヤテも同じような表情を作っている。

 そして二人が並んで立っているのは【Fランク】と書かれたクエスト斡旋掲示板の前。


「迷子の子猫ちゃんを探して下さい! 報酬は……300Gだって」

「谷に生えてる薬草を五本採って来て欲しい……こっちの報酬は200Gだ」


 二人で目に付くクエストのオファーを読み上げてみたんだけども、全く持ってお話にならない感じが出てる。子供のお小遣い程の内容の依頼ばっかりだもん……。迷子の子猫ちゃん探しってクエストになるのかな……。


「ほらぁ……ちゃんと剣士で登録しないからFランクに所属する事になっちゃったじゃない……おかげでこんな仕事しかないし……」

「俺は魔法使いとしてSSランクを目指す。それに刀だってFランクじゃないか、偉そうな事は言えない筈だ」


 二人して罵り合っているがこれでランクが上がる訳でもない。コツコツ実績を積み重ねたらランクアップするらしんだけども、今はそれが目的じゃない。お金よ、お金が必要なの!


 ……こうなったらルルゥの働きにかけるしかないわね。頑張って、ルルゥ!


「遠出のクエストとなりますと何日も空ける事になりますので、選択肢としては無しですね。日帰りクエストならまだなんとか……」


 他力本願の眼差しをルルゥに向けた。Fランクの掲示板より少し離れた場所で指先を掲示板に向けて這わして選んでいる姿が映った。


 どうやら日数の心配をしているみたいだけども、いっそのこと遠出してくれても構わないよ? 大丈夫、その間はハヤテは楽しく私と過ごすから!


「……お? これは報酬がいいな。荷物落ちというのが少々魔法使いとしてプライドに触るが、背に腹は代えられん」


 ハヤテが手に取った依頼は、日帰りクエストのポーター募集だった。確かにFランクとしてはかなり破格の報酬だった。まあ、非戦闘員としての募集なので荷物を持てるパワーがあればいいんだね。


 しかし私の方は一向にいい依頼が見つからない。迷子の子猫ちゃんを探しても、もらえるお金は微々たるものだし、効率が悪い。なんかないかなぁ……。

 

 指で掲示板のクエストオファーを辿っていると、掲示板から外れた場所に一枚の張り紙が張られてるのが目に止まった。


 あっ! あった!! いいのがあるじゃん!



≪≪≪



 港町ワウワウに辿り着いての最初のミッションは『宿代を稼ぐ』これに尽きる。温かいお布団と気持ちのいいお風呂に入る為なら身を粉にして働くわ!


 しかし少し前まで四天王と熾烈を極める戦いをしたりしていたのに、いきなり拍子抜けな感じはある。でも生きて行く為にはちゃんと働いてお金を稼がないといけない。四天王を退けたとしても1Gにもなりはしないだもん。あんなにしんどい思いしてもね……。


「じゃ、じゃあ行って来るぞ」

「それでは私も……」


 なにやら二人の言葉のキレが悪いのが気になるけども、お仕事終了後はこの街のBARに集まる事になっている。そこは宿も兼ねているので、お食事を食べてそのままお泊りする予定。


「いってらっしゃ~い! 気を付けてね!」


 嬉々として二人を送り出す健気な私。そしてその恰好はちょっとセクシーなメイド服となっている。

そう、報酬の低いギルドでのお仕事を選ぶより、普通にバイトした方が収入がいい事が発覚したの。 


 しかも賄い付きな上に、制服賞与と好待遇! まあ少しスカートが短いのが気になるけど。


「よおし、新入り! まずは掃除からだよ!」

「うぃっす! 頑張ります!」


 教育担当のイケイケタイプの女性の先輩に気合を入れた挨拶をした。弱っちい私はクエストに出てもモンスターとは戦えないし、Fランクのお仕事じゃまともなご飯は食べれない。

 そんな私にはバイトこそが着実にお金を稼げる手段なの! さあ、時給アップ目指して頑張るわよ~!


「あの刀……一体何の為にギルド登録したんだ?」

「ま、まあ、時雨ちゃんは人化されておりますと能力は至って一般人のようですから……」


 何か心配されている声が聞こえてくるけど、私は大丈夫! ハヤテもお金が無い時にはバイトしてたし! だって勇者ちゃんが大食いだったんだもん。よく『武器のメンテナンス費以上に食費がぁ……』って言ってたもんね。



≪≪≪



 バイト先のBARには気さくな店長が居る。そしていろいろと教えてくれるのは先輩メイドさん。姉御口調の中々のスタイルの持ち主でもある。


 最近の子はみんな発育がいいよねぇ……。


 そんな厳しくも優しい先輩にもいろいろと仕込まれ、お仕事の波にも乗ることが出来た。

 

 あっという間に時間は流れ、日も落ちてBARの方が賑やかになってくる時間となった。もちろん日中からお酒は飲めるんだけど、やっぱり一日の仕事を終えて飲む方がいいのか、夜の方がお店は忙しかった。


 とはいっても日中にバッチリ仕込まれた私にはもはや死角などはない! 私は刀界隈で最高のメイドになってやるんだから!


 ……違う違う、今はただのお金稼ぎだった。早く賢者フェブルに会いに行かないと。またいつ四天王の面々がちょっかいかけてくるか分からないし。


 さてと、もうそろそろハヤテとルルゥも帰ってくる頃かなぁ。そうだ! このまま私がおもてなしちゃうのもありだよね!


「ここはそういう店じゃないよ!!」


 荒々しい先輩の言葉が店内に響いた。か弱い女性の腕を、むさい冒険者の男が強引に掴んでいるのが見えた。


 先輩が酔っぱらいの冒険者に絡まれてるじゃん!? 


「はは、威勢のいい姉ちゃんだ。おい、いくらだ? 買ってやるよ」


 おっと、下衆い。これはかなり下衆い。女の子をなんだと思ってるんだろう。てか早く助けないと!


 その場に駆け寄ろうとすると、パイセンは空いた手でテーブルに置いてあったお冷を酔っぱらいの顔面にぶっかけた。躊躇ない攻撃……かっけぇっすよ! パイセン!


「ふざけないでもらいたいね! これで酔いを醒ましな! あんたみたいな男にいくら貢いでもらってもやる体なんてないよ!」


 おおっ~! 流石パイセン! ビシって言ってやったね!


「この女ぁ……」


 思いの他に鋭く噛み付かれたのが気に食わなかったのか。事もあろうに女性の顔をひっぱたいて床に倒した。


「ちょ、ちょとぉぉ!? 何してんのよ! あんた、馬鹿じゃないの!? どんな事があっても男が女の子に手を上げるなんて最っ低なんだからね!?」

「や、やめ……新人、逃げて……」


 咄嗟に先輩と酔っぱらいの間に入り聖霊の睨みを聞かせてやった。先輩の頬は赤く腫れ、口先からは一筋の血が流れていた。


 マジで信じられない! 女の子の顔を容赦なく叩くなんて……インフェルノ並みに下衆いよ! こいつ!


「ああ? 見ねえ顔だな? どこのガキだ?」


 ほう……絶世の美少女を掴まえてガキ呼ばわりとは。言っておくけど、私はちゃんとおっぱいもあるし、れっきとした大人だからね? あんたの歳の何十倍生きてると思ってるのよ!


「邪魔すんじゃ……ねえよ!」


 何の躊躇もなく振り上げられた拳。食らっても死にはしないだろうけど、普通、初見からグーで殴りかかってこようとする? マジで人として終わってるわぁ……。


 とりあえずここは痛いのを我慢するしかない! 大丈夫! 私は胸を貫かれたことだってあるんだから! 酔っぱらいのパンチぐらいぃぃ!! パンチぐらいぃぃぃぃ!!


 怖いよぉぉぉ!!?


 目を固く瞑り、体を強張らせて衝撃に備えて歯を食いしばった。その刹那、盛大に音が鳴り響いたものの、予想していた衝撃は襲ってこなかった。

 違和感を感じ、そのままゆっくりと目を開けると人が立ってた。主役はいいタイミングで現れるもんだね! ね、ハヤ——


「貴方は今一度、頭を冷やした方がいいですわね」


 澄んだ声による静かな物言いの中に憤怒の感情が込められているのが分かった。


 目の前で床に寝転ぶ酔っぱらいと共に見上げたその姿は、白を基調とした少し露出の高い服装の女性……聖女ルルゥだった。


 助けてもらっといてなんだけど、そこはハヤテが現れるのがセオリーじゃない? いや超絶助かったんだけどさ……。


「痛ぇぇ……な、何をしやがるっ!! このアマぁ!!」


 いきり立って全力でルルゥに殴りかかる大馬鹿さんだったけど、ルルゥはその突進力を逆手に取って受け流し、またまた盛大な音を立てて大の男を床に寝転がしていた。


 相手の力を利用する今の技……見たことある。ハヤテの体術、合気道だ……。てかどうして使えるの!?


「ル、ルルゥ!? い、今のって!?」

「はい、ハヤテ様に教えていただきました。手とり足取り……それより大丈夫ですか?」


 手取り足取りだとぉ!? あれか!? ベッタベタくっついてイチャコラしてたんかい!! いつよ!? そんな隙は……野宿で私が安らかに寝ている時かぁぁぁぁ!! しれっと抜け駆けされてるじゃないのぉ!!


「ちょっとルルゥ! ハヤテと夜な夜な一体なにを——」

「大人しくしやがれ!!」


 胸元に刃物を当てられ、口を塞がれた……ちょ、ちょっと!? 時雨の状態ならつばぜり合いはお手の物だけど、今は人化してるから! 柔肌に刃物当てられたら血が出ちゃうから!!


「ひ、卑怯ですわ! 正々堂々と勝負しなさい!」

「五月蠅い、この小娘がどうなってもいいのか!?」

「痛っ……! んぐぅぅ!!」


 ちょっとぉぉぉ!! 痛いってば! ちょっと刺したでしょ!?  


「や、やめなさい!! わ、分かったわ……言う通りにするわ……」


 両手を上げて無抵抗の意思を表すルルゥ……だけどきっと大丈夫。ここで助けに来てくれるのが真のヒーロー! もうそろそろ出番だよ!? 


 ……来ない。ハヤテ早く来てぇぇぇ!? じゃないと殺されちゃうぅぅ!!


 そんな願いが通じたのか、お客さん全員が立ち退き、取り巻かれ騒然となったBARの客席から一人の男性が前に現れた。


「おお、なんか盛り上がってるなと思ったら……昼間のニートの姉ちゃんじゃねえか。てかその服装からするともうニートじゃなくなったみたいだな」


 可憐な美少女が刃物を突き付けられ、ビッチも手を上げているという危機的状況にも関わらず、ずけずけと私達の前のテーブルに座り、メニュー表を眺め出したのは……顔に無数の生傷を持つ痛々しい姿のギルドマスターのおじ様だった。


 またハヤテじゃなかった……。てかおじ様、メニューなんか見てないでこの状況なんとかしてくれない?


「ギ、ギルマス……あ、いや、これは違うんだ。その、ちょっと酔った上で戯れって言うか……」

「ほう? 酒の入った最近の冒険者ってやつは、若い女性に刃物を当てて、脅すのが流行ってるのか……それに床にも俺のお気に入りのメイドさんが転がってるんだが? これはちょっとギルドを束ねるものとしては見逃せねえ案件だな?」


 次の瞬間、寒気が全身を襲った。途端、酔っぱらいは泡を吹きながら白目を剥いて倒れた。


 なに? 今の……。殺気的なやつ?


 腰が抜けてへたり込んでいると、おじ様が紳士に抱き起してくれた。太い逞しい腕に抱かれて……。


「大丈夫か嬢ちゃん。シャツに血が滲んでるじゃねえか。でも良かったな、膨らみがなくて。そのおかけで軽傷で済んで——」

「いきなり失礼だろっ!?」


 もう一度お顔を引っ掻かいてやった。


「いぎゃああっ……」


 更なる傷を顔面に負い、私を抱いたまま顔を押さえて静かに崩れ落ちた。なんか呻いてるけど当然の制裁だよ? 


「大丈夫ですか? 口の中が切れてますね……大丈夫です、今すぐ回復魔法をおかけいたしますね」

「回復術師様だったのですか……あ、ありがとうございます……」


 向こうの方ではルルゥがパイセンの怪我を治してくれているみたいだし、良かった良かった。とりあえずこの酔っ払いは出禁確定だね。でもそれだけじゃ気が治まらないわ。身ぐるみひっぺがして簀巻きにしてやろうかしら。


「刀、お前何してるんだ?」

「ふえ?」


 いつの間にかハヤテが目の間に居た。


「おお? 細マッチョなFランク魔法使いじゃねえか。お前の連れがさっきまで大変な目に合ってたぞ? 少し怪我もしてるし、回復魔法が使える彼女に早く治してもらって——」

「離れてぇ!!? いつまで私を抱いてるの!? しかもルルゥはハヤテの彼女じゃないって言ってるでしょお!!」

「うぎゃああああっっ!!」


 もう一撃見舞ってその腕から離れてハヤテに詰め寄った。次は大声上げたね。いや、それよりも誤解を解かないと!


「ハヤテ!? 違うの! 確かにギルドマスターのおじ様が助けてくれたんだけど、私おじ様には興味ないから! 私は若くて細マッチョな男性が好きなの!」

「発言が非常に気持ち悪いからそれ以上喋るな、このノータリン刀。その怪我はルルゥに頼んで治してもらえ。それよりも気絶している男だが……これは魔法によるものか?」


 またノータリンって言ったぁぁ!! てか私に興味は無いの!? ちょっとは嫉妬のひとつくらいしてよ! 


「いてて……Fランクとはいえ、流石は魔法使いを名乗るだけあるな。てかおたくんとこのペット、ちょっと凶暴過ぎるぞ?」

「だれがペットじゃぁぁぁ!! がるるるるっ!」

 

 更なる追撃を試みたのだが、ギルドマスターは素早くルルゥの背に回り籠城を決め込んだ。結局、ホクホク顔のルルゥになだめられ、その場は無事に収まった。


 おのれ……パイセンの顔の怪我を治してくれる事に免じてこの場は許してあげるけど、覚えてらっしゃい!!


「……刀、危険な真似をするんじゃない」


 通りすがりに他の人に聞き取れないぐらい程の声で呟かれ、全く痛くない軽い拳骨を落とされ、そのままぶっ倒れた酔っぱらいを観察し初めた。


 ……なぁ~んだ! ちゃんと気にかけてくれてるんじゃん! 心配してくれてるんなら堂々と言えばいいのに♪ もう、恥ずかしがり屋さんなんだから♪


 口元を緩ませながらハヤトを見ていると、背後から肩を小突かれた。おじ様だった。だけどさっきとは違って真剣な顔をしていた。


「おい、あんたとこの大将、もうちょっと冷静さを持つように言ってやった方がいいぜ? 俺が先に成敗してやったからいいものを、あいつ、奥からあの酔っ払いを殺しかねない勢いで睨んでたぞ?」

「え……?」


 えっと、実はめちゃめちゃ怒ってくれてたってこと? いつもと変わらない雰囲気だったけど……。


 私がおじ様と話をしている間にパイセンの治療を終えたルルゥは、にこやかにハヤテに過剰なボディタッチをして迫り、焦らせている姿が映った。


 あのビッチ聖女め! 所構わずになってきたわねぇ。


「せ、聖女様……あ、いやルルゥ、その、人前ですのであまりこういった行為は……」

「それでは二人きりになればいいのですね! では部屋に参りましょう! うふっ♪」


 ……さっきからむにゅむにゅもにゅもにゅと。ええい、鬱陶しいわ!! しかもハヤテはハヤテで何を顔真っ赤にしてるのよ! 私と二人の時は一切そんな態度取らなかったじゃないの!


「はいストーップぅ!! やっぱ男は乳かぁ!!? 乳があればいいんかいっ!!」

「嬢ちゃんの乳、本気で無いもんな」


 無粋な輩には全身全霊の一撃いや、連撃を見舞い、とどめを刺しておいた。尚、ルルゥにはギルマスの怪我は治さなくていいと伝えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ