そのにじゅういっち!
時雨の一言あらすじ:パンケーキ食べ損ねて吐しゃ物まき散らして失禁した。最悪。
風光明媚な港町、金属の天敵である潮風も自己修復出来る私にはなんて事はなく、むしろ心地良さすら感じられる。
治療の街リバーヴから文字通り飛び出し、森で羞恥的な姿を晒すなどの事件もあったものの、道中いくつかの村を経由し、遂に港町であるワウワウという街に辿り着いた。この中央大陸から南の大陸に渡るには船を使うしか手段はない。
ないのだだけど……。
「路銀が無くなった」
ハヤテから衝撃的な事実を伝えられた。正直、今までハヤテのお金で物を買ったり食べたりしていたが、支出ばかりで収入が一切ない。
ちなみに私のご飯を食べる量が多いだとか、やたらと服が破れる、汚す、のせいで衣服代がかかるのが主な原因と言う訳ではない。
いや、少しは圧迫してるとは思うけどさ。
そんな小さな事は置いといて、ハヤテのお財布を軽くした一番の原因は、魔法使い用の装備。ローブにせよ、杖にせよ、何度は大破して何度も買い直してる。これらの装備はマジックアイテム扱いになり、通常の武具と比べて桁がひとつ違う。
まあ、あそこまで何度も買い替えて今まで路銀がよく持ったほうだとは思う。
何はともあれ、船に乗る為には当然乗船料が必要だし、今後の旅の資金も必要。ここは一度お金を稼いでおく必要がある。
「手っ取り早いのはモンスターの討伐だな……」
「そうですね。であればギルドへ行けば斡旋してくれると思います。ところでハヤテ様と時雨ちゃんのランクはどれくらいなのでしょうか? 私は現在【Bランク】なのですが」
『……ランク?』
ハヤテと久しぶりに声がハモった。久しぶりのユニゾンに満足! ルルゥは笑顔のままこめかみをぴくぴくさせてるけど。どうやら私たちの仲の良さに嫉妬してるみたいね。ざまぁないわ!
でもそう言えばギルドのランクなんて【鑑定】で出てこなかったんだけどなぁ……。実際の身体能力を数値化して見える私が特別なんだろうけど。
「そう言えばなんかレイマン兄さんはギルド登録してたと言ってたような……確かランクはSSって言ってたような気がしますが……」
「だ、SSぅ!? というかハヤテ様にご兄弟がいらっしゃったのですね……」
「ええ、兄と姉が居ます。どちらも私の自慢です」
眩しい笑顔をルルゥに向けて答えている……はい、なんか顔赤くなってますけど? 今度はこっちのこめかみがピクつくわっ!
「ハ、ハヤテ様ぁ……お慕い申しております……」
「おおい! ギルドはギルドの話はどうしたんよぉ!? なんでなよなよともたれかかって上目作ってるんだよ、このビッチ聖女様はよぉ!?」
「……ちっ、邪魔ね……」
わぁ~お!? 悪態付いたよ、この子! 舌打ちしながら暴言吐くなんて聖女としてどうなの?
「おほん、何はともあれ生きていく為にはお金は必要ですし、まずはギルド登録しましょう。登録だけならお金はかかりませんので」
とりあえずハヤテからルルゥを引き剥がし、話を進めさせた。ハヤテってたら私が同じ事したら時雨本体の鞘とかでエロチックな攻撃してくる癖に、ルルゥ相手には一切そういった事しないんだもん。
私ってお笑い枠なんだろうか……ふ、こんな可憐な美少女なのにさ……ふふっ。
「おい、なんかニマニマ気持ち悪いぞ、この笑い刀」
「これは哀愁ですぅ! 笑ってるんじゃないよっ!」
酷い……悲しみさえ理解してくれないなんて……。
≪≪≪
ギルドと呼ばれる集まりの起源は、街の被害やモンスターに襲われる人を減らすという名目で立てられたもの。
とはいえ、誰かれ構わずにモンスターに立ち向かって行っても返り討ちにあって帰らぬ人になってしまう可能性がある。
そこでギルドが仲介に立ち、個々の能力の認定も定め、適正なクエスト、依頼を斡旋して効率化を図っている。
ふむふむ……なるほどぉ。これがギルドの組織内事情かぁ。
ギルドの壁に飾られている歴史と説明の書いた木札をハヤテと二人で眺めていた。
「となると、レイマン兄さんはSSだから……おお、トップグループじゃないか!」
ハヤテは続いて隣の木札に目を移したようである。えっと何々……ギルドのトップはSSが一番でそこから順にS、A、B、C、D、E,Fとランク付けされている。
「それでは早速、登録しましょう。ハヤテ様なら間違いなくSSですよ!」
……なんかこの流れ、嫌な予感だするんだけど。
「ようこそ、ギルドへ。新規ご登録でございますね?」
どうやら一生懸命壁の木札を見つめていたので自然と登録の流れと踏んだみたい。この受付の女性の方、なかなかやるわねっ!
「はい、クエストの受注を受けたくて」
「はい、ギルドに所属すれば依頼をクリアすると報酬が支払われるものになります。それではこちらの台帳に記載をお願いいたします」
ふむふむ、名前と年齢ね。時雨、っと。年齢は……十六歳って書いちゃえ! 見た目でバレないでしょ。
次は職業か……聖霊って書けばいいのかな? でも職業と言うより存在なんだけどな……はっ!? さっきの嫌な予感ってコレかぁ!?
「はい、出来ました。宜しくお願いいたします」
「えっと……ハヤテさん? 職業欄に魔法使いと書かれておりますが……お間違えでは――」
「ないです! 俺は魔法使いなんで!」
またやらかしてる……でもまずい、こっちはこっちで問題が勃発してる。このまま素直に魔法使いで登録した場合、持ち前の能力を全く生かせないまま試験される。ハヤテが魔法使いの適性検査を受けた所で……無残な結果が出るのは火を見るよりも明らか。
ま、使える魔法が初級火炎魔法だけだし。
「ちょい待ちっ! ハヤテ! 流石にここは剣士にしよ!? ねっ!? このままじゃあ、ご飯も食べられないし、寝る所もなくなっちゃうよ!?」
「武士は食わねど高楊枝……これからフェブル様に会いに行こうというのに剣士なんて肩書きで会い行けるかっ!」
「いや、行けるよ!? どちらかというとそっちがメインだからさ!」
「タ、タカヨウジ? それは一体何の詠唱なのですか?」
「お姉さん、これでお願いいます」
だああっつ! 勝手に提出しやがった!! それにこの忙しい時に首突っ込んでこないでよルルゥ! 高楊枝なんて言葉はレイバー領の人しか分からないから!
「そ、それでは裏に回って下さい。適正テストを実施します。魔法使いのハヤテさん、それと……ニートの時雨さん」
呼び方ぁ~! なにその呼び方!? 確かに職業欄は『無し』って書いたよ? でもそれをそう呼称するのって酷くない?
≪≪≪
不安を胸中に渦巻かせながら受付のお姉さんの後について行くと、ギルドの建屋の裏側に出た。そこには広いスペースが広がっていた。どうやらここは修練所としても使用されているみたい。
ふと周りを観察すると、大きな岩が中央に添えられているのが見えた。それとその奥に……なんかテーブルに足を乗せて高いびきかいて寝てるおじさんが居るんですけど? ちょっと態度悪くない?
「もう、ギルドマスター起きて下さい! お仕事ですよ!」
「むぉっ!? ぐああっ!?」
あ、怒鳴られたおじさんが椅子ごとひっくり返ってこけちゃった。あの人がギルドマスターか。一応ここの責任者だね……てか大丈夫か、このギルド……。
「もぉ~メイプルちゃん、もっと優しく起こしてよ~。優しくほっぺにチュって感じで……分かった、分かったからそんな怖い顔しなさんなって。やるよやるってばぁ……」
地面に倒れて軽口を叩いていたが、受付のお姉さんに睨まれ、素早く身を起こして立が上がった。意外に身軽なおじ様だね。てかお姉さん、可愛らしい名前だね。
「うし、じゃあ早速適応試験を始めるか。なになに……魔法使いと、んん!? ニートぉぉ!?」
おい、なんか私の職業を馬鹿にした感じで言ったでしょ! ニート舐めんなや?
「ま、まあ人を見かけで判断してはいけねえな。じゃあ、ニートの方は後回しにしてまずは魔法使いの方からな。ほれ、あの岩に向かって今使える最大魔法を一丁放ってみてくれ。ああ、そうだ、上級魔法を使えるなら先に言ってくれよ? あの岩がぶっ壊れちまうだけじゃすまねえからな」
ほう、完全に私の事を馬鹿にしてるよね? それと相談なんだけど、ニートって言うのやめてもらえないかな? ちょっと悲しくなってくるから。
「大丈夫です、俺が使えるのは初級火炎魔法だけなので」
「……え? しょ、初級火炎魔法、だけ? ちょい、メープルちゃん、こっち来て?」
そこのおじさん。こっちを指差してこそこそ話をしないの!
結果、ハヤテの渾身の初級火炎魔法を一発岩に当て、私の渾身のパンチをギルドマスターに受けてもらって検定が終了となった。
「よし、まずは確認したいことがある。そこ兄ちゃん。何故魔法使いなんだ? 初級火炎魔法しか使えねえなら、普通にその体で戦った方が強ええだろ……それにその腰の剣はなんだ? 飾りなのか?」
「とりあえずこれに関しては飾りではなく、重りだ。飾りにもなりはしない」
もはや伝説の武器なのに、いよいよ刃物から除名され、ただの重りへとランクダウンしたね。そして堂々と使わない宣言しないで欲しい。
「そ、そうか……。か、変わった奴だな。そんでそこの可愛い彼女の嬢ちゃんの方は、恐ろしい程に非力なんだか……本気でギルドに入るつもりか? 一応、入ってはダメな規則はないが——」
「誰が誰の彼女なんですか? よく聞こえませんでした、もう一度お願いいたします」
話の途中でルルゥが身を乗り出して割り込んできた。
なにやら全身にスパークさせるオーラをまとわせてギルド長を睨みつけてるんだけど……まあ、焼くでない、焼くでない♪ 私、今まで日の光を浴びなかったけど、一般的には私は美少女枠だからね! もう、おじ様は見る目あるんだから♪
「ああ、そっちのグラマラスな方が彼女か。見た目もいいし、強さもある。まさに才色兼備って感じだもんな。まあ、黒髪の方も可愛いのは可愛いんだが、いかんせん、ぺったんこだもんな。俺の方があるんじゃねえか?」
「まあ♪ お上手ですね♪ それにそこは確実だと思います」
先ほどまで修羅のような顔をして無駄に魔力をほとばしらせていたにも関わらず、今は頬に手を当ててうっとりしちゃってる。いろいろツッコミどころはあるが、とりあえずは——
「しゃおらぁぁっ!! もっぺん言って見ろぉぉ! このおっさんっ!!! 誰の何がぺったんこだってぇぇぇ!!? そんな筋肉でガッチガチの胸板と比較するんじゃないわよっ!!」
ギルドマスターに襲い掛かって思いっきり引っ掻いてやった。泣いて許しを請びられたけども、許してやらなかった。受付のメイプルちゃんも『それはギルマスが悪いです』と言った顔で止めなかったし。
てかルルゥ、変わり身早くない!? なにハヤテに寄り添って猫撫で声出しちゃってるのさ! 離れなさいよ!! 次は貴女の番よ!?




