七十九話 ハク、練習する
レッドが地下でゴーレム作りに励んでいる間、ワタシはその上で本を読んでいる。
部屋に山のように積まれた本は、すべて武術の本だった。
レッドはスキルによって、様々な情報を得ることができるので、本を読む必要がないらしい。
だから全部、ワタシが興味がある本を買ってくれた。
ちゃんとした武術の本を読むのは初めてで、非常に為になる。
そう、ワタシの武術には、師と呼べるものなど一人もいなかったのだ。
魔無し子として、生まれたワタシは親からも見捨てられ、物心がついた頃には、盗むことでしか、その日の食料を得ることも出来なかった。
幼いワタシが毎日うまく食料を盗めるはずもなく、二回に一回は失敗して、その度に死ぬほど殴られる。
強くならなければ、生きていけないことを知り、魔法が使えないワタシは武術を習おうとした。
もちろん、お金はないので、盗み見ができる道場を探して、見つからないように見学した。
基礎から教える者はいない。
全てが見よう見まねで、どこかおかしかったがそれでもガムシャラに練習した。
盗み見していることがバレて、半殺しの目にもあった。
それでも、様々な道場を渡り歩きながら、自分に合った武術を盗んでいく。
いつしか、ワタシが盗んだ武術は、ワタシだけの武術になっていた。
本も同じだ。
ワタシが使えると思った技を取り込んでいく。
レッドがゴーレム作りを終えたら、すぐに練習に取り掛かろう。
そう思いながら本に集中する。
目の前には中身のないレッドのゴーレムが、本を読んでいた。
もちろん、中に誰もいないので、フリだけだ。
本を両手で持ち、顔を隠しているだけで、ページは1ページも動いていない。
誰かが来たら、渡されたボイスレコーダーで、簡単な会話をするように言われている。
レコーダーには、コントローラーがあり、遠隔操作ができ、肯定と否定と曖昧の三つのボタンが用意されていた。
上手く出来るか心配なので、誰も来ていない時に何度か練習する。
「お腹すいてきたね」
『ああ、そうだな』
肯定のボタンを押して、自然な会話を演出する。
「レッドはトマト嫌いだった?」
『いや、そんなことない』
「明日は晴れるかなぁ」
『どうだろうな、よくわからん』
言葉は三つだけだが、これなら大丈夫だろう。
クレアが透明になって近づいてきても、気配でわかる。
タイミングよく今のように会話すれば、レッドに中身がないと疑われることもないだろう。
クレアが部屋の前に近づいてくる気配を感じて身構える。
こっそりと部屋に入ってくると思っていた。
クレアはロンドからすべての部屋の合鍵をもらっているはずだ。
だからこそ、ワタシは、いやワタシたちは、クレアが透明になって監視する対策しか立てていなかった。
次のクレアの行動をまったく予想していなかったのだ。
コンコン、と部屋がノックされ、クレアの声が聞こえてくる。
「レッド副隊長、お話があります。開けてもらってもよろしいでしょうか」
クレアが透明にならず直接会いにやって来た。




