七十五話 弟くん、困惑する
「どうやらここまでのようね」
アカが公園のベンチに座っているところで、突然目の前が真っ暗になった。
場面が切り替わり、他の女の映像になる。
「残念だけど、兄とシンクロはもうできないわ。あなたの魂は転生する赤子と深く繋がり始めたの」
素っ裸の女の声だけが聞こえた。
どうやら、俺はまだ夢の中らしい。
「あと五ヶ月スね。わかりました」
アカはきっともう俺がいなくても大丈夫だろう。
復讐君として、教えれることは全て教えた。
確実に復讐ができる時まで、慎重に動くだろう。
俺が生まれてくるまでは、大きな行動を起こさないはずだ。
「で、この映像は? なんでこの女の映像を俺に見せるんスか?」
以前、ハナさんの映像を見たことがあったが、アレはアカに深く関わっていたからだ。
今、見ているこの女がハナさんほど重要人物だとは思えない。
「決まってるじゃない。その女のお腹にあなたがいるからよ」
「マジっ、スか?」
にわかには信じがたい。
女のお腹は五ヶ月の子を宿しているようにはとても見えない。
なにより、さっきまで普通にアカと一緒にいたではないか。
「どういうことスか? アカや俺の母親が、ロンドの部下として働いてるんスか?」
素っ裸の女は、それに答えないまま、いつの間にか俺の夢から消えていた。
もう一度、女を見る。
俺とアカの母親なら、ガレア家で守られているはずだ。
なのに、なぜだ?
アカと同じ部隊に入って何をしている?
「フフ、また、生まれるのね」
そう言って女は、自分の腹を触った。
ぞわり、と何かに頭を撫でられるような感触がして、身震いする。
その女からは、母性を含んだ優しさが微塵も感じ取れなかった。
ダメだ。この女とアカをこれ以上接触させてはいけない。
それは、予感ではなく、もはや確信だった。
この女とアカがお互い親子と分かれば、タダでは済まない。
下手をすれば、俺が生まれてくる前に全てが終わることになる。
「おい、アカと話をさせろっ。俺を起こせっ!」
夢の中で叫ぶが一向に目覚める気配がない。
あの女が言ったように、すでに俺はこの女の腹の中に入っているのか。
それでも、なんとか出ようと夢の中で暴れていると、女が再び微笑んだ。
「お腹を蹴ってるの? 早く出たいのね。もう少しよ、もう少しだけ待っててね」
これまで、どんな人間を見ても怯えることがなかった俺の背筋が凍りついた。
微笑んだその顔には、大きな狂気が含まれている。
女の顔は、もはや人間の顔をしていなかった。
「今度こそ、ちゃんと殺してあげるからね」
アカの心配だけではない。
弟の俺にも過酷な運命が待ち受けていた。




