六十二話 クーピーズ、遭遇する
目的地であるドボチ山街道までの道のりは、何事もなく無事に到達できた。
荷車から荷物を降ろし、各自、遊撃隊の装備に着替える。
「いつも思うんだけど、この装備ちょっと恥ずかしくないか?」
ポールは、着替えるたびにいつもそう言っていた。
ロンド遊撃隊『クーピーズ』の装備は、他のガレア兵士と違い、各個人で色分けされている。
それは自分達の髪色と同じ色の鎧だった。
「お前らはまだマシだよ。赤や青や白や茶色はそこまで目立たない。でも紫はないだろ」
「そうかい、オイラは茶色も地味で嫌だげど。なんなら交換するだ?」
「あら、いいじゃない。試験をトイレで失格したポールにピッタリの色よ」
「烈火のポール様に喧嘩売ってんのか? シャラ」
「別に、ただ事実を言っただけよ。ウンチのポール様」
「あわわわ、やめるだ、二人とも。仲良くしてくんろっ」
三人がいつものようにふざけている間に、ハクと二人で地形を確認する。
「ゴブリンどもが降りてくるとしたら、あそことあそこが怪しいな。シャラとベンの二人は、それぞれ一人ずつ、離れた場所で待ち構えたほうがいいかな?」
「いや、まとめて降りてくる場合を考えて、固まっていたほうがいいと思う。こちらでうまく、街道に降りる場所を誘導させよう」
「わかった。ゴブリンの住処を特定した後、ポールに発火させる地点を検討する」
ハクは戦闘能力だけでなく、作戦を立てる時にも、よいアドバイスをしてくれる。このままずっと味方でいてくれたら、頼れるパートナーとして申し分ない。
「ウンチとか言うやつがウンチなんだよっ、このウンチっ」
「まさか、ウンチにウンチと呼ばれる日が来るとはね。世も末だわ」
「やめてくんろっ、もうオイラがウンチでいいから喧嘩をやめてくんろっ」
うん、後の三人は特にいらない。
そう強く思った。
ようやく三人の騒動が収まり、二手に分かれる。
「まったく、シャラのやつ。あんなおてんばだと、嫁の貰い手なくなるぜ」
ブツブツいいながらポールが先頭で山道を進む。
「そろそろ、ゴブリンの住処が近いはずだ。静かに歩いてくれ、ポール」
「はんっ、ゴブリン如きに慎重だな。あんな奴ら、何匹こようがオレ様の敵じゃないぜ」
確かに、ゴブリンは魔物の中では、かなり雑魚のほうで、このメンバーで遅れを取るとは思えない。
だが、任務はただの勝利ではなく、一匹残らず殲滅することだ。
こちらの気配を察して逃げられてはたまらない。
「三度目は言わせるなよ、ポール。静かに歩け。目的を履き違えるな」
「……ちっ、わかったよ。無表情で怒るなよ。すっげぇ、怖いぜ」
残念だがゴーレムの表情は、笑う、泣く、喜ぶの三パターンしか用意してない。
怒るは、難しいのでその中には含まれてなかった。
「レッド、ちょっと遅かったみたい。囲まれてるよ」
風魔法の探知よりも早く、ハクはゴブリンの気配を掴んだようだ。
「数は、どれくらいだ? ハク」
「……数えきれない。たぶん、50以上はいる。異常な数よ」
どうやらただゴブリンが繁殖しただけではないようだ。
この任務は、もしかしたら大きな事件に繋がっているかもしれない。
「問題ない。予定通り、すべて殲滅する」
こちらに気づかれたことがわかったのか、ゴブリン達が木々の影から次々と姿を現す。
事件は大きければ大きいほど、出世に繋がっていく。
望むところだ、ゴブリンども。
僕は、無表情なゴーレムの中で、にっ、と笑った。




