六十話 ロンド、謁見する
ガレア家の門をくぐるのは、久方ぶりだった。
出来ることならば、ここにはあまり訪れたくなかったが、さすがにガンス総統からの呼び出しを無視するわけにはいかなかった。
「ようこそ、お越しくださいました、ロンド様」
全く同じ顔をした双子のメイドに、門の左右で出迎えられる。
花畑が広がる大きな庭の奥にガレア家の巨大な屋敷があった。
豪華な屋敷といえば、聞こえはいいが、それはあまりにも歪な屋敷だった。
この街をガレア家が支配してから、間絶えず増設が続けられおり、その大きさは下手な城よりも遥かにでかい。
いくつのも家を飲み込み、合体したような屋敷。
七階建てのその屋敷は、主にセコイア材の骨組みで設計されており、外壁は赤いレンガで覆われている。
屋敷には大広間や舞踏室を含む、およそ200以上の個室があり、さらに2つの地下室と3つのエレベーターが設置されていた。
街と共にどこまでも大きくなるガレア家の屋敷は、肥大化した支配欲を象徴しているようで、いつ見ても気分が悪くなる。
「こちらへ、今日はわたくしが案内させて頂きます」
右のメイドに案内され、ガンス総統の部屋に向かう。
ガイドがなければ、迷路のような屋敷で迷子になる。
いくら道を覚えても、屋敷は毎回増設されルートが変わっていく。
「ここは、まだ増設を続けるのかい?」
「はい、当主様のご意思により」
ここでいう当主はガンス総統ではない。
表向きはガンス総統は引退し、息子のランスが当主ということになっている。
臆病者で、常に何かに怯え、震えているガレア家当主ランス・ガレア。
あの豪胆なガンス総統から、何故あのような小心者が生まれたのか。
ここ数年、屋敷から出たのを見たこともなく、今もどこの部屋に隠れているかわからない。
半年前に子供が死産した時も、転生子事件が起きた時も公の場には一切姿を見せなかった。
次の子供が生まれるのを期待するしか、ガレア家の未来はない。
そんなことを考えながらメイドに着いて行く。
いくつもの階段を上って、下りて、ようやくたどり着いたのは、大きな屋敷の中では、比較的小さい部屋だった。
「おう、来たか、ロンド。ご苦労だったな」
部屋の中央にガンス総統が胡座をかいて座っていた。
椅子も机もない。
畳と呼ばれる東方の床敷きに、座布団と呼ばれる布を敷いてその上に乗っている。
服装も浴衣と呼ばれる、簡素なものをまとっていた。
「ガレア遊撃部隊、隊長ロンド、参りました。本日は、入団試験及び、その際に起こった銃撃事件について……」
「あー、そんなに堅苦しく話さんで良い。要点だけまとめて話せ。敬語もいらん。ワシはただの隠居じじいじゃからな」
そのことについては触れないでおく。
ガンス総統は、本気であのランスにガレア家の当主が務まると思っているようだ。
もっとも、そう思っているのは、ガンス総統だけなのだが。
「では、お言葉に甘えて」
ガンス総統の前に座り、同じように胡座をかく。
「で、ガンス総統。その後ろに立ってる女の人は誰なんですか?」
部屋に入った時からずっと気になっていた。
最初は、ただ中身のない女性用の銀甲冑が置いてあるだけと思っていた。
だが風魔法で探知すると、中に人が入っていることが判明する。
「ふはっ、これはワシの秘密兵器じゃ。名前は…… そうだな、ギンということにしとこうか」
ガンス総統の言葉にも、銀甲冑の女、ギンは、なんの反応も示さず、身動き一つしない。
どこから連れてきたのか。
一体、何の為にここにいるのか。
圧倒的な強さを誇るガンス総統には、護衛は必要ないはずだった。
ふっ、とギンの方から風が吹く。
ボクが探知にするために送った風の精霊を探知して、返してきたようだ。
どうやら彼女もボクと同じ風属性のようだ。
かなり、強いな。
それが初めてギンを見た時のボクの印象だった。




