五十七話 ロンド、復活する
ベッドの上で目を覚ました。
腕には透明な管が通っており、輸血されている。
胸に違和感を感じて、試合中に背後から狙撃されたことを思い出す。
起き上がろうとすると、身体が固定されているのか、身動き一つ取れなかった。
「あらあらあら、まだ動いてはいけませんよ。ロンド隊長」
いつもの気の抜けたような声が聞こえてくる。
「クレアか。あれから何時間たった?」
「四十八時間です、ロンド隊長。もう目覚めないんじゃないかと思ってましたよ」
どうやらかなり危なかったようだ。
別世界から持ち込まれた銃による攻撃は、魔法による回復が難しい。
助かったのは、かなり運がよかったと言えるだろう。
「犯人はわかったのか?」
「分析班が調べましたが、痕跡は一切見当たらなかったそうです。ただ、試験候補者の中に紛れ込んでいたのではないか、との見解がなされています」
「……そうか」
そこはボクも同意見だ。
三十人弱の候補者の中に、転生子の仲間がいる可能性は高かった。
全員を尋問にかけることも出来るが、その方法では尻尾を掴むことは難しいだろう。
「それで、試験のほうはどうなった?」
「レッドとハクが決勝で戦い、レッドが優勝しました。試験結果は後日連絡すると伝え、候補者全員、宿で待機してもらってます」
「獅子身中の虫か」
さて、どうしたものか。
なにか理由をつけて、全員不合格にすることが一番の安全策だが、犯人を捜すことも不可能になる。
かといって内部に敵がいる状況は、あまりにも危険すぎる。
「ガンス総統にこの事は?」
「伝えました。面白いから全員合格にしろ、と言っておられました」
「はっ、相変わらずだな。あの人は」
真面目に悩んでいるのが、馬鹿らしくなるほど豪胆だ。
「いいだろう。使える者はボクの部隊に入れる。残りは全部、アラクネの部隊に放り込もう」
「いいのですか? あそこの部隊は良からぬ噂をよく耳にしますが」
「毒を以て毒を制す、だ。使えない部下はいらないし、転生子の仲間とアラクネ、どっちが潰れても構わない」
クレアのいうように、アラクネには、薄汚い噂が後を絶たなかった。
部隊に入る前、転生子と闇で取引をしていた。
その転生子の情報を売ることで、ガンス総統に取り入って、幹部として入団した。
自分の部下達に人体実験をし、失敗したら事故に見せかけて殺している。
魔物とのハーフで、その正体は薄汚い蜘蛛らしい。
どれも確証は得れていないが、いつか証拠を掴み、やがてはあの女も排除しなければならない。
「それでは、ロンド隊長の部隊には誰を選ぶのですか?」
「ああ、そうだな、紙とペンを」
身体が動かないので、風魔法でペンを使い、クレアが持つ紙に名前を書く。
「この五人でいいのですね」
「ああ、その五人でいい」
選んだ五人の中に、ボクを撃ったやつはいるだろうか。
もし、いるならば、必ず正体を暴いてなぶり殺す。
「あら、この五人」
「どうした? 何か気づいたのか?」
「いえ、みんな髪の色が違うなって、思っただけです」
確かに偶然にも、五人全員の髪色が違っていた。
ボクとクレアを足しても部隊七人、すべて違う色になる。
「なかなか覚えやすくて、いいじゃないか」
裏切り者がいるかもしれない曲者揃いの新しい部隊に、ボクは皮肉を込めて、そう言った。




