五十六話 レッド、決着する
時間にしたら、一分も経っていない。
けれど、僕とハクの戦いは、もう終わりに近かった。
「ハッ、ハッ、フゥ」
ハクの呼吸が乱れている。
これまで超加速により、すべての試合を一瞬で決めてきたハクには、まったくダメージがなく、まだまだ戦えると思っていた。
だが、ハクは顔に出さないだけで、随分と無茶な動きをしていたらしい。
「そうだよね、加速魔法だけであそこまで早く動けるわけがないよね」
「うん、キミの援護がなければここまで来れなかったよ。もう身体はボロボロで、指一本動かしたくないよ」
「降参する?」
「まさか」
ハクが大きく息を吸った後、吠えるように息を吐き出した。
乱れていたハクの息が嘘のように静かになる。
次のハクの攻撃が、最大最後の攻撃だとわかった。
六つの魔法のうち、半分を解除する。
使っているのは、闘技場を隠す竜巻魔法とハクにかけている加速魔法、そしてゴーレムを動かす操縦魔法だ。
下手な小細工はしたくなかった。
ハクの全力を全力で受け止めたい。
装備していた斧も捨て、ゴーレムの拳を握った。
「いっ、くっ、ぞぉォォォッ!!」
ハクが、これまでにないような、とんでもない速さで一直線に向かってくる。
あまりのスピードに、後ろで束ねていたハクの白い髪がはじけるように、ぶわっ、と広がった。
ぶちぶちと筋肉の繊維が千切れる音が、ここまで聞こえてくる。
こんな攻撃を避けれるはずがない。
僕に向かって、真っ直ぐに放たれた拳は、ゴーレムの胸部を粉々に粉砕した。
ガードするものがなくなった僕の顔面に、ハクの拳が迫る。
その拳が、あと一ミリというところで、ピタリと止まった。
先にゴーレムの拳がハクの顔面にぶち当たったのだ。
ハクが攻撃する場所はわかっていた。
同時に攻撃したら、絶対に間に合わないことも理解している。
ハクが向かって来る前に、僕はすでにゴーレムの拳を振り上げていた。
これまでの戦いと、ハクのデータから、真正面から一直線にくると予測する。
後は拳を振り下ろすだけだった。
ハクがやって来るであろう、その場所にっ!
轟音が響き、ハクは闘技場の外まで飛んでいく。
顔は潰れ、首は折れ、回転しながら、血を撒き散す。
その威力はゴーレムの腕力によるものではなかった。
ハクの神速とも呼べる攻撃に、カウンターを合わせたことによって、一の力が何百倍にも膨れ上がったのだ。
そのままなら、ハクは即死だっただろう。
それは、考えて使ったものじゃなかった。
ハクを殴ったと同時に、光魔法による回復を、僕は自動で発動していたのだ。
ハクに壊された胸部を修復した後、竜巻魔法を解除し、場外に飛んだハクを見る。
気絶はしているが、外傷はほとんどなくなっていた。
魔法が使えないのに頑張るハクを、僕は予想以上に気に入っていたようだ。
「それまで、勝者レッドっ!」
試験官が勝ち名乗りを上げ、僕はトーナメントに優勝する。
しかし、その喜びに浸る暇はない。
僕の復讐は、まだ始まってすらいなかった。




