四十七話 レッド、毒を盛る
「それでは二回戦を始める。レッドとポール、闘技場へ」
午後の昼下がり。
休憩が終わり、試験が再開される。
僕は余裕を持って、闘技場に上がっていた。
この戦いは、もはや決着がついていたからだ。
「ん? ポールはどうした? いないのか?」
対戦相手のポールは闘技場に現れない。
それもそのはずだ。
彼は戦える状態ではないのだから。
「彼、今トイレにいってますわ。お弁当にあたったのかしら?」
回復担当のクレアさんが試験官にそう伝える。
「まさか、俺も食べたけどなんともなかったぞ。解毒の魔法はかけたのか?」
「ええ、でもまるで効かないの。こんなの初めてだわ」
ゴーレムの中で、ほくそ笑む。
どうやら、僕の実験は成功を収めたようだ。
そう、休憩の時、僕は次の対戦相手であるポールの弁当にこっそりと毒を盛っていた。
魔法による毒攻撃や通常の食当たりなら、クレアさんの回復魔法で一発で回復しただろう。
だが、僕が用意した毒はただの毒じゃない。
ボツリヌス毒素。
その毒はわずか1 gで、約100万人分の致死量に相当する自然界に存在する毒としては、最も強力な毒だった。
僕は、その毒の存在と、製造方法をハナさんのノートパソコンから発見することができた。
まだ、こちらの世界で発見されていないこの毒は、一歳未満の乳児にハチミツを食べさせることにより、その排泄物から作り出せるということが判明した。
ハチミツは山から腐るほど、採取した。
そして、一歳未満の乳児は、最初から手に入れていた。
そう、僕自身だ。
途中、何度も死にかけたが、僕は自分の身体を実験体にして、強力な毒を作り出すことに成功する。
僕は僕のウンチから最強の毒を完成させたのだ。
さらに、嬉しい誤算として、僕の体内で毒を生成したため、その抗体も同時に作り出せた。
つまり、通常の回復魔法では、絶対に回復しない強力な毒を使うことができ、その解毒は僕にしか出来ないということだ。
これは、非常に強力な武器になる。
「ポール棄権の為、レッドの不戦勝とする」
試験官が僕の勝ち名乗りを上げて、僕は闘技場を降りる。
もう少し遅れていたら、ポールの命はなかっただろう。
それはそれで仕方ないが、なるべくなら無駄な犠牲は避けたいところだ。
ポールが入っている簡易トイレの側を通る際に、誰にも気づかれないように解毒の魔法をポールにかけた。
このまま力を隠したまま、僕は優勝する。
ガレア兵士の幹部になれば、この毒で僕の両親や、祖父を暗殺できる可能性は格段に上がるだろう。
残る強敵は、二人。
僕の正体に気がついたハクと、身分を隠して試験に混ざっているガリア兵士隊長のロンド。
どんな相手にも負けるわけにはいかない。
僕はハナさんを殺した奴らを絶対許さない。
必ず復讐を成し遂げてやる。
『そのかわり、私が帰って来なくても、復讐とか考えずに楽しく人生を送ってくれ』
ハナさんの手紙が頭に浮かび、それを断ち切るように僕は、首を振った。




