四十一話 レッド、潜入する
視界はあまりよくなかった。
光魔法のレンズを使って拡大しているけど、実際の目で見るよりも、視野はかなり狭い。
まだ、操縦にも慣れておらず、闘技場に向かう時にも、何もないところでコケそうになった。
「ルールは特にない。致命傷でなければ、多少の怪我も直してやれる。持てる力を全て使い、全力で戦え」
一回戦の相手であるベンと対峙する。
僕が入っている位置からは、正面に立つベンの顔を見ることも難しい。
「大地の力よ、我が牙となり、敵を貫け」
試合が始まった途端に、ベンは素早く詠唱を行い、地面から土の槍を創り出す。
土の槍はベンの頭上に浮かび、そのまま高速で僕に向かって飛んできた。
「風、助けて、ヘルプ、ミー」
小さな声で詠唱し、身体の動きを風魔法で加速させた。
本当は無詠唱で発動できるのだが、それを隠す為にあえて詠唱する。
適当な詠唱は、魔力の質を悪くするようで、無詠唱で使う時より威力が低い。
詠唱はご飯にふりかけやおかずをつけるものだと、ハナさんが言っていたが、僕の魔力は、何もつけないほうが精霊が食べやすいようだ。
風魔法を補助に使い、飛んできた土の槍を、なんとか斧で叩き落とす。
「我は繰り返し求む。貫け、貫け、貫け」
しかし、ベンは再び詠唱し、さっきと同じ土の槍を三つ出現させてきた。
同じ魔法を素早く連続で使う復唱魔法を使いこなしている。
ベンはかなりの実力を持った地魔法使いのようだ。
なるべく実力を隠したままで倒したかったが、これは難しいかもしれない。
ある程度のダメージは覚悟して、僕はベンに向かって走り出した。
ベンは少し慌てただけで、すぐに土の槍を三本同時に発射してくる。
本体にだけは、当たらないように、僕は胸部を腕で隠しながら、そのまま突っ込んだ。
『右肩、左足、脇腹に損傷。ゴーレム活動限界まであと65%』
地の精霊がゴーレムの損傷具合を教えてくれる。
攻撃するのに問題はない。
僕はベンに向かって、巨大な斧を振りかぶった。
「大地の力よ。我が盾となり、守りたまえ」
ベンが詠唱し、大地が盛り上がり、目の前に大きな土の壁が出現した。
振り下ろした斧は、土の壁に阻まれ、ゆっくりとベンが距離をあける。
ベンの顔は見えなかったが、きっと余裕の笑みを浮かべているに違いない。
勝利を確信しているのかな?
でも、それは間違いだよ。
ここまでは、すべて僕の計算通りなのだから。
そう、すべてだ。
僕はすべてを計画してガレアの街に潜り込んだ。
ハナさんのように正面から戦う力は僕にはない。
僕は、赤ちゃんということを隠し、身分を隠し、無属性であることを隠し、無詠唱で魔法が使えることを隠し、この街の兵士として成り上がっていく。
内部から、この街の全てを破壊する為に。
さあ、はじめるよ、ハナさん。
僕はゴーレムの中で、知識スキル『ウィッキーペディア』を発動させた。




