29 通販番組ってマジメに見たことないわ
店長になってから2週間が経った日のこと。
珍しく、新たなお客さんが店に現れた。それは火憐にとっては顔馴染みではあったが、私が会うのは初めてだ。話では何度も聞かされていたけどね。
ガララララ
「いらっしゃいませ」
「お?新しい店員を雇ったのか」
「えっと、せんせいのお知り合いですか?」
「知り合いと言えば知り合いだな。僕は旅をしながら商売をしているのさ。いわば旅商人だな」
「あ、もしかして、西の国からいらしてる方ですか?」
「そうだな。芒王国で商品を仕入れてこっちで売ってるのさ」
そう。噂の旅の商人さんだ。火憐が散財する元凶でもある。
私も西の文化とやらに興味があるので、会ってみたい人だった。
「そうなんですね。それで本日はどういうご用件でしょうか」
「ああ、そうだったね。今日はせんせいはいらっしゃらないのかい?」
「ええ」
「いつ帰って来るかわかるかい?」
「私はわかりません。前にここに来たのは1週間以上前ですね」
「そうか。じきが悪かったな」
「えっと、せんせいになにか」
「ああ、別にこれといった用事があるわけではないんだ。せんせいはうちのお得意さんなんでね。僕がこの町に来るときは必ずここに寄るのさ」
「そうでしたか」
「そうだ、火憐ちゃんはいないのかい?」
「火憐は向こうで本読んでますよ」
「そうか。それじゃ、呼んでくれないかい?火憐ちゃんにとっておきの本があるのさ」
「そうですか、わかりました。……火憐ん?」
ドタドタドタドタ
「なんじゃ?」
「ほら」
「おお!今回はずいぶんと時間がかかったのじゃな」
「おひさしぶり、火憐ちゃん。新しい本を持ってきたよ」
「ありがたいのじゃ!行くのじゃ!」
「私も興味あるんで、見てもいいですか?」
「もちろんさ。外にあるからおいで」
「はい」
ガララ
店の外に出ると、荷車と繋がれた馬がそこにいた。荷車は幌馬車みたいなのじゃなくて、車輪の付いた床板みたいな感じ。その上に木箱がたくさん積まれ、さらに上から藁で覆っている。
馬は黒く、背中までの高さが商人さんと同じくらい。ポニーよりは大きい気がする。
……思っていた以上に軽装備だ。これで結界外も移動できるのか。魔獣ってそんなに脅威ではなかったりする?
「僕の積荷に食べ物がないから、魔獣に襲われることは滅多にないよ」
「食べ物を狙ってくるんですか?」
「魔獣は食べ物と人を狙うんだ。大勢で固まって移動していると襲われやすいと言われているな」
「そうなんですか」
「これじゃな!」
火憐が積荷に被さった藁を片っ端から引っぺがしていたが、やっとお目当てのものを発見したらしい。
「火憐ちゃんが好きそうな本を見つけたから持ってきたんだ」
「でかしたのじゃ!全部買うのじゃ!」
「ちょっと、火憐?お金大丈夫なの?」
「大丈夫なのじゃ!この日のために貯めておいたのじゃ!」
「この日のためじゃないでしょ!?学校のためでしょ!?」
「ん、なんだ?学校に行くのか?」
「あ、そうなんですよ。火憐は西の国に旅に行きたいらしくて、結界の外に出るために学校に行きたいんですよ」
「この国では証が必要なんだったか」
「そうですね」
「面倒な法だな」
「そうですか?」
「うん。こんな法を作った国は、こことここの同盟国くらいなもんだ。芒王国にはないな」
「そうなんですね」
「わしは証が必要なくとも学校には行きたいのじゃ!」
「そうなの?」
「わしは学校でたくさんのことを知りたいのじゃ。だから行くのじゃ」
「そういう割には興味のあることの話しか聞かないよね」
「んぐっ」
「はっはっ、まあそんなもんさ。好きなことやってる方が楽しいからな!」
「そうじゃ!」
「はぁ。学校行ったら興味のないことも覚えなきゃダメよ?」
「わかったのじゃ!」
火憐は学校行っても授業中、魔法のことばっかり考えて内容が頭に入ってなさそう。
私が火憐に勉強を教える未来が容易く想像できる。
「君は見ないのかい?」
「え、私?そうですねぇ、今回のオススメ商品はなんですか?」
「おすすめかい?そうだね、これなんかどうだい?」
商人さんが木箱から取り出したのはネックレスだ。銀色に輝くフォックステールチェーン……こ、この商人、できるっ!
「気に入ったかい?」
「あ、いや。……ええ、まあ」
「そうかそうか。そうだな、せんせいにはいつもお世話になってるから、特別に安くするよ?」
「で、でも、元値が高いでしょう?」
「そいつは銀でできているから、本来は値が張るだろうな」
「そう、ですよねぇ」
「一貫文でも買い手がつくだろう。だがな、それはかなり安く手に入れたのさ。だから君だけ特別に、今回限り、五〇〇文で売ってやろう。どうだ?」
「500!?」
買えなくはない。ってか余裕で買える。
しかしだな、ここは異世界だ。こんなアクセサリーを買うより、もっと実用性のある、旅の装備とか、武器とか、薬とかにお金をかけた方がいいのではないだろうか。
それに今後のことを考えると、稼げない旅の間の予算は多めに確保しておいた方がいい。お金はたくさんあって困ることはないのだ。
「あ、えと、もうちょい……」
「お、いいねえ。そうだな、四五〇でどうだ?」
「んんん!もうひとこえ!」
「わかった、四〇〇だ!これ以上は厳しいな」
「買ったぁっ!」
あ、やべ。乗せられて買ってしまった。この商人、やるなぁ。
「えみ、それはなんじゃ?」
「これ?これは装飾品の一つ。首にかけるタイプのね」
「えみちゃんって言うのか。良い買い物したよ、えみちゃん」
「そ、そうですか?」
「そりゃそうさ。貴族の持ち物だったものだからな。そんなもの、なかなかお目にかかれるものじゃないぞ」
「はぁ」
貴族の、ねぇ。
……いや、待てよ。貴族のものだった?ま、まさか。
「あちゃ、えみちゃんは鋭いね」
「ちょっと、なんちゅうものを!」
「なんじゃ?」
「これ、曰くつきとか、没落貴族の所有物とか、そういうのでしょ!」
「ばれちゃったか」
「いわく?ぼつらく?」
「元の持ち主が不幸に遭ったとか、地位を保てなくなった貴族とか、そういうヤバいものよ」
「何がだめなのじゃ?」
「そんな縁起の悪そうなもの、わざわざ身に着けたくないわ!」
「まあまあ、えみちゃん。それは大丈夫だ」
「何がっ!?」
縁起もあるけど何より、貴族にかかわるアイテムはヤバい。これは異世界モノの鉄則だ!
この国には貴族そのものが存在しないから油断していたわ!
「お、おう……。怒ると怖いな、えみちゃん。たしかに、それの元の所有者は貴族だ」
「それがマズいんだってば」
「まあ、聞け。その貴族はまだちゃんと今も貴族をやっているから、没落ではない」
「んじゃ、ヤバい呪いのアイテムで、扱いに困ったから処分の意味で売り払ったとか」
「それもない。その銀の首飾りはとある貴族が、自領の民を助けるために売ったのさ」
「どゆこと?飢饉でもあったの?」
「さすがはせんせいの店の店員だな。まあ、そんなところだ。芒王国でも領民に優しいと評判の貴族様が、自領民が飢えに苦しまないようにと売り払ったらしい」
「直接その貴族から買ったわけではないのね」
「そうだな。これを手に入れたときに聞いた話だ」
「信憑性ないじゃない」
「いや、この領民に優しい貴族様が行ったことは、芒王国では有名な話なんだ。そしてその時に売ったものが、銀製の女性ものの装飾品だってこともな」
「はぁ。んまぁでも、絶対じゃないですよね?これが銀じゃない、別の金属って可能性もありますよね」
「僕の金属に関しての目は確かさ」
「……しょうがないですねぇ。それを信じるとしますよ」
「疑いを持つのは正しいことさ」
「そうですね」
「商人は、その疑いをどうやって晴らすか、これが重要なのさ」
「なるほど」
商人の心得はともかくとして、この銀のネックレス、私はこれを手に入れた。
この時は商人さんの言葉に乗せられて、大事なことに気づけなかった。
没落もしてない貴族の銀の装飾品がなんで安かったのか。国単位で有名な話に出てくるこれが、だ。
後悔先に立たず。私は後にこいつのせいで頭を抱えることになるのだが、それは今は知る由もない。




