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神様がいない異世界新生活  作者: 出佐由乃
ユズ市の道具屋 編
29/42

29 通販番組ってマジメに見たことないわ

 店長になってから2週間が経った日のこと。

 珍しく、新たなお客さんが店に現れた。それは火憐にとっては顔馴染みではあったが、私が会うのは初めてだ。話では何度も聞かされていたけどね。


 ガララララ


「いらっしゃいませ」

「お?新しい店員を雇ったのか」

「えっと、せんせいのお知り合いですか?」

「知り合いと言えば知り合いだな。僕は旅をしながら商売をしているのさ。いわば旅商人だな」

「あ、もしかして、西の国からいらしてる方ですか?」

「そうだな。(ぼう)王国で商品を仕入れてこっちで売ってるのさ」


 そう。噂の旅の商人さんだ。火憐が散財する元凶でもある。

 私も西の文化とやらに興味があるので、会ってみたい人だった。


「そうなんですね。それで本日はどういうご用件でしょうか」

「ああ、そうだったね。今日はせんせいはいらっしゃらないのかい?」

「ええ」

「いつ帰って来るかわかるかい?」

「私はわかりません。前にここに来たのは1週間以上前ですね」

「そうか。じきが悪かったな」

「えっと、せんせいになにか」

「ああ、別にこれといった用事があるわけではないんだ。せんせいはうちのお得意さんなんでね。僕がこの町に来るときは必ずここに寄るのさ」

「そうでしたか」

「そうだ、火憐ちゃんはいないのかい?」

「火憐は向こうで本読んでますよ」

「そうか。それじゃ、呼んでくれないかい?火憐ちゃんにとっておきの本があるのさ」

「そうですか、わかりました。……火憐ん?」


 ドタドタドタドタ


「なんじゃ?」

「ほら」

「おお!今回はずいぶんと時間がかかったのじゃな」

「おひさしぶり、火憐ちゃん。新しい本を持ってきたよ」

「ありがたいのじゃ!行くのじゃ!」

「私も興味あるんで、見てもいいですか?」

「もちろんさ。外にあるからおいで」

「はい」


 ガララ


 店の外に出ると、荷車と繋がれた馬がそこにいた。荷車は幌馬車みたいなのじゃなくて、車輪の付いた床板みたいな感じ。その上に木箱がたくさん積まれ、さらに上から藁で覆っている。

 馬は黒く、背中までの高さが商人さんと同じくらい。ポニーよりは大きい気がする。

 ……思っていた以上に軽装備だ。これで結界外も移動できるのか。魔獣ってそんなに脅威ではなかったりする?


「僕の積荷に食べ物がないから、魔獣に襲われることは滅多にないよ」

「食べ物を狙ってくるんですか?」

「魔獣は食べ物と人を狙うんだ。大勢で固まって移動していると襲われやすいと言われているな」

「そうなんですか」

「これじゃな!」


 火憐が積荷に被さった藁を片っ端から引っぺがしていたが、やっとお目当てのものを発見したらしい。


「火憐ちゃんが好きそうな本を見つけたから持ってきたんだ」

「でかしたのじゃ!全部買うのじゃ!」

「ちょっと、火憐?お金大丈夫なの?」

「大丈夫なのじゃ!この日のために貯めておいたのじゃ!」

「この日のためじゃないでしょ!?学校のためでしょ!?」

「ん、なんだ?学校に行くのか?」

「あ、そうなんですよ。火憐は西の国に旅に行きたいらしくて、結界の外に出るために学校に行きたいんですよ」

「この国では証が必要なんだったか」

「そうですね」

「面倒な法だな」

「そうですか?」

「うん。こんな法を作った国は、こことここの同盟国くらいなもんだ。芒王国にはないな」

「そうなんですね」

「わしは証が必要なくとも学校には行きたいのじゃ!」

「そうなの?」

「わしは学校でたくさんのことを知りたいのじゃ。だから行くのじゃ」

「そういう割には興味のあることの話しか聞かないよね」

「んぐっ」

「はっはっ、まあそんなもんさ。好きなことやってる方が楽しいからな!」

「そうじゃ!」

「はぁ。学校行ったら興味のないことも覚えなきゃダメよ?」

「わかったのじゃ!」


 火憐は学校行っても授業中、魔法のことばっかり考えて内容が頭に入ってなさそう。

 私が火憐に勉強を教える未来が容易く想像できる。


「君は見ないのかい?」

「え、私?そうですねぇ、今回のオススメ商品はなんですか?」

「おすすめかい?そうだね、これなんかどうだい?」


 商人さんが木箱から取り出したのはネックレスだ。銀色に輝くフォックステールチェーン……こ、この商人、できるっ!


「気に入ったかい?」

「あ、いや。……ええ、まあ」

「そうかそうか。そうだな、せんせいにはいつもお世話になってるから、特別に安くするよ?」

「で、でも、元値が高いでしょう?」

「そいつは銀でできているから、本来は値が張るだろうな」

「そう、ですよねぇ」

「一貫文でも買い手がつくだろう。だがな、それはかなり安く手に入れたのさ。だから君だけ特別に、今回限り、五〇〇文で売ってやろう。どうだ?」

「500!?」


 買えなくはない。ってか余裕で買える。

 しかしだな、ここは異世界だ。こんなアクセサリーを買うより、もっと実用性のある、旅の装備とか、武器とか、薬とかにお金をかけた方がいいのではないだろうか。

 それに今後のことを考えると、稼げない旅の間の予算は多めに確保しておいた方がいい。お金はたくさんあって困ることはないのだ。


「あ、えと、もうちょい……」

「お、いいねえ。そうだな、四五〇でどうだ?」

「んんん!もうひとこえ!」

「わかった、四〇〇だ!これ以上は厳しいな」

「買ったぁっ!」


 あ、やべ。乗せられて買ってしまった。この商人、やるなぁ。


「えみ、それはなんじゃ?」

「これ?これは装飾品の一つ。首にかけるタイプのね」

「えみちゃんって言うのか。良い買い物したよ、えみちゃん」

「そ、そうですか?」

「そりゃそうさ。貴族の持ち物だったものだからな。そんなもの、なかなかお目にかかれるものじゃないぞ」

「はぁ」


 貴族の、ねぇ。

 ……いや、待てよ。貴族のもの()()()?ま、まさか。


「あちゃ、えみちゃんは鋭いね」

「ちょっと、なんちゅうものを!」

「なんじゃ?」

「これ、曰くつきとか、没落貴族の所有物とか、そういうのでしょ!」

「ばれちゃったか」

「いわく?ぼつらく?」

「元の持ち主が不幸に遭ったとか、地位を保てなくなった貴族とか、そういうヤバいものよ」

「何がだめなのじゃ?」

「そんな縁起の悪そうなもの、わざわざ身に着けたくないわ!」

「まあまあ、えみちゃん。それは大丈夫だ」

「何がっ!?」


 縁起もあるけど何より、貴族にかかわるアイテムはヤバい。これは異世界モノの鉄則だ!

 この国には貴族そのものが存在しないから油断していたわ!


「お、おう……。怒ると怖いな、えみちゃん。たしかに、それの元の所有者は貴族だ」

「それがマズいんだってば」

「まあ、聞け。その貴族はまだちゃんと今も貴族をやっているから、没落ではない」

「んじゃ、ヤバい呪いのアイテムで、扱いに困ったから処分の意味で売り払ったとか」

「それもない。その銀の首飾りはとある貴族が、自領の民を助けるために売ったのさ」

「どゆこと?飢饉でもあったの?」

「さすがはせんせいの店の店員だな。まあ、そんなところだ。芒王国でも領民に優しいと評判の貴族様が、自領民が飢えに苦しまないようにと売り払ったらしい」

「直接その貴族から買ったわけではないのね」

「そうだな。これを手に入れたときに聞いた話だ」

「信憑性ないじゃない」

「いや、この領民に優しい貴族様が行ったことは、芒王国では有名な話なんだ。そしてその時に売ったものが、銀製の女性ものの装飾品だってこともな」

「はぁ。んまぁでも、絶対じゃないですよね?これが銀じゃない、別の金属って可能性もありますよね」

「僕の金属に関しての目は確かさ」

「……しょうがないですねぇ。それを信じるとしますよ」

「疑いを持つのは正しいことさ」

「そうですね」

「商人は、その疑いをどうやって晴らすか、これが重要なのさ」

「なるほど」



 商人の心得はともかくとして、この銀のネックレス、私はこれを手に入れた。

 この時は商人さんの言葉に乗せられて、大事なことに気づけなかった。

 没落もしてない貴族の銀の装飾品がなんで安かったのか。国単位で有名な話に出てくるこれが、だ。

 後悔先に立たず。私は後にこいつのせいで頭を抱えることになるのだが、それは今は知る由もない。

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