24 一週間イセカイ。
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…………
……私は床に手をついていた。
……転んだのか、手のひらがひりひりする気がする。
(えみっ!!)
……背後から誰かに呼ばれた。私は身体を返して振り返った。
……頭上から棒状の何かが倒れてきた。よく見ると棒の先に曲線を描いた刃が付いている。
……俗に言う、鎌ってやつだ。それが私に牙を向こうとかかってきた。
(えみぃっ!)
……何よ、うるさいわねぇ。今この鎌をどう避けるか考えるのに必死なんだから。
(えみぃぃぃっ!)
……うるせえええっ!
ガバッ
「叫ばんでも聞こえるわ、あだッ!?」
「みぃ、ぶべっ!?」
あいたたた……これ、知ってるわ。
「……火憐、私の上に乗るなっちゅうの」
「んぐぅ……えみが起きんのじゃから仕方がないのじゃ」
「おかげさまでまた悪夢よ、ちくせう」
「どんな夢じゃった?」
「ん、たしかねぇ……」
「うむ」
「忘れたわ」
「そうか」
私は起き上がって布団をたたむ。
火憐はもう準備が整っているので、私の支度を眺めている。見られているとやりにくい。
寝間着となった浴衣を脱いで布団の上に放り、箪笥の二段目を引き出し中から洋服を取り出す。迷うほどは数がないからすぐに決まる。昨日と同じような服だ。
「それじゃ、行くのじゃ」
「はいはい、しょうがないなぁ」
火憐のあとについて階段を降りる。今日もせんせいの姿は見えない。
店のスペースを通って外に出る。暖かな風が私の後ろから吹き抜けた。春らしいポカポカ陽気だ。
「菜々さん、おはようございます」
「あら、えみちゃんと火憐ちゃん。おはよう」
「おはようございますなのじゃ!」
「いってらっしゃい」
「いってきますなのじゃ!」
「いってきます」
軽く挨拶を交わし歩き出す。
町の人は忙しそうに動き回っている。みんな朝早いんだなぁ。私、道具屋の店員でよかったよ。
「火憐、えみ、よお!」
「おはようなのじゃ!」
「おはようございます、河阪さん」
「おお!ちゃんと覚えてるな、えみは!」
「昨日も会ってるんですから、忘れないですよ」
「そうかそうか、がっはっは!」
「河阪の声はでかいのじゃ。えみ、行くのじゃ」
「おお!声がでかいのは生まれつきでな、がっはっは!行ってこい!」
「いってきます」
今日は火憐の背中をバンバンしてる。ちょっと涙目になってる。痛いよねぇ、それ。
町の北のしょぼい入り口を抜けて畑の間の道を進み、林の木々の間を通り抜けてまたあの場所にたどり着く。少し上り坂になっているからちょうどいい運動になる。
落ち着いてよく見ると、下草が少ない場所を通っているのがわかる。獣道みたいな感じ。毎朝火憐が通るからこうなったのだろう。
「始めるのじゃ!」
この場所に来ると、改めてここが異世界なんだと気づく。
別にそういった特徴を持つものがあるわけではないが、火憐と初めて会ったこの場所は、私が初めてここが異世界と認識した場所でもあるからだ。
もう此方に来て一週間。今の生活も慣れた。店の仕事もラクだし、やることもあんまりない。
……まだ春休みの延長のような気分ではある。この生活もいつか終わり大学の講義が始まる、そんな感じ。
時間の進み方が彼方も同じであればとっくに大学は新年度が始まり、講義の最初の説明を受けている頃だろう。レポート課題が多い講義は履修取り消しの申請をして、確実に単位の取れるものを選び抜く作業。なんて無意味なことやってたんだろうなぁ。大学には何のために入ったんだろうね。
……ここ、異世界にも何のために来たんだっけね。私は自力でこの世界に来たんだ。ここに来る理由があったはずだ。
咲に誘われて、咲と一緒に準備をして、咲と一緒に地底湖に行った。いつも私は咲の後を追っていた気がする。これではどっちが姉なのかわからない。でも咲の「大丈夫」は、根拠がないのに安心感があったなぁ。今頃どうしているだろうか。多分まだ異世界を諦めてないんだろうなぁ。
「えみ、終わったのじゃ」
「……」
「えみ?」
「え?あ、はい。何?」
「終わったのじゃ」
「そう」
「うむ」
木々の間から空を見上げて雲の流れを目で追っていたらだいぶ時間が過ぎていたようだ。暖かくなったからぼぅっとしてしまった。
火憐が私の言葉を待つかのように見つめてくる。
「……火憐は西洋文化を見に行きたい。それで旅ができるように認可証が欲しい。認可証をくれる審査学校に入るためにお金を貯めている。そうだよね?」
「うむ、そうじゃが。どうしたのじゃ?」
「あ、いや。……なんでもない。大丈夫」
そうだ、今の私には目的がある。ここにいる意味を持ってる。
大学にいた数日前とは違う、明確な目標がある。
火憐のために。もう見失って通る道程の心配をすることもない。
「えみ、そろそろ帰るのじゃ」
「うん」
「そうじゃ、今日の夜は」
「今日の夜さ、また尻尾見せてよ」
「んえ!?ま、また鼻から血を出して倒れないか?」
「そうならないために慣れないとね」
「そ、そうか。えみがそう言うならいいのじゃ」
「ありがと」
火憐の尻尾は私のモノだよ!もふもふふさふさすんすん……
「わしの尻尾はわしのものじゃっ!」
ゴールがあるのとないのでは生活の質がだいぶ異なります。
生きる意味がわからない、ちょっと鬱気味、先行きが見えない。
そんな不安を抱えている人はぜひ目標を決めてみてください。
どんな小さなことでもいいんです。
明日映画を見に行く。年末に発売されるゲームを手に入れる。来年新たな小説を書く。
どうです、あなたもやってみませんか?幾分かは人生が明るく見えますよ!




