23 異世界フシギ発見!
ふぉっくす……だぁぁぁ、じゃないっ!!!
あぶねぇあぶねぇ。危うく最終回になるところだった。
しかし、尻尾の破壊力はえげつねぇわ。ケモ耳にケモ尻尾に照れ顔は反則だと思いますまる。
さて、あの後倒れて火憐に運ばれて、おそらくここは道具屋の二階、私の布団。
頭に濡れたタオルが置いてあるのは、何かの病気かと思われたからかな。
まあ、いいや。とにかく勤務初日だし、早く店に行かないと。
階段を下りて、暖簾を潜る。この先から道具屋の店内だ。
まずは何をするのかな。品出し?掃除?
「おはようございます」
「えみぃぃぃっ!」
「おぅふっ」
火憐が私の腹に飛びついてきた。30ダメージ。
火憐、めっちゃうるうる涙目。
「ちょ、ちょっと火憐、大丈夫?」
「えみ、えみこそ、大丈夫なのか!?えみが血を吹いて倒れたから、危険な病なんじゃ……」
「あぁ、ちがうちがう。あれは……その、生理現象?」
「せえり、げんしょう?よくわからんが、大丈夫ならよかったのじゃ……」
「ごめんごめん、心配かけたね」
「むぅ」
「本当にごめんってぇ」
むすっとして、ぷいっとむこう向いちゃう。かわいい。
「わかったのじゃ。でも次はやめてほしいのじゃ」
「わかったわかった、次は気をつけるよ。それでさ火憐、店は?」
「ん?まだじゃが」
「え、まだなの?私どれくらい寝てた?」
「一時間ほどじゃ」
起きたのが日の出の6時だとして、それから2、3時間は経っていることになる。起きたときには他の店はもう開いていた。
「そうだ、あそこに行くときに分けてあげるって言われた物はどうしたの?寄ったの?」
「わしが慌ててえみを抱えて帰っていくときに、寄れるわけないのじゃ」
「ごめんて」
「帰る時に、また後で行くと伝えたから大丈夫じゃ」
「……伝える余裕はあるのね」
しょうがないから後で、お詫びも兼ねて出向くとしよう。それにしてもうちの道具屋は、こんなに開店が遅くて大丈夫なのだろうか。
朝からせんせいの姿も見ていないし。まだ寝てるのだろうか。
「せんせいなら出かけて行ったのじゃ。お昼に戻ってくると思うのじゃ」
「出かけた?どこに?」
「それは」
「ただいま~!」
火憐が言いかけたところでせんせいが店の戸を開いて入場。朝からテンション高いなぁ。
「えみちゃんほどじゃないわよ~?」
「んぐっ」
「せんせい!早かったのじゃ!」
「うん、早く終わったから早く帰ってきたわ~。えみちゃんも心配だったから~」
「ごめんなさい。もう大丈夫です……」
「いいのよ~。でも、謝っておきなさい?」
「火憐には謝りました」
「火憐ちゃんじゃなくて~百引さんによ~」
「えみちゃん、大丈夫?」
せんせいの後ろからひょこっと現れたのは、向かいで野菜を売ってる百引さん。
「火憐ちゃんが、鼻から血を流したえみちゃんを背負って走ってたから。私、心配したのよ?」
「ご、ごめんなさいぃぃ!」
「怪我とかじゃないの?もしかして病気?」
「あ、いえ、あの、だ、大丈夫です!」
「そうなの?それならいいのだけれど」
「菜々ちゃん、お茶していかない?」
「いいんですか?それじゃあ……」
「なな?」
「あ、私の名前、菜々っていうの。えみちゃんには言ってなかったね」
百引さんの下の名前は菜々さんというらしい。
「菜々さんは21だったりします?それとも93?」
「え?」
「なんでもないです」
頭が数学を欲しているのかもしれない。……やめよう。
それにしてもせんせいが“ちゃん”呼びするってことは、歳は……
「20代よ。せんせいは私が子供の頃から全然見た目が」
「菜々ちゃん~?」
「あ!えっと、せんせいは永遠の二十歳です」
「ふふふ」
「……」
せんせいは一体何歳なんだ……
「ま、いいわ。とにかく入りなさい~?火憐ちゃん、お茶用意してくれる?」
「わかったのじゃ!」
「えみちゃんはそこ座って~」
「あ、はい」
店のテーブルの席に腰掛ける。……あの、お仕事は?開店は?
「それで、菜々ちゃんのところは最近ど~う?」
「それがですね……」
1時間後……
「宿の山土井さん、ご結婚されるそうなのよ~」
「ええ!そうなんですか!」
「そ~なのよ~ふふ」
さらに1時間後……
「えみちゃん、これ食べてみてくれるかしら~?」
「これはクッキーですか?」
「さすが、よく知ってるわね~。旅の商人から買ったのよ~」
「せんせいはいつもあの商人から仕入れていますよね。何か特別なんですか?」
「あの商人はね~西の方から……」
それから2時間後……
「これ、おいしいでしょう?うちで作ってるお漬物」
「ええ、とてもおいしいです」
「えみ、おかわりするか?」
「私はもうお腹いっぱいだからいいや」
その1時間後……
「あら、もうこんな時間。そろそろ上小沢さん来るから店に戻るわね」
「またいつでもいらっしゃい~?」
「はい、では。またね火憐ちゃん、えみちゃん」
「またなのじゃ」
「はい」
……仕事はっ!?
「それでは、今日はもうお店閉めましょ~」
「わかったのじゃ!」
「ちょ、ちょっと待ったあああ!」
「え、えみ、どうした!?」
「そうしたもこうしたもあるかぁっ!私のお仕事は!?」
「え?もう終わりよ~?」
「んな!?」
私、座ってせんせいと菜々さんと火憐とお喋りしながらクッキー食って、お昼喰って、片づけただけなんだけど!?商売は?ここ、道具屋だよねぇ?喫茶店じゃないよねぇ?
「今日はお客さんが少なかったのよ~」
「少ないっていうか、ゼロじゃないですか!ゼロ!」
「ぜろではないのじゃ。ななが来ておったではないか」
「菜々さんはお客さんだけど、商売としてのお客さんではないでしょうが。菜々さんだから七人ってか?面白くないわっ!」
「まあまあえみちゃん、落ち着きなさ~い?うちは毎日こんな感じなのよ~」
「ええ!?それで経営が成り立つんですか!?」
「この町の人が店の客として来ることはまずないわ~」
「だめじゃん!」
「たまに旅の人が物珍しさに寄るくらいなものよ~」
「私のお給金はちゃんと払われるんですか!?」
「もちろん、ちゃんと払うわよ~。お店の店員さんだもの~」
「あたりまえなのじゃ!」
……おかしいのは私なのか!?こんなんでお店がやっていけるはずがない。
税金があまりかからないとか?商品の単価がむちゃくちゃ高くて、1個売れれば1か月生活できます、とか?実は国から給付金が……
「まあまあ、えみちゃんは深く考えなくていいのよ~」
「いやいやいや、考えるでしょう、これは」
「わしは考えたことがなかったのじゃ」
「火憐は魔法馬鹿だからね」
「ばかじゃないのじゃ!」
「そういう意味じゃ……いや、そういう意味、か?」
「んぐぐ……」
「喧嘩はよしなさ~い?」
「はい、なのじゃ」
「とにかく、えみちゃんは心配しなくて大丈夫よ~」
「はぁ」
「ま、お店はこんな感じだから、よろしくね~?」
「は、はぁ……」
納得いかねぇ……
せんせいはこの辺では高そうな物をホイホイ買ってるみたいだし、火憐にもちゃんとお給料出してるみたいだし、私にも出すっていうし、将来上げるかもなんて言ってたし……
魔法よりもせんせいの収入の方がよっぽど不思議だわ!




